第158話 新学年
☆夕也視点☆
本日は4月6日の月曜日──始業式である。
「夕ちゃーん、ご飯出来てるよー」
部屋の外から、幼馴染の声が聞こえてくる。
「あー、今行く」
俺は大きく伸びをしてから立ち上がり、カーテンを開ける。
今日も快晴──。
「始業式から雨かよ!」
外はどんより、雨がしとしとと降っていた。
初日からこれだとテンションが下がるというものである。
まあ、天気に文句を言っても仕方ないので制服に袖を通し、通学の準備を済ませて1階へ降りる。
「おはよう、夕也くん」
「あ、おはよう夕ちゃん」
「おはよう」
幼馴染2人と挨拶を交わして椅子に座る。
今日の朝食はトマトトーストか。
「いただきます」
早速それを手に取って口に運ぶ。
「うむ、美味い」
「焼いた食パンにトマト乗せただけだよ?」
亜美が小さな口で食パンをかじりながら言う。
まあそうなんだが。 トーストの焼き加減とか色々絶妙だ。
「んぐんぐ。 ごちそうさん」
「早いよぅ……」
「ゆっくり食べなよ……」
亜美と希望は呆れたような顔で俺を見つめるのだった。
俺は気にすることもなく、コーヒーを飲む。
うぬ、朝のこの一杯が至福の時だな。
「それにしても、今日は雨か」
「昼には止むみたいだよ。 良かったねぇ」
と、亜美がジト目で俺を睨んでくる。
ん、何だ? 凄く怖いぞ。
「ど、どうしたよ?」
「つーん」
わざわざそう声に出して、そっぽを向いてしまう亜美。
全く心当たりがないので、希望に助けを求める。
「んと、今日の午後から夕也くんと2人で出かけるって言ったら、こうなっちゃって……」
「つーん」
んー……なるほどな。
どうやら、今年も誕生日プレゼントを買いに行くというのは内緒らしい。
さすがに気付いても良いと思うんだが。
「その、昨日約束してなぁ」
「あっそ」
「亜美ちゃん……」
「むぅ……」
しばらくは機嫌が直りそうもないなぁこりゃ。
俺は、なおも不機嫌そうにトーストをかじる亜美を見て、溜め息をつくのだった。
◆◇◆◇◆◇
俺達は傘をさして通学路を歩く。
亜美は少しは機嫌を直したようで、普通に会話はしてくれるようだ。
少し歩くと、十字路で3人の人影が見えてきた。
いつもの2人にもう1人増えている。
そうか、今日から一緒に登校すんのか。
「おはよーございます! 先輩方!」
そのもう1人が元気よく挨拶してくる。
「おう、おはよう麻美ちゃん」
「おはよー。 麻美ちゃんいつも通りでいいよ?」
「おはよう麻美ちゃん。 元気だね」
麻美ちゃんは奈々美の妹で、今日から月ノ木学園に通う新1年生。
このようにとても元気な女の子である。
顔は奈々美とは違い、可愛い系。
髪の色は同じように金髪だが、長さはせいぜい肩にかかるぐらいである。
そしてとにかく元気である。
「じゃあ、行くか」
宏太が促し、俺達もそれに続いて歩き出す。
「夕也兄ぃと希望姉別れちゃったって本当?」
「う、うん」
早速シビアな話題に切り込んでくる。
遠慮なしだなぁ。
「なんだか複雑な関係なんだってね」
「そうだね。 三角関係ってやつだね」
「それぐらいにしときなさいよ麻美。 結構シビアな話題なんだから」
奈々美が止めに入る。
こういうところはやはり姉である。
麻美ちゃんも「はーい」と、話題を切上げた。
「クラスどうなるかなー?」
次の話題は新しいクラス分けがどうなるかである。
去年も似たようなことを話していたな。
1年時は奇跡的に5人同じクラスだったが、今年はどうなるだろう。
「さすがに2年連続、皆同じとはいかないでしょうねぇ」
「それだとご都合展開過ぎるからなぁ」
奈々美と宏太がそんなことを口走ると、亜美は「そんな事無いと思うけどなぁ」と、少し不満を漏らすのだった。
亜美はまた皆一緒になれると思っているようだ。
何とも考えの甘い奴である。
「そだ、麻美ちゃんはバレー部だよね?」
亜美が思い出したように、麻美ちゃんに訊いている。
そういえば、中学時代もバレー部だったな。
「もちろん! 高校でもお世話になります!」
「あははは、よろしくね」
麻美ちゃんも、姉の奈々美に負けず劣らずの運動神経の高さをしている。
きっと活躍するだろうな。
俺達は月ノ木学園の校門をくぐり、掲示板の方へ向かう。
「1年生はあっちみたいよ?」
「本当だ! じゃあ行ってくるね! また部活でー」
麻美ちゃんは手をぶんぶんと振って駆けて行った。
何というか騒がしい子である。
毎朝賑やかになりそうだ。
「さて、2年生のクラス分けはっと」
掲示板を見上げてA組から順番に確認していく。
A組1番に藍沢奈々美を見つけた。
さらに見ていくと、宏太と遥ちゃんと奈央ちゃんの名前も見つかった。
残念ながら5人は別れてしまったらしい。
「しょぼーん……」
亜美は声に出して落ち込んでしまった。
本当に5人一緒になれると信じていたようだ。
世の中そんなに甘くはない。
「あらら、離れちゃったわね」
「残念だが仕方ねぇよ」
そう言って、俺の名前を探すと、B組に見つけた。
他はいないか見ていくと、紗希ちゃん、亜美、希望と固まっていた。
なんだ、これだけ固まってれば亜美も寂しくないだろ。
隣の亜美を見てみると……。
「えへへー」
すでに笑顔になっていた。
何ともわかりやすい奴である。
「おー、亜美ちゃん達と一緒だ!」
「あ、紗希ちゃんおはよう」
「うん、おはよー」
同じクラスになった紗希ちゃんと、亜美が手を握り合って喜んでいる。
紗希ちゃんとは中2の頃に一緒になったことがあったな。
「じゃ、ここで解散しましょう。 またあとでね」
「うん」
A組とB組に別れて、一度教室へ向かう。
2年の教室へ入ると、去年と同じように黒板に席順が書いてある。
出席番号2番の俺と7番になった亜美はまた席が隣になった。
「えへへー、夕ちゃん今年も隣だね。 よろしくー」
「あいよー」
亜美の前の6番は紗希ちゃんで、またここに固まってしまった。
そして……。
「はぅ」
出席番号が後ろの希望だけが、1人離れた位置に座りこちらを羨ましそうに見ているのだった。
俺達の友人グループは大体「あ」~「さ」ぐらいの比較的前の方に位置する苗字なのだが、希望は「ゆ」だからな。
「さて、どんな1年になるやら」
「楽しくなるよー。 2年生は6月に修学旅行入ってるし同じ班になろうね?」
「なろーなろー!」
そう、月学は2年生で修学旅行へ行き、3年には無い。
受験に集中する為である。
4人で駄弁っていると、放送が流れてくる。
「全校生徒は、体育館に集まってください」
どうやら始業式が始まるようだ。
俺達は話を切上げて、体育館へ向かう。
2階からだから、体育館までの距離が伸びたのは少し怠いな。
◆◇◆◇◆◇
体育館では学園長が、去年も聞いたような話を長々と続けている。
退屈になった生徒の大半は、天井を見上げて天井の蛍光灯の数を数え始めていた。
そうやって苦痛な時間を耐え凌ぎ、解放される頃には蛍光灯の数を数え終えて半分眠りかけているのだった。
クラスに戻ってきてHRが始まる。
今年も委員決めが始まるが、去年も委員長をやってくれていた二見がスムーズな進行でサクッと決めてくれた。
優秀な人である。
あとは、年間スケジュールを説明されて、この日のHRは終了。
時間までは自習時間となり、授業終了まで机に突っ伏して寝ることにした。
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