第156話 お花見

 ☆希望視点☆


 今日は4月5日の日曜日で天気は快晴。

 亜美ちゃんが提案したお花見の日だよ。

 私と亜美ちゃんは、朝から重箱にお弁当を詰めている。


「ふんふーん」

「楽しみだね亜美ちゃん」

「うん」


 亜美ちゃんは鼻歌なんかを歌いながら、とてもご機嫌だ。

 私もそうだけど、皆と一緒にいる時が何より楽しいのだろう。

 

「こんな感じかなぁ」

「うん。 上出来だね」


 お弁当が完成したので、残りのおかずを持って夕也くんの家に向かう。

 今日の朝食はこの弁当の残りだ。


 夕也くんの家で軽く朝食を食べた後、私達は待ち合わせ場所である駅前に向かった。


 ◆◇◆◇◆◇


 駅前に着くと、先に奈々美ちゃんと佐々木くんが来ていた。

 他のメンバーはまだみたいである。


「おはー」

「おはよー奈々ちゃん」

「うーっす」

「おう」


 いつも通り軽い挨拶を済ませる。

 私達5人はいつもこんな感じである。

 奈々美ちゃんも、何か包みを持っていることから、お弁当を入れてきたことが窺える。


「花見楽しみだけど、場所取りとか大丈夫?」

「大丈夫よー」


 どこからか、奈央ちゃんの声が聞こえてくる。

 振り向くと、後ろに奈央ちゃんと紗希ちゃんと遥ちゃんがいた。

 紗希ちゃんは手をわさわささせていることから、私の胸を背後から触るつもりだったのかもしれない。

 油断も隙もないよ。


「大丈夫ってどういうこったよ?」

「奈央ったら、お花見が決まった途端に使用人に場所を取らせたみたいよ」

「ええっ?!」

「やりすぎでしょ……じゃあ今頃使用人さん待ってるんじゃ?」


 そうだよね。 しかも決まった途端ってことは、昨日からずっと場所取りしてるって事じゃ?


「待ってるわけないでしょ? 土地を買い取って、良さげな場所に敷物敷いて『西條家お花見予定区画』の札立てておいてって言ってあるわ」


 皆、口をあんぐりと開けて言葉も出ないと言った感じになっている。

 想像していたよりやりすぎていた。 まさか今日の為に土地まで買っているとは思わなかった。


「どうしたのよ」

「う、ううん。 そ、それより行こう?」


 亜美ちゃんが促して、私達は駅の改札を通過する。

 目的地は都市部にある、湖のある公園。

 あそこはこの辺りでも桜が綺麗で、花見スポットになっている。

 電車に乗り込み一路市内へ。

 ダメ元でボケねこショップに寄ろうと提案すると、紗希ちゃんは大賛成してくれたが、他の皆には反対されてしまった。


「はぅ……」

「希望ちゃん、今度2人で行こう!」

「うんっ」

「結構通ってるだろ? 良く飽きないよな2人とも……」


 夕也くんが呆れたような顔見つめてくるけど、好きなんだししょうがない。

 電車の中では、大人しく座る私達。

 隣に座る亜美ちゃんと、小声でお話をする。


「亜美ちゃん、向こうで夕也くんとボートに乗らない?」

「ん? でもあれ2人用でしょ?」

「だから順番に」

「うーん、私は良いけど夕ちゃんがどう言うか。 それに、せっかくみんなでお花見してるんだし、皆で楽しもうよ」

「んー、それもそうだけど。 んー……わかった」


 仕方なく今日は諦めよう。

 亜美ちゃんは大人だなぁ。 夕也くんとの2人の時間よりも皆との時間を優先できるのは偉いよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで、湖のある公園にやってきた私達。

 奈央ちゃんの家の使用人さんが取っておいてくれた場所へ移動する。

 本当に札が立っていた。 奈央ちゃん凄すぎる。

 使用人さんが取った場所は最高のポジションで、公園内でも最も大きい桜の木の前かつ、高台になっており、公園内の桜を上から見下ろす事も出来るし、日の光を受けて煌めく湖も一望できる。

 周りには他のお客さん達もいて、とても賑やかだ。


「じゃあ、早速始めましょ」

「幹事は主催の亜美ちゃんねー」

「はーい。 えーっと、今日は急な呼び出しに応じて参加してくれてありがとう。 お花見を目一杯楽しみましょー! かんぱーい」


 亜美ちゃんの挨拶で、お花見がスタートした。

 皆が作って来たお弁当を披露し始める。


「おお、すげぇ弁当の山だ!」


 佐々木くんが、並べられたお弁当を見て目を輝かせている。

 尚、遥ちゃんは料理があまり得意ではないので、お弁当は持ってきていないようである。

 料理練習すればいいのになあ。


「一杯あるから慌てずに食べてね」

「いただきますー」

「ジュースもここに一杯あるからねー」


 私は、すかさず夕也くんの隣に陣取り、私と亜美ちゃんが入れた弁当を広げる。


「希望ーグイグイいくわね」

「常に戦いの中にあるからね!」

「がっついちゃってもう……」


 とか言って、亜美ちゃんもしっかり夕也くんの隣をキープしている。


「美味ぇ」

「この出汁巻きは誰のだ?」

「私のでーす」


 夕也くんと佐々木くんが絶賛しているのは、紗希ちゃんが作った出汁巻き玉子だ。

 私も1ついただいてみたが、本当に美味しい。

 出汁に秘密がありそうだが、教えてくれなかった。


「いやー、神崎は良い嫁さんになるな」

「当たり前じゃーん」


 謙遜しないあたりも、さすが紗希ちゃんである。

 それにしても、皆料理上手いんだなぁ。

 私も、亜美ちゃんに教わって多少はマシだけど、まだまだ皆には及ばないよ。


「本当、桜綺麗に咲いてるわねー。 うちの庭にも桜並木作ろうかしら」


 奈央ちゃんが、また異次元な発想を口走っているが、亜美ちゃんの「冬は寂しいよ」という発言で、奈央ちゃんも我に返ったようだ。


「そうだわ、桜をバックに皆で写真を撮りましょう。 春人君にも送りたいし」

「あー、良いね。 お弁当食べたら撮ろう」


 2月末から始まった、奈央ちゃんと春人くんの遠距離恋愛は、上手く続いているみたいだ。

 凄いなぁ、私なら寂しくて堪えられないかもしれないよ。


「しかし、この桜の木は立派だよなぁ」


 夕也くんが、私達が座っている目の前にある桜の木を見上げて、しみじみと呟く。


「この公園で一番立派だよね」

「そうね」


 きっと、凄く昔からここに立っているんだろうね。

 何人ものお花見客を、ずっとここで見てきたに違いない。

 

「あ、希望ちゃんの肩に虫が」


 亜美ちゃんに言われてふと肩の方を見てみると、芋虫さんがこちらを向いて、こんにちはしていた。


「は、はぅーっ?! 取って! 夕也くん取ってーっ!」


 パニックになって、夕也くんの背中をバシバシ叩いてしまう私。

 夕也くんは「痛い痛い」と言いながら、私の肩を払ってくれた。

 

「あはははっ、希望ちゃん怖がり過ぎだよ」


 亜美ちゃんが笑って、唐揚げを頬張りながら馬鹿にしてきた。

 怖いものは怖いんだから仕方ない。


「背中痛ぇ……」

「ご、ごめんなさい」


 多分、かなり本気で叩いたから本当に痛いのだろう。

 痣になったりしないだろうか?


「ヒリヒリする」

「本当にごめんなさい」


 私は平謝りするしかなかった。


「夕也、それぐらいで許してあげなさいよ。 希望泣きそうじゃない」


 奈々美ちゃんがそんな事を言うが、別にそんなことはない。


「ちょいとヒリヒリするが、気にしなくて良いぞ希望」

「う、うん」

「奈々美の馬鹿力で叩かれたら、それどころじゃないからな」

「何か言ったかしら宏太? お望みとあらば背中でも叩いてあげましょうか?」


 奈々美ちゃんは笑顔ではあるけど、声が全然笑っていない。

 佐々木くんも、余計なこと言わなきゃ良いのになぁ。

 そう思って、佐々木くんと奈々美ちゃんの夫婦漫才を見ていると、紗希ちゃんが全く別の事をを話し出した。


「あ、そういえば! もう直ぐ亜美ちゃんの誕生日じゃん! 今年も誕生日会やるの?」


 そう、あと5日後には亜美ちゃんの誕生日なのだ。

 プレゼントをまだ用意出来てないんだけど、どうしよう?


「ま、また誕生日会やるの?」

「パァーッと騒ぎたいじゃん!」

「そーだそーだー」


 紗希ちゃんと奈央ちゃんが、声を上げる。

 やっぱり騒ぎたいだけなんだね。


「あ、あはは……じゃあ、今年もやっちゃおっか」

「イェーイ!」


 結局、また誕生日会をやる事になったのだった。

 もう何回目だろう?

 楽しいから良いんだけど。


「それなら、場所は私が決めても良い?」


 珍しく奈央ちゃんが、場所決めをするらしい。

 夕也くんの家ばかりだと悪いからだそうだ。

 奈央ちゃんの事だから、きっととんでもない場所を用意するんだろうなぁ。


 そんなこんなでお弁当も粗方片付き、皆で談笑したり「さくらさくら」を合唱したりして、時間が過ぎていった。

 皆といると、時間が経つのを忘れてしまう。

 そんな中、亜美ちゃんがこんな事を言い出した。


「暖かいねぇ。 眠くなってきたよ……というかちょっと寝よ」

「え、ここで?!」

「うん。 んじゃおやすみ」


 そう言ったと思うと、すぐに横になり目を閉じる。


「あ、亜美ちゃん……」

「マイペースな奴だな」


 夕也くんは苦笑いしながら、そんな亜美ちゃんのほっぺたを突いて遊んでいる。

 でも、亜美ちゃん気持ち良さそうだなぁ。


「見てるこっちまで眠くなってきたわ……私も寝ようかしら」


 奈々美ちゃんまで横になり、それを皮切りに皆も一緒になって横になり出した。

 他の人達が見たら何事かと思うような光景である。


「み、皆寝ちゃった?」

「俺は起きてるがな」


 夕也くんは、相変わらず亜美ちゃんで遊びながらそう言った。


「……」


 そうだ、皆寝ちゃったし、2人でボートに乗らないか誘ってみよう。


「夕也くん」

「うん?」

「皆寝ちゃったし、その……2人でボート乗らない?」

「ボートか?」


 夕也くんは、静かになってしまった宴席をチラッと見たあと、私の顔を見て頷いた。


「じゃあ、ちょっくら行きますか」

「やったー」


 私達は、皆を起こさないようにゆっくりと移動した。

 付き合っていた頃に、一度乗った事があったっけ?

 少しドキドキしながら、ボート乗り場へ向かう。

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