第128話 お揃い
☆夕也視点☆
1月19日の日曜日──
今日は前から約束していた、亜美が失くしたネックレスの代わりを買いに出掛ける事になっている。
希望も連れて行くので、3人での買い物。
結構久し振りかもしれないな。
亜美と希望は、昼飯を食べながら今日の予定を立てている。
せっかく出掛けるんだから、色々見て回らないと勿体無いという事らしい。
「ペットショップとかも良いね」
「亜美ちゃんは猫が好きだもんね」
「そうなんですね。 僕もアメリカの実家で2匹飼ってますよ」
「えっ? 初耳!」
春人がスマホを取り出して、写真を見せている。
亜美と希望は、きゃーきゃー言いながらそれを奪って見入っている。
「春人、悪いな。 留守番任せちまって」
「いえ。 暇になったら出掛けますから気にしないで下さい」
春人も、ここでの生活にだいぶ慣れたな。
でも、後1ヶ月もすればこいつは……。
最初は面倒だと思ったものだが、仲良くなってみると別れが寂しくなるもんだな。
「春人、お前も来るか?」
つい、そんな事を口に出す。
春人は目を丸くした。 しかし、すぐに首を横に振り。
「いえ、僕は結構ですよ。 またの機会に」
「ありゃ、夕ちゃんフラれたね」
「だな」
「また、皆でお出掛けしようね」
希望の言葉に春人は、笑顔で頷いて「はい、必ず」と応えた。
◆◇◆◇◆◇
昼食後、少しの間休憩を挟んだ後3人で家を出る。
亜美は、俺の上げた白いマフラーを首に巻いて「ぬくぬくだよー」と、声に出す。
希望はそれを見て「羨ましいなぁ」と呟いた。
亜美にだけ上げたからなぁ。
そして、俺の首に巻かれているマフラーも、亜美の手編みである。
「私も何か編めば良かったよ」
「あはは、もう遅いよー」
「むぅ……」
希望がちょっと不憫に思える。
しゃーない。
「希望、今日はお揃いのセーターでも買うか?」
「!」
「お、良かったねぇ希望ちゃん」
「良いの? アクセサリーだけじゃなくて?」
「特別だ」
「やったー」
嬉しそうに微笑む希望。 それを見た亜美も、優しく微笑む。
いつまでもこんな2人を見ていたいと、そう願う。
「夕ちゃん? 難しい顔してどうしたの?」
「ん? 何でも無い」
「そう? なら良いけど……」
亜美は、それ以上は言及してこなかった。
もしかしたら、何を考えているのか既に気付いているのかもしれない。
「ペットショップも行くなら市内まで出る?」
「あのネックレス買ったのは隣町だぞ」
もう売ってないかもしれないが。
亜美は「同じのには拘らないよ? 夕ちゃんが買ってくれるなら」と、言うが……。
「わかった。 市内まで出よう」
「OK〜」
「切符〜」
市内までの切符を3人分買い、改札を抜ける。
しかし、希望とペアのアクセサリーじゃなくても良いのか……。
市内に到着すると、希望はいつものようにボケねこショップに行こうとする。
その希望の首根っこを掴む亜美。
「はぅ、はぅ、ボケねこさんが呼んでるー」
「後で行こうねー。 先に買い物済ませるよー」
希望は涙を流しながら「か、必ず行くからね、ボケねこさん」と、手を振っている。
そんなに好きか……。
もはや、お馴染みとなったショッピングモールへやってきた俺達。
雑多な店が並ぶ中、リーズナブルなアクセサリーを扱う店に足を踏み入れた。
何かアクセサリーが欲しい! けど、お金が……という層をターゲットにした店であり、亜美や希望のような女子高生が多いようだ。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると、朗らかな笑顔の店員さんが出迎えてくれる。
俺は、亜美と希望の後をついていくことにした。
まずは、ネックレスコーナーを物色する事にしたらしい。
「あっ! これ!」
色々なネックレスが並ぶ中、希望が指を指したのは、俺が去年2人にプレゼントした物と同じ物だった。
何処にでもある物なんだな。
亜美は迷わずにそれを手に取り「失くしちゃってごめんね、おかえり……」と、呟いた。
亜美を連れて、会計へ向かおうとした時、ふとブレスレットコーナーが目に入った。
絆ブレスレット?
何だそれ。
「夕ちゃん?」
「ん? あぁ、ちょっと待ってくれ」
吸い寄せられるように、そのブレスレットコーナーへ向かう。
そこには、小さな石が一つだけ付いた、何の変哲もない普通のブレスレットが置いてあるだけ。
石はパワーストーンなのだろうか?
「友達、家族、恋人、大事な人とペアブレスレットで絆を深めませんか?」
後ろからついてきた亜美が、小さな手書きの看板の文字を読み上げる。
「あー、希望ちゃんとペアブレスレットしたいんだ?」
「いや、そうじゃない」
「え? 違うの?」
「あ、いたいた。 会計済んだの?」
希望も後ろからやってきて、看板に目をやると、小首を傾げた。
「3人で同じブレスレットしたいね?」
「え? 私も?」
「だって『大事な人と』でしょ?」
「そうだな……買うか、3人で」
「うんっ」
「わかったよ」
俺達はそれぞれがブレスレットを手に取る。 かなり安価である。 貧乏学生に優しいお店ですな。
ブレスレットはそれぞれ自腹を切ることになり、俺は亜美のネックレスと自分のブレスレットを会計に持って行った。
店から出た俺は、亜美にネックレスを渡し、去年と同じように「着けてほしい」と言われたので、後ろに回り着けてやる。
「ありがと。 もう絶対に失くさないからね」
「おう」
「またお揃いだねっ」
「うん」
2人で同じネックレスを見せ合う光景は、とても微笑ましい。
そして3人の腕には、新たにお揃いのブレスレットが着いている。
「いいねっ」
「何だか3人が繋がってる気がするね」
亜美と希望が、手を前に出してブレスレットを眺める。
こんな安物で絆が深まるなら儲け物だ。
2人は俺を挟むように左右に立ち、手を握ってくる。
「じゃあ次行こ」
「うん、ペットショップだね」
ショッピングモールを練り歩き、ペットショップで可愛い動物達に目を輝かせる2人。
亜美は、ネコを抱かせてもらい最高に幸せそうな顔をしていた。
途中、希望と約束したペアルックのセーターを買い、どうしても行くと言って聞かないボケねこショップへ足を向ける。
相変わらずボケねこに目が無い希望と、何が可愛いのか分からない俺と亜美。
「これの何処が良いんだろうな?」
ぬいぐるみを1つ手に取り、まじまじと見つめる。
このバカ面を見ていると腹が立ってくる。
「でも、凄く人気みたいだよ?」
店内を見ると、若い女性がかなり多い。
何でこんな人気なんだよ。
希望は、色々なグッズを見ては財布と睨めっこしている。
可愛い奴め。
「希望、どれが欲しいんだ?」
「あ、夕也くん。 欲しいけど我慢する」
どうやら財布の中身は厳しいらしい。
俺もあまり持ち合わせは無いが……。
「お姉ちゃんが買って上げようか?」
亜美が後ろから声を掛けてくる。
それに対し希望は、首を横に振る。 お金を貯めて自分で買うとの事だ。
亜美も「そっかそっか」と、頷いてグッズを見始めた。
ボケねこショップを出た後は、3人でフードコートに入り、軽く休憩を挟む。
「俺達って、こういう関係でいるのが一番良いのかもな」
「んん? こういう関係?」
「どういう事?」
飲み物を飲みながら、不思議そうに見つめる2人。
「何つーか、恋人とかそう言うのじゃなくて、仲の良い幼馴染の関係みたいな?」
「んー、居心地は良いよね」
亜美が同意する。
「そうだね。 前からこんな感じだしね」
希望も同意する。
「もし……もし俺がどちらか1人と生きていく事を選んだら、この関係はどうなるんだ?」
「どうなるって……変わらないんじゃない? 大体、今がその状態でしょ?」
「そうだよ。 私と付き合ってるんだから」
2人は「何を言ってるの?」みたいな顔をしている。
希望と付き合っているのはそうだが、最近は亜美との関係も、恋人のそれと変わらないような感じになりつつある。
この二股状態のままで本当に良いのか?
「夕ちゃん、もしかして二股状態なのを気にしてる?」
「そうなの?」
亜美には1度話した事があったな。
その問いかけに、俺は小さく頷いた。
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