第114話 退屈しのぎにショッピング

 ☆亜美視点☆


 1月2日(木)

 朝、夕ちゃんの家に行き、今井家式お雑煮作ってお昼御飯も作って来た。

 ちなみに今井家式お雑煮は、白味噌にお餅が入っているだけである。 楽々である。

 うーん、それにしてもお正月は退屈だなぁ。 1人で何処かに出掛けようかなぁ?

 今朝、夕ちゃんからも特に誘われなかったし、私から誘うのは負けた感じがするし……。


「うーーーーん。 よし出掛けよう!」


 私はベッドから起き上がって着替えようとした時であった。

 スマホに着信──。


「ゆ、夕ちゃんからだ!」


 私は期待に胸を膨らませながら通話をタップする。


「もしもし」

「おう。 亜美、どっか行こうぜ。 退屈すぎる」


 フィーッシュ!!


「うんっ、いこいこ! 私も退屈で、今から出掛けようと思ってたところなの」


 やったぁ! 夕ちゃんからお誘い来たよぉ!

 これは夕ちゃんが誘ってきたから、私の勝ちだよね!

 何の勝負かは、自分でもよく分からないけど。


「じゃあ、準備出来たら家の前で集合な」

「うん」


 通話を切って、急いで出掛ける準備をする。

 軽くメイクをして、お気に入りのベージュのコーデセットを着て、夕ちゃんから貰ったネックレスをして……。


「よし」


 姿見の前で最終確認して家を出る。



 ◆◇◆◇◆◇



「お待たせ、夕ちゃん」

「おう、行くか」


 特に目的地を決めずに、とりあえず歩き出す。


「そういえば春くんは?」

「あいつは奈央ちゃんに誘われて出て行ったんだよ」

「ほうほう」


 私が春くんをフッてからそれほど日が経っていないけど、春くんの気持ちの切り替えは出来たのだろうか?

 奈央ちゃんも中々激しいアタックを繰り返しているようだ。

 2月末までしか時間が無いから相当焦ってるんだね。


「どうなるだろうね、あの2人」

「さあな。 春人も切り替えられたのかどうかわからんしな」

「まだ、私に気があるかもってこと?」

「それはないと思うが。 すぐに次の女性って言う風には開き直れないんじゃないかって事」

「そっか……」


 確かにそれはそうかもしれない。

 奈央ちゃんも頑張ってるけど、果たして春くんを振り向かせられるんだろうか。

 

「まあ、温かく見守ってやろうぜ」

「うん」


 春くんには、ちゃんと幸せになってほしいもんね。 フッておいてなんだけど……。

 それより──。


「どこ行く?」

「さぁ、特に決めてないけどな」

「じゃあ、ショッピングモールでも行こっか」

「了解」


 夕ちゃんも頷いて、私達は駅へ向かう。

 一路、市内にあるショッピングモールへ向かうことにした。

 夕ちゃん的には希望ちゃんとも行ってるだろうし、飽きてるかもしれないけど。


 もはや乗り慣れてしまった電車に乗り、空いてる席に座る。

 

「夕ちゃんはさ、希望ちゃんと私どっちが好き?」

「……またいきなりだな」

「あはは……そろそろ私も焦ってるんだよ」

「そっか……」


 夕ちゃんは「そうだなぁ」と小さく呟くと──。


「最低な奴だって思うかもしれないけど、どっちも好きだ。 マジで」

「まだ、選べないってこと?」

「そうだな……今んとこそんなとこだ」


 まだまだ、私の方に傾いてはくれてないのね。

 頑張ってるんだけどなぁ。


「もうちょっと強引に行こうかなぁ」

「勘弁してくれよ……」

「嫌だよー。 夕ちゃんに直接フラれるまでは諦めないもん」

「きっついなぁ」


 夕ちゃんはそんな事を言うけど、だからと言って私をすぐにフッたりしようとしないあたり優しい。


「ふふっ……大好き」

「はいはい」


 恋人でもないのに、私はイチャイチャする。

 そんなこんなしながら、市内へ到着した私達は、早速目的のショッピングモールへ向かう。

 モールは2日だというのに賑わっていて、そこらじゅうの店で新春福引をやっていたり、福袋なんかも売っている。


「凄いねぇ!」

「んだな。 これなら暇も潰せそうだな」

「よぉし、まずはアクセサリー見に行くよ」

「お前、キラキラした装飾は好きじゃないって言ってただろ」

「そうだけど、福袋とかあるかも」

「高そうな福袋だな」

「そんな事ないでしょ」


 アクセサリ―ショップに入ると、入り口付近に福袋が鎮座していた。

 5000円袋、10000円袋、100000円袋の3種類が置いてあった。


「100000円はすごいなぁ」

「買う奴いるのかよ……」

「どうだろうね?」


 私は10000円袋を手に取る。


「おい、買うのか?」

「うん。 手持ちはあるし」


 財布の中身はそこそこ入っているので問題ない。

 元が取れるかは知らないけど、こういうのは開ける時のドキドキを楽しむものだと思っている。

 福袋を持ったまま、安いアクセサリーを見て回る。


「……」

「どしたの夕ちゃん?」


 黙って私の後ろについてくる夕ちゃん。 なんか顔が固まってるけど。


「いや、これ欲しいなぁとか言い出さないかと思って」

「言わないよ?」

「そうか」


 顔が少し安堵したようだ。

 お金が無いのかな? それとも──。


「私なんかに、プレゼントしたくなかったとか?」

「そんなことはないぞ? 金が無いだけだ」

「そうなんだ?」


 良かったぁ。 ちょっと聞くの不安だったけど……。

 夕ちゃんは「ごめんな」と言ってくれた。

 別に、今は買ってほしいなんて言わないけど。 今はね。

 もし、夕ちゃんが私の事を選んでくれたらその時は……左手の薬指にはめる指輪をおねだりするけど。

 最近、奈々ちゃんが見せびらかしてくるんだよねぇ。


「よし、会計してくるね」

「おう」


 一旦夕ちゃんと別れて、会計で福袋を買う。

 帰ったら開けよう。 何が入ってるだろう?


「お待たせ」

「おう」

「次どこ行く? 夕ちゃんは見たいものある?」

「あぁ、スポーツ用品店行って良いか?」

「うん、いいよ」


 アクセサリーショップに付き合ってもらったし、次は夕ちゃんの見たいものを優先する。

 昔から、こういうことは交互にやってきた。 だから、あんまりケンカになったこともない。

 私と夕ちゃんがケンカしたのは本当に数えるほど。

 そして、去年末に起きたあの仲違いが、今までで最大の物だった。

 だからとても辛かったのだ。


 私達はショッピングモールを歩いて、御用達のスポーツ用品店に向かった。

 

「いらっしゃい。 お、亜美ちゃんと夕坊じゃねぇか」

「うっす」

「夕坊、全国制覇したな!」

「おう、やってやったぜ」


 夕ちゃんも私も、昔からこの店にはお世話になっている。

 部活関係の物を買う時は毎回ここ。


「で、今日はどうした?」

「冷やかしだよ冷やかし。 金無いんだ」

「冷やかしかよ! 亜美ちゃんは?」

「私も……」


 それに、今は別に買い換えるようなものは無い。

 バレーシューズもまだまだ使えるし。


「金があったらバッシュ買い換えたいんだけどなぁ」

「金の無い奴には売れんぞぉ」

「わーってるよ!」

「あはは。 夕ちゃんバッシュ欲しいの?」

「結構、傷んできたからな」

「そっかそっか」


 夕ちゃんはバッシュコーナーをゆっくりと見ながら「ふうむ」と考え込んでいた。

 バッシュもピンキリだねぇ。

 10000円から高いので100000万まであるよ。

 夕ちゃんは、そのうちの1つであるシューズを手に取る。


「おっちゃん、これ取り置きしといてくれないか? 金貯まったら買うよ」

「ふむ。 全国区選手に言われちゃあしゃーねぇな。 いいぞ」


 おじさんはそう言うと、予約済みと書いて、会計の裏に持って行った。

 私は値札を確認する。

 35980円……。

 結構な値段だね。


「金貯めないとなぁ」

「そだね」

「早めに買いに来いよぉ」

「おう! じゃあまた来るわ」

「またね、おじさん」


 夕ちゃんのバッシュを予約だけして、スポーツ用品店を後にした。

 次はどこ行こう?

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