第82話 月ノ木祭
☆亜美視点☆
私と希望ちゃん、そして真鍋さんの三人は女子更衣室で、コスプレ衣装に着替えるところだ。
それぞれ、奈央ちゃんから受け取った袋から衣装を出す。
「うわわ! 何これ?」
メイドの服みたいなものはわかる。
それにプラスして何かヘアバンドのようなものが入っている。
良く見ると耳が付いている。
「猫耳?」
「清水のさんのは猫耳メイドさんかぁ」
「うーん……まぁ、えっちなのじゃないだけましかぁ」
私はとりあえずメイド服を着て、猫耳を付けてみる。
服のサイズも何故かぴったりである。
「真鍋さんはナース?」
「そ、そうみたい」
白衣の天使コスチュームの真鍋さんは、顔を赤くして「おかしくない?」と感想を求めてきた。
はっきり言って凄く似合っている。 奈央ちゃんの見立ては凄いなぁ。
「希望ちゃんは、普通のメイドさん? それとも耳付き?」
「……短いの」
「え?」
「スカートすっごく短いの!」
パッと、衣装を広げて見せる希望ちゃん。
デザイン自体は、私の着てるメイド服と変わらないのだけど、スカートの丈が異様に短い。
これは際どいよ!?
「ハイソックスとミニスカ? 絶対領域っていうやつ?」
「はぅ……」
希望ちゃんは観念してそれを着る。
やっぱり凄く短い。 前屈みになったら後ろから見えそうだけど大丈夫かな? 一応確認しておいた方が良いよね。
「希望ちゃん、こっちに背中向けて前屈みになってみて?」
「うん」
言われたようにポーズを取る希望ちゃん。
おー、ギリギリ見えないレベルで調整されてるけど、ちょっと下から覗けば見えそうだよ……。
「下にジャージ穿いた方が良いかも」
真鍋さんが提案するが、せっかく用意してくれた奈央ちゃんに悪いからこれで頑張ると、希望ちゃんは覚悟を決めたようだ。
私達は、着替えを終えて1-Bの教室へ戻る。
目立つ所為か、廊下を歩いてると男女問わず私達の姿を見て振り返っていた。
「女子組ただいま戻りましたー!」
勢いよく扉を開けて、教室に入ると。
皆が「おかえりー」と声を掛けた後に「おおー! 可愛い!」と、女子一同に褒められてしまった。
男子もなんだか鼻の下が伸びているようだ。
「雪村さん攻めたねー!」
「はぅぅ……奈央ちゃん、これ短すぎるよぅ」
「希望ちゃんにはそれが一番ですわー」
意地悪な笑みを浮かべて希望ちゃんにそう言う奈央ちゃん。
その奈央ちゃんは午後からなので、今はまだ制服を着ている。
「よぅ、希望のはえろいな」
「ゆ、夕也くんっ!」
「えろいとか言わないでぇ」と胸をぽかぽか叩いている。
可愛いなぁ。
「亜美は猫耳メイドか?」
「うん、そうだよ。 可愛いでしょ?」
猫ポーズを取って夕ちゃんに見せてあげると「おお、可愛いな。 家に一匹欲しいぜ」と言って頭をなでなでしてくれた。
これ久しぶりだよぉ。
「似合ってんじゃない」
「ほんとに可愛いな」
奈々ちゃんと宏ちゃんも、私と希望ちゃんを見て絶賛している。 奈々ちゃんはどんな衣装なんだろう? 午後が楽しみだ。
「亜美ちゃん、語尾に『にゃ』を付けるようにしてくださいね」
「えっ?」
「猫耳着けてるんだからそう言うの大事ですわよ」
奈央ちゃんに数分間の演技指導を受けて、猫耳メイドキャラが完成した。
同様に希望ちゃんと真鍋さんも指導を受けてキャラ作りしている。
というわけで、月ノ木祭が始まったのである!
◆◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませー! コスプレ喫茶『月姫』でーす! 皆さんゆっくりお茶でもいかがですかー!」
開始直後、呼び込みを開始する呼び込み担当。
「おい、午前中は清水さんがフロアに出てるらしいぞ! 行くしかねぇ!」
「今井君がホスト衣装で接客してくれるらしいよ! 行かなきゃ!」
わずか数分で、行列ができるほどの盛況ぶりになってしまった。
ただ、クラスの皆は想定していたのか慌てる様子は無く、淡々と行列を捌いていく。
「清水さんと今井君がいる時点でこうなるのは織り込み済みだからね」
委員長の二見さんが、私とすれ違いざまにそう言ってきた。
夕ちゃんも学園内の女子人気は高い方だしねぇ。 希望ちゃんもそうだし。
二人も接客が大変そうだ。
特に希望ちゃんは人見知りが発動して、小さくなっている。
「お、おかえりなさいませ……ご、ご主人様。 ご注文は……?」
「雪村さん可愛いねえ、僕と飲まない?」
「はぅ……す、すいませんご主人様。 私は今お仕事中ですので……」
「はいはい、うちの店はナンパ禁止ですにゃー」
困ってる希望に助け舟を出す。
希望ちゃんは「ありがとう、亜美ちゃん」と小声で言う。
まったく、この子はぁ。
「清水さんは猫耳メイド? 可愛いね」
「あはは、ありがとにゃ。 注文はどうするにゃ?」
「アイスカフェオレを1杯」
「かしこまりですにゃ!」
猫なりきりプレイ結構疲れるなぁ。
希望ちゃんはまた、別の席の注文を取りに行って同じ様な事になっていたが、私も忙しくて助けに行けない。
頑張れ希望ちゃん!
「お客さん、どうぞ。 アップルティーです」
ふと見ると、夕ちゃんがお客さんを接客している。
他校の女子かな? 顔を赤くして俯いているが、バッと顔を上げて何か話している。
読唇術発動だよ!
私は女の子の唇の動きから何を言っているのかを推測する。
何々……「今井さんのファンです、よければ連絡先交換してください」かな?
制服を見るに虹高の生徒だけど、そんなとこにもファンがいるのかぁ。
夕ちゃんは優しい笑顔で断っているようだ。
傷付けないように優しく、肩をぽんぽんと叩きながら。
女の子は更に顔を赤くして俯いてしまった。
さらに惚れさせてどうするのよ……。
「いらっしゃいませー」
「ほぉ、ここが亜美ちゃん達のクラスの店かいなぁ」
「大盛況じゃない。 D組も負けてらんないわねぇ」
「カップラーメン屋で何言ってんだか」
「お湯沸しておけば後はやることないもんねー」
D組の紗希ちゃんと遥ちゃん、それに柏原君と弥生ちゃんが来てくれたようだ。
女子接客担当の夕ちゃんがサッとやってきて、席へ案内していく。
「わぉ、今井君すんごい似合ってんじゃん」
「だろぉ? 惚れんなよぉ?」
「ははは、これ惚れるな言うのは無茶やよ今井君。 あんさんかっこよすぎやで? 彼氏要らん思うてるウチでも落ちてまうわ」
弥生ちゃんは冗談なのかどうなのかわからないような感じで笑い飛ばしながら言っている。
当然それは希望ちゃんにも聞こえていたようで、目を吊り上げてそちらを見ている。
接客接客!
「紗希は大丈夫だよね?」
「ごめん、この今井君はちょっと揺れるかも」
「ええ……」
柏原君は肩を落として落ち込んでいる。
さらにそれを聞いた希望ちゃんは鬼の形相で紗希ちゃんを睨んでいた。
協力者の裏切り行為だ!
紗希ちゃんはすぐに気付いて「冗談冗談!」と慌てて訂正するのだった。
「しかし、希望ちゃんも亜美ちゃんも可愛い衣装だねぇ」
私達の姿を見て「私は絶対着れないなぁ」と、腕を組みながら言う遥ちゃん。
弥生ちゃんも私の事をつま先から頭の天辺まで舐める様に見た後に「ウチもちょっと抵抗あるなぁ」と衣装に難色を示している。
「弥生ちゃんは似合うと思うけどにゃぁ?」
「ははは、なんやのその語尾」
「こうしろって、奈央ちゃんに言われたにゃ」
「猫やからかぁ。 大変やねぇ亜美ちゃんも」
私は「あはは」と、少し乾いた笑い声を出した。
「4名様、席の用意が出来たのでご案内します」
夕ちゃんが営業モードに入って、皆を席に案内して行った。
うーん、ホスト風夕ちゃんも素敵! 惚れ直しちゃうよぉ。
その後も、目の回るような忙しさが続き、途中からは味を占めた委員長の提案で、フロアスタッフとの写真撮影なんていうサービスまで追加されて大変だった。
なんとか午前の部を乗り切って、午後のメンバーとバトンタッチの時間が近付いてきた。
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