あみ・だんふぁんす~幼馴染~
ざばざば
第1話 入学初日1
☆夕也視点☆
──夕也の部屋──
「んん……」
高校入学式の朝──。
目覚ましが鳴る5分前に目が覚めた俺は、階段を上がってくる1つの足音に気づいた。
「夕ちゃーん 朝ご飯出来てるよー!」
ドアの外で止まったピタリと止まった足音の代わりに、女の子の声が聞こえてきた。
俺はベッドから起き上がり、まだ半分寝ている頭を振って無理矢理覚醒する。
「あー……起きてる」
「着替えたら降りてきてねー。 私、入学式早々に遅刻とかやだよ?」
言うと足音が部屋から遠ざかっていく。
カーテンを窓の外を見てみると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
「今日から高校生か……」
ゆっくり立ち上がり、大きくを伸びをしてから、壁に掛けてあった真新しい制服に袖を通して登校準備を済ませると部屋を後にした。
──今井家ダイニングキッチン──
階段を下りてダイニングに入ると、2人の女の子が食卓を囲んで、既に朝食を食べ始めているのが見えた。
「あ、夕ちゃんおはよー」
屈託のない笑顔で朝の挨拶をかましてくるこの女の子は、
産まれてから今日に至るまでずっと一緒に育ってきた幼馴染だ。
透き通った空のような青と水色のショートヘアに。
雪のように白い肌、髪と同じく透き通るような青い瞳、小さな鼻と周りの白から浮いた少し赤みを帯びた唇。
可愛らしいという言葉が良く似合う顔立ちをしていて男子からの人気もかなり高い。
さっき部屋に俺を起こしに来た声の主だ。
「おはよう夕也くん」
もう1人の女の子も続けて声を掛けてきた。
こっちの女の子は
明るいクリーム色のショートヘアでその後頭部にはお気に入りらしい大きな白いリボン、頭頂部には2本のアンテナのようなアホ毛が揺れている。
少しタレ目で、瞳は色素の薄い水色をしている。
亜美と同じく、きめ細かな白い肌をしており、こちらも可愛らしい顔をした女の子だ。
希望ちゃんとは小学校1年からの付き合いでこちらも大事な幼馴染である。
小動物的な愛らしさから男子からの人気も高いのだが本人はそうは思っていないらしい。
隣に座っている亜美ともう1人いる女の子の幼馴染がとんでもなくモテているせいで感覚がおかしくなっているんだろう。
希望ちゃんは、小6の時に不幸な事故により両親を同時に亡くしてしまったのだが、色々と紆余曲折があり現在では清水家の養子として生活をしている。
「あーおはよ、2人とも毎日ありがとな」
「別にお礼なんていらないんだけどなぁ……」
「おじさんとおばさんにも『息子の世話をよろしく』って言われるしね」
俺の両親は去年の春、まだ中学生だった俺を置いて親父の海外出張のため渡米した。
まあ俺が海外の学校とか面倒だからってんでここに残りたいとゴネたわけだが。
家事も碌にできない俺の世話を、隣に住んでいる亜美と希望ちゃんが請け負ってくれているのだが、2人とも家事万能なので大いに助かっている。
席に着き用意されている朝食をいただくことにする。
今日の朝食は、目玉焼きに薄切りハム、味噌汁に白米とオーソドックスな物だ。
ふと顔を上げると亜美がニコニコした顔でこちらを見ていた。
「今日の朝ごはんはどう? 美味しい?」
「ん? あぁ、美味しいけど」
というと亜美がいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「良かったね希望ちゃん。 美味しんだって!」
「もう~っ!」
希望ちゃんはそれを聞いて顔を真っ赤にして俯いてしまった。
今日の朝食は希望ちゃん作か。
亜美は良くこうやって希望ちゃんをイジって遊んだりする。
あれこれと談笑しながら朝食を食べ終えると2人は手際よく皿を洗い家を出る準備を整える。
「んじゃ行くか」
「うん!」
俺の言葉に2人が笑顔で応える。
──通学中──
家を出て通い慣れた道を歩く。
俺たちの通う高校は中高一貫の学校のため、中学校とそう遠くない所に高校がある。
なので、通学路自体は今までと全く変わらないのだ。
「今日から高校生になるってのに新鮮味ねぇよなぁ?」
「良いじゃない別に」
「うんうん」
そんな会話をしながら歩いていると少し先にある十字路の前に男女の姿が見えてくる。
「あ、来た来た」
「おっす!」
「おはよー奈々ちゃん、宏ちゃん」
「おはようー」
それぞれ挨拶をかわす。
女の子の方は
朝日を浴びて鮮やかに煌めく金髪を、後ろでまとめてポニーテールにしている。
少し暗い赤の瞳で、目尻は少しツリ上がっており、キツそうな目付きをしてはいるが、実は優しい一面のある女の子である。
大人しい感じの亜美とは対照的に、ブレザーの前をはだけてワイシャツをスカートから出していかにも遊んでそうな感じの印象を受けるが割と品行方正な奴である。
亜美が「可愛いタイプ」なら奈々美は「綺麗なタイプ」の顔立ちしていて、この2人が周囲の男どもの人気をほぼ二分している。
見た目や性格など亜美とは対照的なところもあるが2人は親友と呼べるほど仲が良い。
もう1人の男の方は
茶髪の短髪を左右不揃いにしたヘアスタイル。
人懐っこそうな顔をしてはいるがイケメンかつ高身長で女子からかなりモテており、何人もの女子から告られているが全て断っている。
どうやら小学生の頃から亜美一筋らしいが亜美には上手く伝わっていない。
というか亜美は、他人の色恋には好んで首を突っ込むくせに自分の色恋に関しては一切興味がないというスタンスなのでこいつを落とすのは至難の業だと思われる。
奈々美と宏太も亜美同様に産まれてから今日まで一緒に育ってきた幼馴染だ。
普段から大体この5人で一緒にいることが多い。
今では他の友人たちも遊びに混ざることが多くなったのが、この5人の幼馴染の絆は特別だ。
「私も産まれた時からみんなと一緒だったら良かったのになぁ」
と、希望ちゃんが漏らす。
小学校からの付き合いになるため、産まれた時からの幼馴染4人とは少し距離を感じるところがあるのかもしれない。
「何言ってるの? 希望だってうちらの幼馴染でしょ? 一緒にいる時間なんて関係ないわよ」
とは、奈々美の言葉でそれに「うんうん」と亜美が頷く。
希望ちゃんも「ありがと、そうだよね」と嬉しそうに応えた。
そのまま5人であーでもないこーでもないと話しながら通学路を歩く。
小さな頃から続いている日常風景。
新鮮味はないがこれはこれで落ち着く。
「そういえば宏ちゃん、一昨日のツンツン頭もうやめたの?」
亜美が宏太の頭を見上げながら訊ねると隣で奈々美が「くすくす」と笑う。
一昨日の昼「高校デビュー」とか言って髪型をツンツンにして俺の家に遊びに来た宏太だったが……。
「宏ちゃん、その髪型似合わないね」
と、亜美に一刀両断されてしまったのが効いたのだろうか、その日1日は終始テンションが下がりっぱなしだった。
奈々美はケラケラと腹を抱えて笑っていたが。
昨日早速、元の髪型に戻したのか。
まあ惚れている女の子に「髪型似合わないね」なんて言われれば当然ではあるが。
「うんうん、やっぱりいつもの宏ちゃんがいいよ。 大体、宏ちゃんはあんなことしなくても普通にかっこいいんだよ? 私はいつもの宏ちゃんが好きだなぁ」
こいつはまた自覚無しにこんなことを言う……。
それを聞いた宏太のテンションが幾分上がったのは言うまでもない。
「奈々ちゃんも、いつもの宏ちゃんの方が好きだよね?」
あ、またこいつはいたずらっぽい笑みを浮かべている。
亜美がこういう顔をする時は大体相手をイジって遊んでいる時だ。
今のイジり対象は奈々美らしい。
「す、好きかどうかは別として……まあ……いつもの宏太の方が……ごにょごにょ」
最後の方は何を言ってるか聞き取れないが顔を赤くしているのはわかった。
これを見てもわかるようにこの3人は奈々美→宏太→亜美という風な一方通行な恋愛感情を胸に秘めた複雑な関係だ。
亜美が自分の恋愛に無関心のため2人は振り回され続けているわけだ。
「奈々美ちゃんも佐々木くんも大変だね」
「そうだな」
俺と希望ちゃんは2人に同情の眼差しを向けるのだった。
──学園──
駄弁りながら15分ほど歩いたところで俺たちが今日から通うことになる高校、
特段変わったデザインがされているわけでもない、普通の校舎。
その校門の先、少し進んだところに人が集まっている。
おそらくそこに、クラス分けが書かれた用紙があるのだろう。
「クラスどうなってるかなー? 一緒だといいね!」
「何だかんだ言ってうちら5人がクラス揃ったことないわよねぇ」
「そりゃ5人全員揃うことなんてそうそう無いだろうからな」
宏太の言う通りだ。
5人が揃って同じクラスになる確率なんてそんなに高いものではない。
まあせいぜい1人で孤立しないことを願うんだな宏太。
クラス発表用紙が貼られた掲示版の前に立ちそれぞれが自分の名前を探す。
んーと……今井夕也……今井……俺はB組か。
お、亜美と希望ちゃんもいるなぁ……と、3人が同じくクラスであること確認したところで隣の亜美が声を上げる。
「揃ったよ! 5人が!」
「でかした!」
亜美の言葉に宏太がどこぞの漫画のような返しを見せる。
マジで揃ってるし。
「1年間みんな一緒だね。 やったね!」
亜美は本当に嬉しそうな顔を見せる。
そういえば亜美と同じクラスになるのは中1以来だな。
俺たちは揃って1-Bの教室へ足を向けるのだった。
──1-B教室──
教室に入ると黒板に各生徒の出席番号順に席が割り振られていた。
奈々美は相変わらず不動の出席番号1番で俺は今年は2番。
「夕ちゃん、席が隣だね」
席に着くと隣に座っていた亜美が声を掛けてきた。
黒板を見ると亜美は出席番号7番か。
その2つ後ろの席に9番の宏太が座っている。
出席番号が後ろの方であろう希望ちゃんを見てみると、すごい羨ましそうにこっちを見ていた。
頑張れ希望ちゃん。
「おはようございます、皆さん」
斜め後ろから不意に挨拶を掛けられて声の方に向き直る。
その席に座るということは8番か。
「あ、おはよう奈央ちゃん」
「おはー 奈央もB組だったのねー?」
「はい、1年間よろしくお願いします」
「よろしくね奈央ちゃん」
「よろしくー。 お嬢様モード大変ねぇ?」
「そうなんですのよぉ……」
この子は中学の時に亜美達と同じ部活に所属していた女の子で
実は西條グループという大企業の社長令嬢で本物のお嬢様である。
とてもよく手入れされた、明るい紫色の綺麗な髪を腰まで伸ばしている。 幻想的な銀色の瞳をしており、タレた細い目はおっとりとした印象を与える。
亜美や奈々美にも劣らない美少女であるが、身長やプロポーションは残念ながらお子様サイズである。
奈々美の言う「お嬢様モード」とは『人目のある場所では西條家の令嬢の名に恥じぬ振る舞いを心掛けなさい』と言う家の方針の下、それを実行している状態である。
それとは別に、気を許した友人等の前では年相応の女の子に戻る「素顔モード」があり、そっちのほうが奈央ちゃんは楽だと言う。
お嬢様学校ではなく、こんな普通の学校に通っている理由も「堅苦しいのは嫌だから」という理由らしい。
「あー早く放課後になってくれないかしらねぇ……」
「奈央ちゃん、素が出てるよ?」
「あら、いけませんわ! おほほほほ!」
「相変わらず、すぐに剥がれる仮面だこと……」
「このモードは体の負担が大きくて連続3分が限界なんですの」
なんだよその設定。
ちなみにこの奈央ちゃん、こんな変わった子ではあるが学業成績は優秀で文武両道。
中学時代の定期テストの順位は3年間通して全部2位を記録。
体育の持久走や幅跳び、高飛び等の記録も全て2位。
そう
その理由は……。
「亜美ちゃん!」
「ふぇっ?!」
いきなりの大声に対して素っ頓狂な返事をする亜美。
「中学では2番手に甘んじてしまいましたが、高校からはそうはいかないですわよ」
「あー……あはは……」
「あんた、まだ諦めてなかったの? 無理よ無理、この子に何かしらで勝とうなんて考えちゃダメなんだから」
「いやいや、奈々ちゃんそんなことないよ……?」
「だっていつも惜しいところまで行くんだもんっ!」
「奈央ちゃん、素が出てるよ……」
「惜しいところまで行っても絶対にテストの点で亜美に勝つなんて無理よ。 だってこの子、ケアレスミスすらしないんだから……」
「ぐっ……」
言葉に詰まる奈央ちゃん。
奈央ちゃんも平均98点とかを叩きだす紛れもない才女なのだが、我が幼馴染の清水亜美はそれ以上の才女である。
「あんた知ってるでしょ? 亜美の平均点って、3年間通して100点よ? 化け物でしょ」
「奈々ちゃん、化け物は傷付くからやめてよぉ」
「うぐぐ……」
テストの点数でこの化け物に勝つにはケアレスミスに期待するしかないのだが、それすらも起こらない完璧超人なのだ。
奈央ちゃんがどれだけ頑張って100点を取っても、引き分けることしか出来ず「勝利」するというのは不可能に近いと言える。
「神様は亜美に二物どころかこの世のすべてを与えちゃったからね……本当、不公平だわ!」
「急に怒んないでよぉ……」
急に奈々美に怒鳴られてしゅんとなる亜美。
「その脳みそちょっと分けなさいよ」とか言いながら亜美の頭をわしゃわしゃしている。
「奈々美はいいじゃない……おっぱいの大きさは亜美ちゃんに勝ってるんだから」
ぶっ……。
「こら、お嬢様がおっぱいとか言わない!」
すかさず奈々美から脳天チョップをかまされる奈央ちゃん。
結構本気のやつだろそれ。
案の定、奈央ちゃんは頭を抱えて蹲っている。
俺は「ふうむ」と亜美の体をまじまじと見てみる……。
姿勢よく座っている亜美の胸はそこそこのサイズがあるように見える。
去年みんなで海に行った時の記憶でも、出るとこは出て締まるとこは締まっているという完璧に近いプロポーションだった。
「な、何? どうかした夕ちゃん?」
「いや、亜美も結構あるなと思って」
「奈々ちゃんのほうがちょっとだけ大きいよ。 本当にちょっとだけど」
「そうなのよねぇ……この間、2人でランジェリーショップで測った時はショックだったわぁ……もっと差があると思ってたのに。 この子、着痩せするのよね」
なるほど、着痩せするのか。
ふと奈央ちゃんの方に目をやると自分の胸の辺りを見ながらわなわなと震えている。
「何震えてるの? ぺちゃんこ奈央ちゃん」
奈々美の言葉を聞いて「グサッ!」という音が聞こえてきそうな反応を見せる奈央ちゃん。
「ちょっとはあるんですのよ! 将来性はあるんです! うわーん!」
机に突っ伏して泣き出す奈央ちゃんを亜美が宥めて、それを見ている奈々美はケラケラと笑っている。
そんなやり取りが終わると同時に「新入生は体育館へ集合してください」という放送が流れてきた。
これから俺達の入学式である。
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