第36話 遺跡探索、そして戦闘

アイリ様を乗せた二台の馬車は、ドワーフの遺跡を目指して西に向かって進んでいる。前を進む馬車には、私設騎士団の五名と馭者が乗り、後ろの馬車には馭者と俺達四人、そしてアイリ様が乗っている。


アイリ様は進行方向を前にして左右にリオノーラとエリスが、俺とエメルダは進行方向を背にしてアイリ様達と向かい合わせで座る。


遺跡の途中まで馬車で一時間ほど移動、その後は徒歩にて更に一時間ほどかかる。この遺跡は森の奥の開けた場所にあるのだが、近くには川が流れていたりと風光明媚な場所だ。


だが、この遺跡は既に色んな機関や好事家達が調査をしており、今更目新しい事が発見される事は無いはずである。なのに、敢えてここを調査する意味は何なのだろうか・・・?


「アイリ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「はい、何でしょうか?」


隣のリオノーラやエリスと楽しく会話している所だったが、気になったので話しかけてみた。が、声を掛けた後に、話の腰を折ってしまったかな?と、アイリ様が気を悪くするかもしれないと思ったのだが、存外快く話してくれた。


「アイリ様は、なぜあの遺跡を調査しようと思ったのですか?。あそこは、色んな人達が十分調査していますから、もう新しい発見等は難しいと思うのですが」


「ええ、そうですね。多分、見つからないと思います」


「え?、ではなぜ?」


「私は新しい発見などを探しに、遺跡に行くつもりではありません。ただあの遺跡に行き、偉大なる古代のドワーフ族の技術や生活水準などを、この目で手で体全体で感じたいのです。今後の自分の為に・・・」


「ご自分の為に・・・ですか?」


「・・・私は領主の長女である為、いずれは婿を迎えるのが普通ですが、諸事情で他家へ嫁ぐ事もあるでしょう。いずれにしろ、そうなれば今の様に自由に出歩くことは出来なくなります。ですから、今の内に色々な見識を深めたいと思い、自由にさせてもらっているのです。勿論、お父様には許可を得ていますのよ」


そう言って微笑むアイリ様のブラウンの瞳は、とても真っすぐでキラキラしていた。眩しいくらいに・・・。そして、その微笑みを見ている俺達も自然と笑みも漏れる。


彼女は、まだこれで16歳なんだよな・・・。俺より二つも下なのに、俺よりしっかりしてるわ。

自分には、これほどの人生設計を考えたことがあるだろうか・・・いや、無いな。


まあ、これまでは先の人生どころか、明日の自分でさえ考えられなかったからな。

この依頼が終わった後、少し自分の未来?夢?を考えても良いかな?と思うのだった。




アイリ様一行の馬車は、大きなトラブルもなく目的地に到着した。これから先は、徒歩で向かわなくてはならない。多分、危険なのはここからだろう。

『気を引き締めて行かないとな・・・』


「では皆さん、ここからは徒歩になります。森の中を歩きますので、足元には気を付けて下さい。前衛を行く騎士団の方達は、周囲にも気を配ってください。私達はアイリ様の後ろを警戒しながら殿を務めます。とにかく何かあれば直ぐ、大きな声を出してください。良いですね・・・?。それでは、慎重に行きましょう」


俺は確認の為、事前に調べておいた遺跡の場所を伝え、打合せ通りに隊列と注意事項をみんなに説明してから、目的地に向かい始めた。

ギルドの話だと、この辺りには危険な生物やモンスターはあまりいないとの事だが、念には念を入れてしっかりとアイリ様依頼対象を護衛しなければならない。


「エメルダ、いつもの様に気配察知を始めてくれ。今回は斥候じゃないから、そう遠くまでは分からなくても良いから。リオノーラも精霊の声に気を付けてくれ。俺とエリスは、直ぐに戦える状態を維持する」


「了解~、まかせて!」 「分かった」 「いつでもドン!と来いなのです!」


「それでは皆さん、よろしくお願い致します」


彼女達の返事を待って、アイリ様がお願いの言葉を発した。

そして一行は、慎重に森の奥深くにある遺跡を目指して歩き出すのであった。


途中、スライムや大ムカデなどの小型モンスターが出た際には、女性陣が驚いたりキャーキャー言ったりしたが、概ね順調な行程であった。

やっぱり、女性はああいったムニョムニョしたものや、ワシャワシャしたものが生理的に嫌いなのだろう。・・・擬音だけで分かって欲しい。俺も詳細な形や動きなど言いたくないのだ・・・。


異変が始まったのは、遺跡はもう直ぐって辺りからだった。

最初に気付いたのはエレノーラだった。遺跡が見える大分前から、森の精霊がざわつきだしたと言い出しだ。


エメルダもその後、何かがこの先で身を隠している気配を感じたようだ。

俺はその旨を騎士達に伝え、一気に臨戦態勢に入る。前衛は騎士の盾役タンクが前に出て遊撃が剣を抜く。俺達は後方を警戒しながら、アイリ様を囲む密集陣形ファランクスに入る。


一行は、ゆっくりとだが着実に前進する。すると、遺跡が見え始めて分かったのだが、どうもモンスターの類ではなさそうだ。俺には遺跡に隠れているもの者達を確認することは出来ないが、エメルダ言うには殺気が漏れ出していて隠れている意味が無いそうだ。


俺が言うのもなんだけど、待ち伏せしてるくせに殺気を消せないなんて、隠れてる意味が無いと思うのだが・・・。

ともかく、俺は一行を一旦立ち止まらせてから一塊になり、みんなに聞こえる程度の小声で声を掛ける。


『どうも、我々を待ち伏せしている奴等がいるようです。そうなると、間違いなく相手の目的はアイリ様だと思います。危害を加えるか拐かしだと思います』


俺はアイリ様がいるため、なるべく穏便な言い回しにした。

要は、アイリ様を殺すか誘拐する目的なのだろう。


『やはり、それしか考えられんだろうな。どうする?、このまま戻った方が安全だと思うが・・・』


前衛で騎士達を纏めるリーダー格の人が返答したが、俺は別の考えを話した。


『いえ、多分相手側も俺達が引き返すのを考えて、後ろにも仲間を配置してくるでしょう。奴等は、既に我々を確認してるはずです。でなけば、あれだけ雑な隠れ方はしないでしょうし。そうなると、俺達が戻ったところで挟み撃ちにされる可能性があります、あくまで可能性ですが・・・』


『それは考え過ぎじゃないか?。例えそうだとしても、我々の力で切り抜けられると思うのだが・・・』


『そうですね、我々だけであれば・・・ですが、今はアイリ様をお守りしながらでは、力を発揮出来るかどうか・・・。しかも、ここは周りに隠れるところも身を守れる所がありません。しかも、相手の人数も正確には把握出来ていませんし・・・ただ敵が前後に人員を分散させれば、必然的に前方の敵は少なくなるはずです。』


『では、正面突破して遺跡にいる敵を倒し、尚且つ、その遺跡で後背の敵を迎え撃つ・・・という事か?』


『はい、後ろから来なければそれで良し。来たら来たで、迎え撃ちましょう。遺跡を背にすれば、アイリ様も守りやすくなるはずです』


『分かった。では、そちらの考えを採用しよう。では、我々はこのまま一気に目標に向かい戦闘を開始する。そちらは、アイリ様をお守りしながら合流してくれ』


『分かりました。それでは、行動開始です!』


そう言うと、騎士達はウオォォォォーーーーーーッと気合を込めた雄叫びを上げながら、遺跡の敵に突進して行く。すると、その声に触発されたのか遺跡に隠れていた者達が、一斉に出てきた。


俺は、あのまま隠れられていたら少し面倒だと思っていたが、こうして迎え撃ってくれたので安心した。

これなら、あの騎士達の敵ではないだろう。俺達は、陣形を崩さない様に遺跡の方に向かって移動を始める。


先では、剣戟の音と敵味方入り乱れて叫び声も聞こえだした。

俺達は周囲に気を付けながら、戦闘が始まっている遺跡付近を避けて回り込むように進む。


すると、空気を裂いくようなヒュッ!っという音と共に、矢が飛んできた。幸い、誰にも当たりもかすりもしながったが、後方から飛んできたので慌てて地面に伏して矢を避ける。


「【大地の障壁アースウォール】!!!」


それと同時に、エリスが魔術で土の壁を作り、飛んでくる矢を防ぐ。

俺は遺跡の方を見ると騎士達の優勢の様に見て取れたので、俺達もアイリ様を庇いながら遺跡まで走って向かう。


七~八人いた敵も既に最後の一人が倒されたので、騎士達と合流して遺跡群に隠れながら敵を待つ。

すると、魔術で作られた土壁が派手に壊されたのだが、そこから見えたのは五つの人の姿だった。

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