第34話 初の指名依頼

オーク討伐戦から、もうすぐ一ヵ月・・・。

あれから俺達は、相変わらず採取や清掃などの不人気依頼をメインに、討伐や護衛依頼なども片手で数えられる程度こなし、依頼が無い日はリオノーラに訓練をつけて貰う日々を過ごしていた。


懐の方は増えも減りもしない状態が続いたが、どうにか四人が食べていけるぐらいは安定していた。

だが、そろそろ大きめの依頼も受けられればと、こまめにギルドには通っていた。


「シーナさん、こんにちは」


「あら、アル様こんにちは。今日も依頼をされに?」


「はい。で、そろそろ大きめの依頼もしてみたいな~って思っているんですが・・・、そうそうあるもんじゃないですね・・・」


彼女に挨拶しながら掲示板を見てみたが、やはり大きい仕事は見当たらなかった。

まあ、大きいって言っても俺達の冒険者ランクじゃ、受けられてもDランク程度なので、そういうのは直ぐに取られてしまう。


「そうですね~・・・、やはりランクに合う依頼はこちらギルドでも選別して相応のパーティに依頼するなどでお願いする事もありますので、ホント良いタイミングでないと難しいかもしれませんね・・・すみません」


「あ、いえいえ!、シーナさんのせいじゃないですから!!。逆に、いつも俺達に良くしてもらってるので、助かってますよ!」


「こちらこそ、いつも人が受けてくれない依頼までしてもらってて助かってるんですよ」


「どんな依頼も、その人達の想いがありますからね。困り事に大きいも小さいも無いですから」


「アル様・・・・・私、その想いに感動してます。冒険者の中では、そう考える人は多くは無いですから・・・。冒険者としては、やはりハイリスク・ハイリターンが一般的です。ですが、そういう依頼は国からとかギルド、貴族などの資金が潤沢でないと無理で、依頼はとても少ないのです。殆どの依頼は、困ってるけど報酬は多く出せない物が多く、したがって、そういう依頼は冒険者には魅力的に映らないのです。ですから、積極的にこなして頂けるアル様のパーティはとても貴重なのですよ」


そこまで言われると、流石に照れてしまう。俺達はそこまで高尚な考えてやってきたわけじゃないが、それでもちゃんと見ていてくれて、尚且つ称賛されるってのは正直嬉しいな。


「あ、いや・・・そんな・・・。俺達なんてまだまだなんで、そういう方面でしか力になれませんし・・・」


「いえ、もう立派な冒険者パーティですよ。ランクはまだEですが、このまま頑張れば直ぐにDに上がれそうですし、そうなれば今よりも難度が上がる依頼も行いますし」


「そうなんですか?、このまま頑張ればランクDに・・・」


正直、Dランクなんてこの間まで考えもしなかったんで、何か自分達の事じゃないみたいだ。冒険者ランクが上がり報酬が増えてくれば、彼女らにもっと良い防具や武器を買う事も出来る。


良い防具や武器を持てれば、今より怪我をする可能性も少なくなるだろう。

やはり、彼女達がケガをするのは我慢出来ないしな。


とにかく、俺達は今のまま無理せず頑張って行こう。

俺は、そう心に誓って掲示板から新しい依頼書を剥がして、ギルドを出た。


         ◇


そして数日後、今日も朝からギルドに向かい依頼掲示板を見回していると、受付の小窓からシーナさんが顔を出して俺に話しかけてきた。


「あ、アル様!おはようございます。ちょうど良かった!。ちょっと奥の方でお話を良いですか?」


「あ、おはようございます。あの、俺に何か話ですか?」


「そうなんです。ちょっとここでは何なんで・・・」


「わ、分かりました。伺います・・・」


そう言って、俺は受付横の関係者用通路を通って、ギルド奥の応接室に招かれた。

正直、こんなとこに入った事ないからドキドキもんだ・・・。俺、何か悪いことしたっけな?と考えてみる・・・う~ん、無いよな~どう考えても。


狭い通路を通っていき、突き当りの部屋に入る。

中に入ると、高そうな家具やテーブルなどが見える。ただ、豪奢な感じではなく質素ながら高級そうな感じが俺でも分かるほどだ。


そんな部屋に通された俺は、シーナさんに出されたお茶を両手で持って啜っている。

そしてシーナさんは対面に座り、何やら書類を持ってきた。


「あ、あの・・・俺達何かやらかしちゃいましたか・・・?」


「え・・・?、あははは、違いますよ~!。もしかして、怒られるとか思いました?」


「まあ、そうですね。そういう事でしかこんなところ、呼ばれるはずないですから・・・」


「全く違いますよ。ここにお呼び出ししたのは、なんと・・・アル様のパーティに依頼があるのです!」


「え?、うちにですか??。もしかして・・・指名依頼ですか!?」


「はい・・・あ、いえ、正確に言えば直接指名ではないのですが、依頼内容がアル様のパーティにピッタリだったので、アル様の気持ちも察しておりましたし、私の方で勝手に忖度させて頂きました~♪てへぺろ(・ω<)」


「えええええ!、本当ですか!?。う、嬉しいですが正直、俺達で良いのかなって・・・無名なのに」


「アル様、それは謙遜というものですよ。アル様達は、誰もしない様な大変な依頼もこなしてくれると、ギルド内でも噂になったりしてるんですよ?。だから、市井の人達にも噂は少しずつですが広まってるんです」


「し、信じられない・・・です。俺達みたいな弱小パーティが・・・」


「確かに有名で強いパーティが人気なのは当たり前なのです。ですが、そういうパーティは忙しかったり依頼金額が高かったりと制約が多いのです。それで、そこまで強くなくても良いから安くて安心してお願い出来る、アル様達の様なパーティを指名されることがあります」


なるほどな・・・、確かに俺達ならランクが合えば、どんな依頼も受けるつもりだし、やり抜く自身はある。


「今回も、その様な方達からの依頼です。ただ勿論、受ける受けないはアル様達のご判断になりますので安心して下さい」


「あ、はい。多分受けると思いますが、とにかく依頼内容をお聞きしてからですね」


「ありがとうございます。それでは、依頼内容をお話しさせていただきます」


いよいよ、どんな依頼か分かるんだな・・・

あんな事言っちゃったが、もし大変なのが来ちゃったらどうしよう・・・?などと俺は内心ヒヤヒヤしていた。


「このご依頼は、この街の領主様からです」


「なるほど、領主様か・・・・・・ん?、あの今、領主様って聞こえた気がするんですが、違いますよね・・・はは」


「いいえ、違いません。このシグマのご領主様からのご依頼ですよ」


「はああああああ??な、何でですか!?。未だにご領主様なんて一度も見たこと無い俺達が、いきなり依頼ですか!?」


「ふふ、無理もありません。領主様はなかなか領民達の前には、お顔を見せないことで有名ですから」


「そ、そうなんですね。では、どうして俺達の様なパーティなんかに依頼を?」


「まあ、本当は領主様から良い冒険者達がいないか打診があったので、当方で数組のパーティを推薦させて頂いたのです。その中にアル様のパーティも含まれていました。そこで、私がチョコチョコっと・・・」


「なるほど・・・なんか後ろ暗いことされたようですが・・・で、うちの他に何組か選ばれたんですか?」


俺は、複数のパーティでの依頼をしたことが無かったので、ちょっと心配した。連携が出来るかもそうだが、うちみたいな弱小パーティが他のとこにバカにされないか・・・を。


俺がバカにされるぐらいなら許せる・・・あ、まあ悔しくは思うけど許せるって事だが、彼女達も同じような目で見られうのは我慢出来ない。

しかし、シーナさんからの返答はある意味裏切られた。


「いえ、複数組ではありません。アル様のパーティだけが選ばれました」


「え?、うちだけ?。じゃあ、内容っていうのは・・・」


「はい、領主様のご令嬢に関する依頼なのです。今回、そのご令嬢が一週間後にこの街の西にある”ドワーフの遺跡”を調査するための護衛兼話し相手を探していたのです」


話し相手??。護衛は分かるとして、話し相手ってなんだ?。そんなの普通の人でも話できるんじゃないか?。そう思っていたら、顔に出ていたんだろうな・・・


「ご令嬢は、男性が苦手なんだそうです。で、アル様のパーティは女性が多いのと亜人の方もおられますが、ご令嬢はそういう方達に一切偏見を持っておりませんし、逆に興味があるようなので・・・」


「あの・・・という事は、もしかして、俺抜きで・・・とかですか?」


「いえいえ、ちゃんとアル様も一緒ですよ。何故か、ご令嬢からもアル様も一緒にいても問題無い~との事らしいです。どうしてでしょ~~ねぇ~~~ア・ル・さ・ま??」


「え?え?、そんなの知らないですよ!。俺だって初めて会うんですから!ホントですって!。いやいや、何でそんな疑っているような目するんですか!?」


「本当に知らないんですか・・・?。私だって、本当はアル様と一緒に冒険の旅に出たいのに・・・、あ、失礼しました。とにかく、という事なのでが依頼を受けられますか?」


「え、ええ、そうですね。特に断る必要もなさそうですし、ドワーフの遺跡までなら危険な事は少ないと思いますし。改めて、お引き受けいたします」


「ありがとうございます!。ギルドからも併せてお礼を言わせていただきます。詳しい打合せは後日にして、今日はご領主様にご報告だけさせていただきますね」



そうしてシーナさんと一緒に応接室を出た後、俺は宿に戻りさっきの話を彼女達に打ち明けたのだった。

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