第32話 オーク討伐戦
「エメルダ!そっちに一匹行ったぞーーーー!」
「まかせてーー!」
「リオノーラは魔法は使わず、剣でなるべく多く倒してくれ!!」
「分かっている!。こっちを気にするより、アルは自分の方だけ考えろ!」
俺達は今、街道脇から出てきたゴブリン達の掃討中だ。
およそ六~七匹だから、致命的ミスさえ無ければそんなに時間を掛けずに討伐できるだろう。
前衛に据えたリオノーラと中衛のエメルダが、数体のゴブリンを相手に戦闘をしている。そして、俺はエリスを狙ってくる奴を切り伏せているところだ。
「キャッ!」
後ろにいるエリスの声だ。
しまった!、後ろから襲ってきたか!と俺は慌てて後ろを向いて、エリスを庇うように前に立つ。
ここには、二匹のゴブリンが棍棒と錆びた鉄剣を構え、涎を垂らしながら近寄ってきていた。
俺は抜刀していた刀で、向かって左側のゴブリンを力任せに、棍棒ごと袈裟切りにする。
GYAAAA-!と耳障りな叫び声をあげて倒れる前に、今度は右側の奴を下から切り上げる。
しかし、それは錆びた鉄剣で防がれたので、今度は刀を手元まで引き利き腕の右手一本で、ゴブリンの胸目掛けて刺突する。
今度は突きを捌き切れず、鳩尾辺りに刃先が吸い込まれていく。
ゴブリンは声も出せずに動きを止め、刀を引き抜くと引っ張られたように前のめりに倒れた。
よし、体が思った通りに動くようになってきた気がする。
これも、最近はしていないがリオノーラの特訓や討伐依頼での実践によって、力を付けてきたのかもしれない。特にエメルダは、格段に動き良くなっている。
前を見てみると、もう立っているゴブリンは見当たらない。
ざっと討伐数を数えると、六体だからほぼ全数だ。
これぐらいなら、俺達だけでも十分通用する様になってきたので、無用に魔法を使う必要ないかな。
俺達はこれからオークを討伐するんだし、あまり魔力やアイテムを使いたくないからな・・・。
エメルダをみると、既にゴブリンの討伐部位を剥いでいる。最初のころは、オエ~ッてなってたくせに、今じゃ鼻歌歌いながら剥いでるし・・・女は強くなるんだなってつくづく思う。
「ほら、アルさん!。サボってないで自分で倒した物は自分で剥いでください!」
「はいはい・・・」
「『はい』は、一回!」
「はい!」
なんか、すっかり尻に敷かれている感があるんだが・・・。
仕方なく、俺はゴブリンの耳は剥いでいく。あ、エリスはこういうのダメかな?と彼女を見てみると、しゃがんで剥いでるところを興味深そうに見ている。
「へー、エリスはこういうの平気なの?」
「ん?、こういうの?。剥ぐ行為の事です?それなら私、全然平気なのです!」
そういうエリスの顔は、ニコニコして俺の手元を見ている。いや、これはこれでちょっと怖いんだけど・・・。
「意外だな・・・、こういうのキャーキャー言って逃げ回るかと思ったんだが~」
「フフフフフフ、何かスッと皮が剥がされるのが気持ち良いのです~~」
俺はその時のエリスの眼を、一生忘れる事は無いだろう・・・。そして、何故か俺はその光景をそっと胸の奥に仕舞い込んだ。そして、二度と思い出すことは無いだろう。
その後、かなりの距離を歩いたがモンスターや獣達は現れず、目的の村カリーナまであと少しという所で夜になってしまった為、仕方なく街道から外森の中に入り、少し広い所を探して野営することにする。
以前に三人で野営はしたのだが、今回は四人になってるのでテントも少し大きめな物を追加で買った。前のテントは、俺専用にした。さすがに、女性陣の中に男が入るわけにはいかないしね。
取り敢えず、急ごしらえで焚火を起こし簡単な料理を作り始める。
彼女達も料理は出来るらしいのだが、歩いて疲れているだろうし、ここは俺が!ということで、目玉焼き作って焼いたパンの上に乗せトーストエッグを作る。
ま、まあ料理って程の者での無いが・・・
あとは、簡単なスープを作り栄養補給として携行食を併用した。
余ったお湯でコーヒーを作れるようにもしておいた。
その間、彼女達には女性用テントを組み立ててもらった。本来なら男手は必要だが、今回購入したテントは女性でも簡単に組み立てられるように作られている為、料理の間に組みたってしまっている。
ちなみに、自分用のテントは食事が終わった後に自分で組み立てた。
食事後は焚火を囲みながら話をしたり笑ったり。その後、一人二時間の見張りをすることにして最初の当番を俺が務める。
本来なら寝てる女性を起こして見張りを交代させるのは気が進まないのだが、本人達がそれで良いというのでお願いした。
翌朝、太陽が上がるとすぐに起きて、当番だったエリスに労いの声を掛けて、まず簡単に朝食の準備をする。今朝は干し肉を沸騰させたお湯で柔らかくして、そこに米と塩を入れてゆっくり煮込み肉雑炊を作る。意外と簡単に作れ、胃に優しく消化が良くて直ぐに力になる。意外と美味いしね・・・。
食事が終わると野営の後始末を始める。
そして、再び街道に戻り村へ向かって歩き出すのだった。
◇
カリーナの村には、歩き始めて二時間ほどで到着した。村の入り口には門番がいたが、依頼の話をすると村長に会ってくれ、というのでまず先に依頼主に話を伺いに、四人で村長の家に向かった。
「これはこれは!。遠くからお越し頂き恐縮です。私がこの村の村長のソルバと申します。今回の討伐依頼の依頼主です」
「私はシグマの街で冒険者をしております、アルと言います。彼女達は私のパーティメンバーで、エメルダ、リオノーラ、エリスと言います。よろしくお願いします」
彼女達は、順に頭を垂れて挨拶をした。
俺達はお互いに自己紹介を終え、その後依頼の話になっていく。
村長の話によると、オークと思われるモンスターが夜な夜な家畜を襲って持ち去ってしまうという事らしい。
そして、いずれ村人達にも被害が出るのではないかと村長は心配しているのだ。
確かに家畜がいなくなれば、今度は人に危害が加わる可能性はある。
「分かりました。俺達は今からすぐ村の警戒に当たります。もしモンスターに遭遇すれば戦闘になると思いますが、そうなるとここにも被害が及ぶ可能性がありますので、皆さんには絶対に外に出ない様に伝えて下さい。特に夜は絶対守って下さい」
「はい、それでは直ぐに皆に通達致します。それで、報酬の件なのですが・・・」
「報酬は私達がオークを討伐出来たら、お話ししましょう。といっても、依頼書の金額で十分なのですけどね」
「すみません・・・、何しろ小さな村ですので十分な報酬も出せずに・・・」
そうなのだ、オーク討伐の依頼であるにも関わらず、なかなか依頼が残っていたのは報酬がネックだったのだ・・・。多分だが、一般的なオーク討伐の半額程度だと思われる。
依頼の報酬は、依頼主と冒険者ギルドで協議し決めるのが一般的だが、依頼主の懐事情により少なくなることもある。が、その際には依頼を受けて貰える可能性が少なくなる旨も伝えられる。
まあ、俺は報酬よりも困ってる人がいれば助けたいと思ってるので、報酬は二の次だ。それにオークの素材は、ゴブリンよりも高く買い取ってくれるので、多少報酬が少なくてもある程度は補填出来るだろう。
村長は、村の中の空き家を貸してくれたので、俺達はそこを拠点にして少し休んでから、村の警戒に入る。今まで夜しか来なかったからといって、これからも夜だけとは限らない。
それに街の地形を見て回れるのも利点だ。いざ村内で戦闘になって、地形が分からないと敵に裏をかかれて、思ってもみない反撃を食らう事もあるから確認は大事な事だ。
それに村人達の交流もできるし一石二鳥だ。オーク討伐の話をすると、これ持ってって、など食べ物をくれたりする。今は仕事中ですって言っても強引に渡してくるので、少し街を回ってから借り家に戻り、貰ったものを置いてくる、そしてまた見回りに・・・ということが、繰り返された。
西の山に太陽が沈み始め、村は逢魔が時に包まれる。
これからの時間は、魔獣・・・モンスター達の時間となるので、俺は彼女達に警戒を強めさせる。
「エメルダ、気配察知を頼む。リオノーラは、精霊たちの声に耳を澄ませてくれ」
「了解!。既に始めてるわよ」「こちらもだ。まだ精霊たちは騒いでいないようだ」
「よし、じゃあエリスは魔術で援護、俺はエリスの盾になりながら、討ちもらしの討伐だ」
「はい!なのです!。私の魔術で駆逐してやるのです!」
「エ、エリス・・・?くれぐれも魔術はやりすぎるなよ・・・?」
な、何か別の意味で心配になってきたな・・・。
そうしてる内に、日が完全に落ちて漆黒の闇が村を覆いつくした。
周りを見回すと複数の家から蝋燭の明かりなのか、チラチラ見え隠れしている。
しばし目を暗闇にならしていると、その異変に最初に気が付いたのはリオノーラだった。
「ん!、何者かが近づいている。木の精霊達のざわつきが伝わってくる」
「来た!、かなりの数。左右二手に分かれてる」
「ほう、頭が良いな。挟撃しようとしてるのか・・・?。よし、それでは迎撃開始だ!。リオノーラとエメルダは左側を頼む、派手にな!。リオノーラは魔法も使っていいぞ。エメルダは隠密で逃げる敵を各個撃破!」
「「了解!」」
「俺はエリスは右側を迎え撃つ。エリス、なるべくお前の魔術の線上に出ない様にするが、発動する際は必ず声を出してくれ!」
「はい!、まかせてなのです!」
ガサガサッ・・・フッフッフッフッフッ・・・ブフォー
来たか!。初オーク戦だ、やってやる!!
左の森の中からオーク達が姿を現した。距離として、およそ15~20メートル先だ。顔はイノシシそのものだが、体は屈強な人間の様に筋骨隆々とした見た目だ。
彼らは、手に各々棍棒や剣、槍なんてのを持ってる奴もいる。
こいつらはリオノーラ達に任せ、俺達は少し離れてまだ出てこない右のオークの群れを待つ。
そして、そいつらは想像通り最初の群れか十五メートルぐらい離れた所から現れた。数は、両方の群れとも七~八匹だ。ちょっと多いが、何とか行けるだろう。
この半数なら、俺が先手必勝で突っ込んで行っただろうが、今回はちょっと多いので自重する。俺はエリスを物陰に隠し、そこから魔術で援護してもらうが勿論、エリスからあまり離れることはしない。
そうしてる内に、俺を見つけた数匹が俺目掛けて走ってくる。
「シッ!」俺は、大声を出して怖さを紛らわしたかったが、敢えて声を出さず気合の息を吐き、突っ込んできた先頭のオークを迎え撃つ。
足の速さなら自信があったので、ここはヒットアンドウェイで少しずつ数を減らす作戦だ。これは、エリスを守る為でもあるし、彼女の魔術詠唱の時間稼ぎでもある。
左の腰に付けた刀の柄に手を置き、走りながら先頭の一匹目の胴を居合抜きで横薙ぎにする。
オークは、プギィーーーーーーーー!と叫びながら腹から内臓をぶちまけた。
「一匹目・・・」
俺は独り言のように呟いて、次の獲物に襲い掛かる。
戦闘はまだ始まったばかりだ・・・
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