第30話 お互いの気持ち
ギルドから飛び出してきた俺達は、慌てて貼ってあった依頼書を取ってきたのだが、内容を確認してみると何のことは無い、薬草採取の依頼であった。
これなら俺の得意分野だし、薬草が生えているところなら大体分かるから、俺達は直ぐに向かった。
なんだか久々に地元での依頼だし、さっきの事などすっかり頭から消えて、テンションが高くなってしまった。
「さぁーー、街に戻って最初の依頼だし、張り切って頑張るぞーーーー!」
「あはは~~、アルさんってばテンション高いね~!」
「まあな~、久々のここでの依頼だしな~!。何か、帰ってきたな~って感じでさ!」
「しかし、嬉しいからって気を抜くなよ。地元とはいえ、街を一旦出れば何が起きるか分からんからな」
「分かってる。気を付けるよ、リオノーラ」
そんな何気ない会話をしながら、一路街道を南に進む。
比較的安全な街道を二時間弱ほど進み、途中脇道から山中に入って行くと後は経験を活かし、薬草が生えていそうな場所を探す。
陽の光が入る風通しのいい場所を探すのだが、これには経験も必要だが”勘”も重要なファクターとなる。
そして、俺は自分でもそういう勘に優れていると思っている。まあ、あくまで採取物に限っては・・・だが、伊達に二年近くほぼこればっかりやってきた訳じゃない。
そんなこと考えてると、
「おっ、めっけたー!」
そこには、回復ポーションの素材になるアサギリ草が生えていた。群生とまではいかないが、かなりの数の薬草がみつかり、これなら今回の依頼分には十分なりそうだ。
女性陣も、今は三人で和やかに採取してくれている。ここら辺は凶暴なモンスターが出たという話も聞かないし、安心しているのだろう。
それでもと、採取は彼女達に任せて俺は周りを警戒する為、うろつくことにする。
しかし、採取している間もモンスターとの遭遇は無く、無事、三~四十分程でアサギリ草の採取を終えて帰路となった。しかし、存外早く見つかってしまったので、時間がかなり余ってしまった感がある。
「ねえ、アルさん!。このまま街に戻るには早過ぎません?。帰り路の途中で、何か良いところないですか~?」
「う~ん・・・、良い所か~・・・無いな。どうしたの?、まだ帰りたくないの?」
「エメルダは、多分ギルドの受付嬢と会いたくないのだろう?」
「え?、そうなの?。シーナさん苦手なの?」
「に、苦手ってわけじゃなくて・・・・・ただでさえライバルが多いのに、更に増えちゃうな~って・・・」
「ラ、ライバルって・・・。シーナさんも綺麗だけど、俺はエメルダやリオノーラの方が好きだな~」
「「!!!!」」
あれ?一気に二人の頬が赤くなったな。いや、耳まで赤くなってるぞ?。
俺は特に考えもなく、そう口に出してしまったが、考えてみればスタンピードの際に大怪我した時、二人が俺の為に看病したり、助けを求めに行ってくれた時を知った時、何か例えようもない愛おしさを感じていたのも確かだ。
それに、こういうのは口に出さないと相手にも伝わらないだろうし、フィオナの件もあり俺は口に出すことにしようと思っていた。それに、俺は容姿も良くないから今までモテた事ない分、口に出して相手が拒否反応を示しても、特に落ち込んだりしないと思うし・・・いや、落ち込むかもしれないが、それを引きずる事は無いだろう。
考えてみれば、好意があるのにそれを口にしないでチャンスを逃すぐらいなら、口に出して失敗する方が自分的にはダメージが少ないはずだ。まあ、ある意味自己保身の術かな・・・?。
「ア、アルさん・・・本当ですか?。あたし達の事好きって・・・」
「う、うん。さっきのは本当の気持ちだよ。俺みたいなのにそう思われても、嬉しくないかもしれないけど・・・」
今のはちょっと卑怯な言い方だと自分でも思ったが、やっぱ自惚れた言い回しは俺には出来ない。やはり自分からより、相手から好意を示して欲しいと思うのは、自分に自信が無い表れなのかもしれないな。
「いや、まあ・・・こんな歩いてる時に言う事じゃないだろうけどさ・・・」
「いえ!、どこで言われようとも嬉しい事に変わりないです!!。あたし、アルさんが好きです!」
「わ、私もアルの事が・・・その、す、好きなんだが・・・どうだろうか?」
「ありがとう、二人とも。だけど、これは俺の我儘なんだが、こんなついでみたいな時じゃなく、いずれきちんと二人に話すからそれまで待っててくれる?」
「それでいいです!。あたしも!!」「私もだ!、アル!!」
何か変なタイミングで大切な話になってしまったが、俺達らしくていいかもな。
とか考えてたら、一人、顔を赤めたり下を向いてモジモジしたり、一人百面相をしてるエリスがいた。
しまった、エリスの事をわすれていた・・・
さすがに俺も一人蚊帳の外にさせてしまって気まずく思い、声を掛けてみたのだが・・・
「あ、エリス、ごめんな。こんなところで話すことじゃないよな。もう止めるから・・・」
「皆さん、素敵なのです!羨ましいのです!・・・・わ、私もいつかアルさんから、あんな風に好きって言って貰えるよう頑張るのです・・・絶対、私のこの溢れ出す魅力でノックアウトさせるのです、フフフフフ・・・」
エリス、すまんが俺はもうお前が分からない・・・何かもう、目がイッちゃってるし・・・病んでるのか?。
それにノックアウトって・・・言い回し、古すぎないか?。第一、お前の魅力にノックアウトされる事はないからな・・・多分。
しかしなぜ、俺の周りにはこんな
ま、こんな事があったわけだが、俺達は無事街に帰還しギルドにて依頼達成と報酬を貰ってギルドを出た。シーナさんは別の冒険者を相手に話をしていたので、目が合った時に軽くお辞儀だけしておいた。
彼女は何か言いたそうだったが、諦めたのか冒険者との話に戻ったようだった。
ギルドを出た後、四人で街のあちこちに出店している出店でお昼を済まそうと考え、色んな店を物色し歩いていた。
その中で、木の串に肉を小分けに切った物を差して焼く”焼き串屋”があったので、今日はここに決めた。
この焼き串の肉は、主にワイルドラビットや鶏などの動物の肉で、一口大サイズの為に子供から大人まで人気があるのだ。
売ってる肉は、硬くて野性味があるワイルドラビットに、柔らかくてジューシーな鶏の肉の二種類だ。味は、甘めのタレがたっぷりついた物、ピリッと辛めのタレが大人な味の物、そしてシンプルに塩だけの物の三種類がある。
彼女達三人は甘いタレの鶏の串を各三本ずつ、俺はワイルドラビットをピリ辛のタレで五本、そしてみんなで食べらえるように鶏の塩味を五~六本買っておいた。金額は、二本で銅貨一枚とまあまあなので、これだけ買うと銀貨一枚ぐらいだ。
まあ、今の俺達ならこれぐらい出しても問題無いだろう。
しかし、祭りとかの出店で買う食い物は大体高いもんだ。味はそれ程でもないのにな・・・
しかし、この焼き串は絶品だ。ピリ辛の固めの肉を力強く噛み、うま味を口の中に染み渡らせる。
また、塩味はシンプルに肉のうま味を引き出し、また柔らかくてジュージーな鶏肉の肉汁が絡み合って、これもまた美味い!。
俺達は焼き串を存分に堪能し、少し休憩後に新たにギルドに向かった。
午後だけの時間で、何か依頼をこなせるものがあるかの確認だ。やっぱ、採取だけじゃ最近は少し物足りないからな。
彼女達も、それについては同意しているようで、もし簡単な討伐物があればやりたいと言ってくれた。
正直、リオノーラやエリスの様な中級ランクの冒険者に下位のクエストをお願いするのは、俺的に忍びないと思うが仕方ない・・・。
早速、ギルドに再び入り掲示板を見ていると、一つ討伐物の依頼書が貼ってあった。
内容は【最近、村にオークらしき物が来ては家畜を攫う。まだ村人に被害は出てない内に、討伐をして欲しい】というような事が書いてあった。
オークとは、ゴブリンを一回り大きくしたような感じで顏はイノシシそのものだ。彼らはゴブリンよりも力が強く、多少賢いので俺達の力試しにはちょうどいいと思う。
そして良く言われるのが、オークも女子供を攫うようだがこちらは、ゴブリンと違ってホントに攫うようだ。攫われた子供は奴等の餌に、女性のその後については言うの及ばず・・・
「オークか~・・・、どうする、やってみる?」
「いよいよオークの討伐ですか!。ちょっと怖いですが、やってみたいです!」
「このパーティなら、十分勝てると思うぞ。魔法を使わなくてもな」
「私のは魔術ですけどね。まあ、確かにオークなら何とかなると思います」
「では、これで決定だな。場所は・・・と・・・この街から歩いて一日はかかりそうだな。今日は無理か~。この後、シーナさんと食事があるしな~・・・ちょっと気が重いけど・・・」
「じゃ、明日出発ね。じゃあ、野宿の準備とかあるし、夕食までに準備するのはどうからしら?」
「それが良いかもな。じゃ、行くか~」
そして、俺達は明日の準備をするためにギルドを出て、買物に行くことにした。
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