第21話 優しさ

『・・・・やだ・・・まって・・・いかないで・・・・・・・』

・・・

・・


ハァハァ・・・俺は悪夢から覚めると、目の前には知らない天井が見えた。ついさっきまで、またあの嫌な夢を見ていたようだが・・・でも、いつも全部は思い出せない。

最近は見ていなかったんだけど・・・久しぶりに見たな・・・



そして俺は、ふと周りを見回す。ん?どこだ、ここは?。見たことの無い部屋だ。窓の外は日がかなり高い事から、昼ぐらいだろうか。


記憶を辿ってみるが・・・あの後、確かに俺は宿屋の自分の部屋のベッドに横になったはずだ。

しかし、どう見てもここは宿屋ではない。部屋は広く、調度品も品のあるいかにも高そうな物ばかりだ。


俺はまだ夢を見ているのか?、そう考えてしまうのも仕方ないことだ。

ん?あれ?、傷が痛まない・・・俺は横っ腹を触ってみるが、骨折したはずの痛みが殆ど感じられない。

そういや、鎧も外されて私服だけになっている。


俺は上半身だけ起き上がってみるが、打ち身のような微かな痛みだけ。

少し腕を回したり上半身を捻ってみるが、ほぼ問題ない。ただ、服を持ち上げてみると、腹には包帯が巻かれていた。


俺は今の現状が全く把握できなかった。

ここはどこだ?、何で俺はここにいる?、何で怪我が治ってるんだ?。

すると、部屋のドアがいきなり開いた。そこには、エメルダが手にタオルと洗面器を持って、こっちを凝視している。


「アルさん!!!、目が覚めたんですね!!!」


そう叫んで、こっちに小走りで近寄ってきた。彼女は枕元近くのテーブルに持っていたものを置いて、俺の手を握って涙を流し始めた。


「よ、良かった・・・あれから目を覚まさないから・・・心配で心配で・・・うううぅ」


「ごめんな、心配させちゃって・・・。俺を見てくれてたのか?」


「はい、昨日の昼過ぎからずっと・・・。だって、ホントに顔色悪くて・・・死んじゃったのかと思ったんだもん・・・」


そう言いながら、エメルダはポロポロと涙を零す。

俺は、なんだか胸の奥が締め付けられるな痛みを感じる。


この子エメルダは、ホントに心配してくれたんだな。なんか悪いことをしちゃった気分だ。

あ、いや、今はそれよりも聞きたいことがあった。


「あ、あのさ、エメルダ。ところで、ここはどこなの?。宿屋じゃないことは分かるんだけど・・・」


「あ、話すのが遅れちゃいましたね。ここはなんと・・・ラインハルト様のお屋敷なんです!」


涙を拭いて、エメルダは誇らしそうに答えた。

ラインハルト様!?という事はシェラード家か・・・?なんでそんなとこに?。俺がそう考えてると、エメルダは俺の心を見透かしたように、


「リオノーラさんが、アルさんを助けて欲しいって頼みに行ってくれたんです」


「リオノーラが?。なんで?? あ、いや、嬉しいことは嬉しいんだが、よくシェラード家が取り合ってくれたな?・・・ん?、待てよ・・・あれ?無い!どこにも無い!。やっぱり、リオノーラがあのを持って行って頼んでくれたのか・・・?」


「ピンポーーーーン!大正解!!。アルさん、いつもあの懐中時計を腰のポケットに入れていたじゃないですか。それを借りて、アルさんを寝かした後、直ぐに頼みに行ってくれたみたいなんです」


そうか・・・、だからあの後いなかったんだな、部屋に・・・。でも、確か彼女は貴族に良い感情を持っていなかったはず。何故か分からないが・・・

それなのに、俺の為に苦手な貴族に頭を下げに行ってくれたのか・・・?


俺は、それを考えると何とも言えない気持ちが湧き上がる。

この場にいれば、抱きしめてしまったかもしれない・・・。今、リオノーラがこの上なく愛おしい。


俺は今までちゃんと考えなかったが、やっと分かった気がした。俺は二人の事が大好きなんだって。

これが愛というものなのか、それとも仲間として好きなのか、まだはっきりしないがこの気持ちは確かなものだと思う。


「そしたらアルさん、気を失ってるじゃないですか!。あたし達ビックリしちゃって・・・。それで、シェラード家の方達がアルさんを、お屋敷に連れて行ってくれたんです」


そ、そんな大事になっていたとは・・・。知らなかったとはいえ、後でラインハルト様にお礼を言っておかなければ・・・


「ホント、ラインハルト様には感謝してもしきれないな・・・。ところでエメルダ、リオノーラはどこにいるか分かる?」


「彼女は多分、庭にいると思います。このお屋敷、お庭が綺麗で大きいんです!。小さな森もあるんですよ!。多分、そこじゃないかなぁ・・・」


エメルダは、頭を右にコテンと倒して答える。


「そっか、俺も行ってみるかな・・・」


「駄目です!!。アルさんはまだケガ人なんですよ、ベッドで横になっててください!」


「いや、もう殆ど体もいたくないし・・・ってか、確か骨折したはずなのに、痛みが殆ど無いんだよね」


「そりゃそうですよ。だって、治癒師の方に治して貰ったんですから」


「そうか、治癒師の人に・・・・・ええええええ!?、治癒師に!?俺が?ってか、どうしてそんな人が??誰が呼んだの!?」


「アルさん、落ち着いて!。ちゃんとお話しします。治癒師の方は、このシェラード家お抱えの方の様です。ちょうどこちらに所用でご滞在中でしたので、ラインハルト様がお願いしてくれたんです」


な、なんか凄い事になってたんだな・・・。しかし、やっと合点がいった。

治癒師の魔法か薬によって、骨折を治して貰えたから痛みも殆ど無いんだな。治癒師すげーー!。


「あ、そうだ!!。私、ラインハルト様にお伝えしてきますので、ちょっと待ってて下さい!。絶対、そこに居て下さいね!!」


「あ、俺も一緒に行くから・・・」


「何度言わせるんです!、アルさんはケガ人なんですから寝ててください!」


「・・・いや、しかしラインハルト様が来るなら、寝てるのは失礼だろ?」


「そんな事気にする方じゃないですから!」


「どうして、エメルダがそこまで知ってるのさ!?。もしかして、俺が寝てる間に何かあった!?」


「あ、あるわけないじゃないですかー!、何を妄想したんですか!?」


俺達がそんなコントをお送りしている間に、今度はドアをノックされた。

俺とエメルダが同時に、「「はい!」」と声を上げると、入りますね、と声が聞こえた。


「アルさん、目が覚められたんですね。安心しました」


と、ラインハルト様が話しかけてくれた。


「あ!、ラインハルド様すみません!。今、お呼びに行こうと思っていたところなのです!!」


「ラインハルト様、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。そして助けていただき感謝致します」


俺はベッドから降りていたので、片膝をついて謝罪と感謝の意を示した。


「アルさん、止めて下さい。ケガ人にそんな事させたら、私が両親に怒られてしまいます!」


そういうと、私の前にしゃがみ立ち上がらせてくれた。

いや、ホントにこの人は貴族らしくない、俺達に近い感じのする人だな・・・さっき、エメルダが言ってたことはホントだわ、と俺は得心した。


「すみません、ケガしたところもすっかり治して頂いて・・・。今は手持ちが少ないですが、治療代は必ずお支払いしますので・・・。


「治療代?、何のことですか?」


「い、いや、私のケガを治して頂いた・・・」


「アルさん、私はお金目当てとか打算で貴方を助けたわけじゃありません。そこは勘違いしないでください」


ラインハルト様は、ちょっとムッとしたような顔でそう言った。俺は、怒らせちゃったかな?と心配してしまったが、その後に笑顔になって話し出す。


「私はアルさんの事が気に入ってしまったんです。そのお連れの方から頼られて、嬉しかったんですよ。皆さんも、好きな方から頼られたら、嬉しくないですか?」


「た、確かに嬉しく思いますね」


「だから、気にしないでゆっくりして行って下さいね」


「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


俺はそう言って頭を下げた。ラインハルト様はニコッと微笑まれてから、それでは何かあれば呼んで下さい・・・と言って退室された。

ふぅ~~~っと大きな息を吐いた。当たり前だけど、緊張してたんだな・・・



暫くの後、ガチャッと音がして突然ドアが開く。

すると、今度はリオノーラが入ってきた。俺が起きたのを、誰かに聞いたのかもしれない。関係ないが、うちの身内はノックしないのな・・・別に良いけどさ。


「今、ラインハルト殿にアルが目覚めたと聞いて・・・」


「はやりか。それよりもリオノーラ、今回はありがとう。・・・色々とツラかったんじゃないか?」


「いや、気にするな。それよりも、アルの事が心配でそんな事気にする間もなかったさ」


俺は、彼女の内にあるわだかまりを心配して聞いたが、彼女は微笑んでそう答えた。

しかし、お陰で俺は短時間に治ったのだから、治癒師にもリオノーラにも感謝してもしきれない。


ただ、あまりここに長居もできない、いや出来ればしたくない。なぜなら、このシェラード家は・・・

幼馴染のフィオナの嫁ぎ先であるからして、時期的にもうこちらにいる可能性もあるからだ。


それがあったから、先日ラインハルト様を助けた時に屋敷に招かれた際に、丁重にお断りしたのだ。

もし屋敷で顔を合わせたら~・・・ほら、気まずいじゃん・・・ねぇ~。




その時、またしてもドアがノックされ聞き慣れない男性の声で、「入っても良いでしょうか?」と声を掛けられた。続けて、「アル?、入るわよ?」と、こっちは聞き覚えのある女性の声がした。


・・・・・・


・・・・


・・


え?、こ、この声知ってる、もしかして・・・ま、まさか!!

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