第18話 トラブル

「きゃあきゃあーー!、何であたし下着だけになってるの――!?」


「クッ、私まで・・・!、よもやアル、我らを酔わせ乱暴したわけではあるまいな!?」


朝から彼女たちの喚く声がうるさく耳に飛び込んできたせいで、俺の目覚めは悪い・・・。俺は何事かと周りを見てみると、エメルダは胸と下半身を腕で隠しながら、自分の服を探している。


リオノーラはというと最早、体を隠そうとせず下着姿のまま自分のレイピアを掴んで、怒気を孕ませながら鞘から抜こうとしている。

ああ、なるほど・・・俺は呆れながらも、殺されては敵わないので昨日の出来事を正直に話し出した。


「あのな、俺は何もしてない!!。昨日はエメルダもリオノーラも酔っぱらって大変だったんだぞー!?」


「そんなの嘘よ!、あたし全然覚えてないもん!!」


「それを酔っぱらってたって言うんだよ!。二人とも記憶無くすまで飲みやがって・・・って、まぁ一杯だけど」


「え?え!?、そうなの?乾杯した後から、記憶が朧気で・・・」


「もしかして、私もなのか・・・?。アル・・・わ、私は何かしでかしてしまったのだろうか!?」


「ああ・・・色々やらかしてくれたよ、ホント。大変だったんだぞ~?。まあエメルダは酒癖悪いのは知ってたけど、まさかリオノーラまでだったとはなぁ~・・・」


「ご、ごめんなさい、アルさん・・・」


「わ、私は酒癖は悪くないぞ!。今までそんな事、一度もなかったのだから・・・」


「それ、覚えてないだけじゃないのか・・・・・・?」


「あの、あの・・・あたし達何かしちゃいました?」


「あ、いや、ソレは気にしなくていい・・・。というか、アレは逆にご馳走様というか・・・」


俺が急に顔を赤くしてモゴモゴしてしまったのを見て、二人は何か感づいたのだろう・・・。彼女達も、何故か赤くなったり、モジモジし始めた。

ん?、もしかしたら、昨日のことを少し思い出してきたのかな・・・?


き、気まずい・・・。かといって、二人がキスを迫ってきた事、そして、してしまった事など今更言えるわけがない。

それに彼女達も、俺としたなんて知ったら嫌な気持ちになるに違いない・・・。


「そ、そんな事より、今日は朝からギルドを探しに行かなきゃいけないんだからな。自分達の部屋に戻って準備したら、一階の食堂に集合しようか」


「そ、そうね。じゃ、わたし戻るから・・・」


「り、了解だ。では私も後程・・・」


二人はそそくさと俺の部屋から出て、各自の部屋に準備に向かった。

ちなみに、二人は既に服を着ていたので、下着姿で出たわけではない。

俺はホッと一息ついてから、装備の確認をして着替えを済ませた後、一階に向かった。


一階に下りると、既に店主兼マスターがテーブルを拭いていた。

俺はマスターに昨日騒がした分も含めて、少し多めの料金を払っておいた。

そしてサービスで出して貰った、ハーブが効いたお茶を飲みながら二人を待っていると、いそいそと二人が揃ってやってきた。


思ったより時間が掛かったので、部屋で体を拭いてきたのかもしれない。

この宿には風呂は無いので、公衆浴場にでもあれば入ってみるのも良いかな。


「さて、朝飯食ったらギルド探しに行こうか」


「そうですね。早く行った方がいいと思います」


「そうだな。この街を見てみたいものだが、今は依頼が先だな」


昨夜の二人とはまるで正反対の、いつも通りの二人に戻っている。

朝の狼狽えた姿など無かったかのようだ。まあ俺としては、こっちの方がやりやすいから助かるが・・・。


俺達は軽く食べた後、店主にギルドの場所を聞いて早速向かった。

場所はこの宿からたいして遠くなく、三人はすんなりと到着した。


流石に大きな街だけあって、冒険者ギルドも俺達の街のより大きく奇麗である。

だが・・・冒険者の質はあまりよろしくなさそうだ。


俺達がギルドに入ると、何人かの冒険者達が胡散臭げな視線の他、エメルダとリオノーラをイヤらしい目で見てくる者もいる。

確かに二人とも、美少女や美女と言っても過言ではない。


エメルダは、顔や獣人らしい猫耳や尻尾も可愛く、そして胸も大きいのだ。

リオノーラは、エルフ特有の美しい顔立ちにストレートの銀髪、そしてスレンダーな体。


冒険者達が羨望の眼差しを向けるのも、仕方ないことだ。

そして、やがて彼女達に向いていた視線が俺に向いてくるわけで・・・。なんで、こんな顔が平凡な奴が、二人も良い女を侍らせてやがんだ?っていう、激しい嫉妬の目が・・・


いや、まあ仕方ないと思うけど・・・俺があっちの立場なら、同じ気持ちになるしさ・・・まさしく、爆発しろ!だな・・・

俺はそんな視線すら無視を決め込んで、ギルドの受付に向かった。


対応してくれた受付嬢は、ごく一般的な対応で良くも悪くも無く淡々と、依頼の内容を説明してくれた。


要するに、この街の北東部にあるダンジョンの近辺で、モンスターの目撃情報が増えているというのだ。そのダンジョン自体は、さほど大きいものではないらしいが、攻略された今でも頻繁に魔物を生み出し続けているらしい。


そのダンジョンの調査と可能な限りの魔物の討伐が、今回の俺達の依頼である。

最後に受付嬢は、冒険者さん達は多ければ多いほど助かります!、と笑顔を見せて喜んでみせた。


正直、自分達の弱小パーティでは大した貢献は出来ないと思っているのだが、やはり頼られるっていうのは悪い気はしない。ただし、上級パーティ達は討伐に向かっているようだ。


俺達が挨拶を終えてギルドから出た直後、エメルダが俺に小声で『三人程、私達の後を付けてきてます』と話しかけてきた。

さりげなく俺は後ろを振り返ると、建物の陰からスッと出てきた奴等はもう見るからに・・・っていう冒険者達ならずもので、その三人に声を掛けられた俺達はなるべく丁寧に聞いてみた。


「おい、そこのルーキー君達?」


「はい?、自分達の事ですか?。あの、何か御用でしょうか?」


「君達、この街は初めてだろう?。だから俺達が案内してやろうと思ってね。クエスト依頼だって手伝ってやるぞ?。俺らは、Dランクだからね」


「そうだぞ、俺らは優しいからな。その代わり、なんだ・・・、その綺麗な二人を少しの間貸してくれないか?」


そういってニヤニヤしながら、こっちに近づいてくる。

これって、よく冒険者ギルドで起こるテンプレみたいなシチュエーションだよな~・・・


「いや、普通に嫌です。ってか、彼女達貸せる訳無いじゃないですか、どう考えても」


「そうよ、嫌に決まってるじゃん!。それに、街の案内も依頼の必要ないから!。キモい!」


「迷惑だ、去れ!チンピラ!!」


もう三人でかなり強めに相手をなじってやった。

ってか、俺より二人の方が酷いこと言ってるけどね・・・


「あぁ?、折角俺らが親切で言ってるもんをよ~。下手に出てりゃつけあがりやがってーコラ!!」


「良いから来いよ、女共!」


「俺達がイイ思いさせてやっからよ~~~イヒヒ」


はぁ・・・昨夜あんな事があった次の日にこれか・・・トラブル続きだな~

仕方ない、ここは俺が相手を・・・と思って前に出ようとしたら、リオノーラは自分の左腕を掴んできた男の右腕を掴んで、軽く左に捻った。


男は右回転してあっという間に、地面に背中から落ちた。

男は何が起きたのか分からないようで、ただ背中から落ちた為呼吸しずらいようだった。


「何しやがった、テメー!?」


後から来た男達はいきり立って、腰を落として戦闘態勢になる。

おいおい、相手を捻って倒した程度でビクつくなよ、と思いながら今度こそ俺が前に出る。


「止めましょう。今のはこちらに手を出したからで、私達から手を出すことはありません。ただ、もしこれ以上手を出してくるようであれば、俺達も手加減できませんよ?」


俺は、正直内心ドキドキもんだ。相手はランクが上だし、いくらリオノーラがいても万が一ってこともあるし。しかし、ここは強気で行かなきゃ・・・


「ちっ、覚えておけよ!」


「嫌です。俺、物覚え悪いんで・・・」


俺はもう少し粘ってくるかと思ったが、相手は倒れた男を引っ張ってさっさと引き返して行った、捨て台詞を吐いて・・・


どこでもそうだが、冒険者同士の争いはご法度だからかもしれない。

それにしても・・・・・・ふぅ~~~、怖かった~~~~はぁ・・・

心底、俺はホッとしてリオノーラに声を掛けた。


「大丈夫だったか?、ケガはしてない?」


「アル、心配してくれてるのか?。私は大丈夫だ、ありがとう」


「なら良かった。お前に何かあったら大変だからな」


「アルさ~~ん、カッコ良かったー!。『何があっても、俺はお前を守る!』なんて~♡」


「・・・・・いや、そんなこと言ってないから。耳、大丈夫か?」


「とにかく、リーダーとして私達を守ってくれたんだ。見直したし・・・惚れ直した(ボソ)」


「え?、惚れ直した・・・?あ、あの、リオノーラさん?、それどういう・・・」


「バ、バカ!、こういう時は聞こえない振りするんだよ、普通は!」


ごめん、俺はそういう難聴主人公キャラじゃないので・・・。

ん・・・?う~ん、最近自分でもよく分からない事言うんだよな~~



まあ、取り敢えず何とか追っ払えたので、俺達は気を取り直してデボネアの街を後にして、問題のダンジョンまで行くことにした。

とにかく、もうこれ以上問題が起こらないことを祈って・・・

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