幽霊と社畜

びね

第1話

 やばい、変なものが見える……俺の隣に変なのがいる……というかぶっちゃけここ一週間ほどその変なのは見てたんだが……。


 気づいたのは会社からの帰り、会社から駅に向かう途中。人ごみの中に変わった格好の人がいるなあと記憶に残った。

 白っぽい模様のないスモックというか入院したときに患者が着るようなあんな感じの、ペロンとしたちょっと長めの上着。ズボンも何も吐いていないように見えた。靴はそこまで見れなかったからわからないけど。でもその恰好なのに、すれ違う誰もが全く気にしなくって逆に笑えたというか、まあ俺もその場ですぐに忘れるような事ではあった。

 二日後に今度は朝、駅から会社に向かう途中に見かけた。また同じ人(たぶんだけど)を同じ格好で見つけてしまって、アクティブだな!とかにやけて見てた。

 翌日は会社の廊下であのてろんとしたスモックのような物を曲がり角で見たような感じがした。

 この時もっと気にすればよかったんだがなんせ忙しかった。その時の俺には足を止める選択がなかったわけで。というか毎日忙しい。ハッキリ言って定時?なにそれ?おいしいの?という毎日だし。

 その後も何度も見かけた。数えきれないくらい視界の中に入ってきた。

 最初は着ている物しか意識していなかったけれど、何度も見るうちに顔も覚えた。俺よりも多少年上のように見えて、顔立ちは日本人っぽくないイケメン。欧米人っぽい顔立ちといえばいいのか、彫が深い鼻と目。髪は薄茶で金髪とまではいかない感じ。もしかしたら俺と同じくらいの年齢なのかもしれないけど、外国人が日本人の年齢が分からないのと同じで俺からしたら外国人の年齢もよく分からん。まあ背の高いイケメンってことだ。そんな人がてろんとしたスモック姿でウロウロしてるのをここ一週間にこれでもかというくらい見かけた。

 歩く姿に違和感はなかったし目が合って何かに巻き込まれても嫌だから気づかないふりでやり過ごしていたわけだけども。


 そいつが今、一人暮らしをしている俺の部屋の俺の横に並んで座っているんだが???





 私に気づいているのか……?いや、気づいていないな……。


 隣に座っている男をチラリと見る。

 一瞬私に気づいたような素振りを見せた気がしたが、男はスマホというらしい板を見つめ必死に手を動かしている。隣で眺めている私の存在に気づくことなく。


 スマホを見つめている男が何を見ているのか気になり、横から覗いてみるが残念なことに横からは見えないようになっているらしく黒い板としか見えない。仕方がないので立ち上がり男の後ろに回って手元をのぞき込む。

 男は病気を患っているのだろうか?スマホには病院の紹介が羅列されていた。


 男……男は私が集めた情報によるとキサラギという家名をもっているらしい。

 集めたといっても男が「キサラギ」と呼ばれて返事をしていたのを見かけたからだけなのだが。

 そのキサラギは病院を探しているように見受けられる。どこか体の具合が悪いのだろうか?この国の人間ではない私から見るとキサラギは働きすぎだと思っていた。師匠がキサラギのような仕事が忙しく遅くまで働き休みもなかなか取れない人種のことを「社畜」と呼ばれている、と教えてくれた。


 キサラギは働き過ぎで体を壊しているようだ。師匠に相談したほうがよいのかもしれない……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る