第43話 手紙


 「にしても、よく思いつくよね」


 「ん?」


 真夜中の訓練場で、香耶がつぶやくように言った。


 「だからさ、今やろうとしているようなこと。酸欠状態を引き起こす方法とか」


 「ああ、そういうことか。それは、俺の思いつきじゃないよ」


 「え?、そうなの?」


 「うん。もともと空道っていう武道の流派の技から着想を得たものだしね」


 「へえ~。じゃあさ、なんでそう言うこと知ってるの?」


 目を輝かせながら聞いてくる香耶の額を、小次郎は軽くデコピンした。


 「いたっ!」


 「さては、訓練飽きてきたんだろう」


 「うっ、するどい・・・・・」


 小次郎は少し考え込んだ後、笑みを浮かべながら付け加えた。


 「・・・・少し、休憩しようか」


 「うん!」


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 2人しかいない闘技場に座り込み、香耶が話し始めた。


 「それで、なんでそういう武道とかのこと知ってるの?」


 「ん~、俺の異能は知ってるだろう?」


 「うん」


 「俺の異能って、基本的に自分の体を改造することしかできないわけだ」


 「うん」


 「てなると、少しばかり力業で、武道とかの奥義が使えちゃうんじゃないかなと」


 「あ~~、そういうこと」


 「そういうこと」


 しばし、2人の間に沈黙が落ちる。しばらくして、口を開いたのはやはり香耶であった。


 「ねえさ」


 「ん?」


 小次郎は、香耶のほうに顔を向けて、首を傾げた。


 「具体的に、襲える機会があると思う?」


 (まあ、復讐のことだろうな・・・・)


 「普通に考えれば、無理だな」


 「じゃあ、どうするつもりなの?」


 「外出先を狙う」


 「まあ、それは私にもわかるよ。官邸内に引っ込まれたらやりようがないもんね」


 (やり方はあるんだけど、時間がかかるんだよなあ・・・・・・)


 「外出先で、なるべく人が多いところ。そこで騒動を起こす。警備の注意がそっちにそれた瞬間にさらえばいいだろ」


 「そんなにうまくいくかな・・・・。今の、事前の状態でできることってないかな?」


 (あせるな、としか言いたくはないが、実戦経験もないんだ。不安は取り除いてやらないとな)


 「そうだな~。・・・・手紙を送るってのはどうだ?」


 「・・・・一応聞くけど、誰に?」


 「もちろん、最高責任者」


 あんたバカじゃないの、とでも言いたげな顔つきになった香耶に、小次郎は吹き出しそうになった。


 「そ、そんな顔するなよ。俺は真面目だよ」


 「説明して」


 「だからさ、謝罪する気があるかどうか、確かめるんだよ」


 「そういう意味だったのね・・・・・。でも、それって警戒させるだけじゃない?」


 「それは大丈夫。香耶のことを公表できない以上、警備を強めるのは不自然だろう? それこそ、メディアとかに勘繰かんぐられかねない」


 「・・・・・・いいアイディアね」


 ※次回更新 5月22日 金曜日 0:00

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