第28話 過去4


 (砂埃で全然見えない・・・)


 その場でスコープを覗いていた小次郎は、短くため息をついた。ここからでは砂埃がひどくてまったく敵の姿が見えない。


 (ま、あの人たち、腕だけは一流だから相打ちくらいにはするだろ)


 小次郎は構えていた銃を置き、腰からロングマガジンのついたハンドガンを取り出す。モードはバースト。一度引き金を引くと、数発ずつ発射されるモードだ。


 (近づかれると弱いからな、ライフル)


 さらにわきに下げたナイフを確認しておく。トリガーフィンガーつきのタクティカルナイフだ。


 「よし、」


 ハンドガンをそばに置き、ライフルを構えなおす。右目でスコープをのぞき、左目で砂埃をにらむ。


 長い長い、緊張の始まりだ。


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 それから約1時間後、小次郎の腕がしびれ始めたころ、ふいに砂埃がかき分けられた。


 (敵だ、)


 伏せた全身に砂をかぶっている小次郎に敵はまだ気づいていない。小次郎はリラックスしながら軽く引き金を引いた。それこそ、ゲームセンターに通い詰めた高校生のように。


 ダーン、


 ドサッ


 倒れた死体を飛び越えるようにして、また3人ほどの敵が突進してきた。小次郎はライフルをどけ、ハンドガンを握り締めながら横に転がる。


 ダダダダダダダダ!

 

 フルオートの射撃音が響き、小次郎が今までいたところが吹き飛ぶ。敵のエイムが追いつく前に、小次郎のハンドガンが火を噴いた。


 バババ、ババッ、ババババ!!


 その弾丸は綺麗に敵2人の首に命中する。小次郎はハンドガンを構えたまま、倒れかかった敵に近づき、盾にして残りの一人に突っ込む。


 「っ!!」


 戦場で銃を撃つときに声を上げるような余裕はない。盾にした死体に銃弾が食い込み、そのわきから素早く転がり出た小次郎の指が軽やかに引き金を引いた。


 「ぐはッ!」


 太ももに命中し、敵は態勢を崩す。小次郎は伏せながら敵の首に銃口を向けた。


 ヒュー、ヒュー、


 穴の開いた首から空気が漏れ出して、不快な音を上げた。小次郎は弾を再装填し、起き上がる。


 「よう、狩谷。終わったか」


 「・・・ああ、あんたもな」


 ひげ面が手ぶらで現れた。満足そうに笑っている。けがをした様子はまったくない。


 「へへへ、俺以外皆死んじまった。報酬がたんまりだぜ。おい、その銃よこせ。手ぶらじゃ、帰り困る」


 「・・ここであんたを殺したらどうなるのかな」


 小次郎は独り言のようにつぶやいた。上機嫌だったひげ面の額に一瞬で青筋が浮かぶ。


 「あああ⁉ てめえ、なにほざいてやがる!!」


 口調と裏腹にひげ面の手が、腰のナイフに伸び始めていた。


 ※次回更新 3月31日 火曜日 0:00


 ※トリガーフィンガー:刃の根元についている指を入れるようのリングのことです。

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