セカの街の下級冒険者6

「今日は寝坊かゴート?」

「今日は依頼はお休み。色々買い出しとかする日なんだ。あ、おまかせで」

普段より二時間ほど遅いから寝坊と思われたみたいだ。まあ確かにゆっくり寝てたけども。財布からおやっさんに五百エル渡す。最近バーガーはおまかせで頼んでいる。おっちゃんが五百エルの範囲でその日仕入れた具材に合わせて作ってくれるのだ。これが毎朝の楽しみになっている。

今日のバーガーは豚肉と葉野菜がたっぷりだ。うまい。


朝食もそこそこに魔道具店シーラへと向かう。グスタフさんの紹介状もあるし特に問題は無いはずだけど、初めて行くお店はやっぱり少し緊張する。


魔道具店シーラはそこそこ大きい二階建てのお店だった。少なくともこの前行った戦闘用魔道具の店よりは確実に大きい。

いつまでも入り口に居ても仕方がない、店へとはいる。

「いらっしゃいませー」

中にはいると店員の挨拶が聞こえる。

売り場には二人店員がいて、奥に会計だろうかもう一人座っていた。


何はともあれ紹介状を渡さなければと思い、近くの店員に声をかけ、紹介状を渡す。すると奥の会計に居る者に渡していただけますとと、促され言われた通りその店員に渡す。店員は紹介状を読み終えこちらを向いた。

「ゴート様。当店を選んで頂きありがとうございます。本日担当のキストと申します。よろしくお願いします」

「キストさん、こちらこそよろしくお願いします。魔道具については素人なので色々教えてください。あ、あともう少し気軽な感じになりませんかね?少し緊張してしまって。あと様付けはやめて貰えると助かります」

グスタフさんの時もそうだったが畏まられるとこっちも緊張してしまう。あと様付けは何だか背中がぞわぞわする。

「かしこまりました。ゴートさんとお呼びしますね。確認ですが本日は水の魔道具を購入したいということで間違い無いですか?」

「はい。値段にもよりますけど」

「では早速ですが、紹介状にある条件を満たすような魔道具を持ってきますね」


そういうとキストさんは店の奥から何個かの魔道具を持ってきてくれた。

「まずこれが基本の水筒型です。形も普通の水筒とほぼ同じですし、値段も二万からで一番お手頃なものですね。次が深皿型とでもいいましょうか水筒型と比べ横に大きく縦に短いのが特徴です。最後が細筒型で前二種類と比べ値段が高いです、細長く場所も余り取りませんが出力が低めですね。そして三種類共通で出力を上げたものと、より頑丈にしているものがありますね。また値段が上がれば上がるほど性能は良くなっていきます」

「凄いですね…。正直こんなに沢山種類が有るとは思いませんでした」

想像以上の充実具合に正直驚いているし、どれにしようか迷う。

「ありがとうございます。当店の場合基礎となる魔道具が値段毎に有り、そこにお客様の要望に沿いながら出力向上、強度向上の加工を施す仕組みとなっております。なので最初は沢山種類があるように思うかもしれませんが、実際はそうでもないのですよ。現に私達の店舗では小型化は出来ませんしね。ある程度高級な店や凄腕の職人がいる店はそれこそオーダーメイドや小型化、極度の特化型等様々な加工が出来ますから。この分お値段の方もそれ相応になりますが」

凄い世界だ。今の自分には到底理解出来ない世界だ。この店の品揃えでも悩んでるのに、これ以上選択肢が増えても追い付かなそうだ。

さて、どの種類を選ぶかだが実はもう決まっている。

やはり三種類の中で一番場所が取らない細筒型だろう。多少値段が張っても持ち運びに便利なのが一番だ。強度向上の加工もしてもらった方が良いかな。

「細筒型で強度向上の加工をしたものにしようかと考えてます」

「細筒型ですと三万エルと四万五千エルの商品がありますね。強度向上加工は一律二千エル、装填用の魔石は初回は無料で次回から交換に五千エルかかります。といっても水の魔道具は毎日大量の水を使わない限り一ヶ月は確実に持ちますし、飲み水用なら二ヶ月以上持つことも多いですよ。魔石の交換は水の出が悪くなってきたら交換して頂ければよろしいかと」

「四万五千エルの方で強度向上加工もお願いします」

五万エル以下なら買うと決めていたので購入を決めた。

冒険者になって一番大きな買い物に緊張したのか心臓がうるさい。

「ご購入ありがとうございます。それでしたら在庫に有りますので直ぐにお渡し出来ます。少々お待ち下さい」


エキスさんが持ってきた魔道具は普段使っている水筒と同じくらいの長さで二回り細い。これなら荷物にもなりにくいし、泊まりの依頼も大丈夫だ。


エキスさんに四万七千エル支払う。そういえば整備について聞いていなかった。

「そういえばどのくらいの頻度で整備すればいいんですかね?」

「一応三ヶ月に一回が目安ですが、冒険者の皆様には二ヶ月に一回をお勧めしています。職業柄どうしても負荷がかかりやすいですから」

「わかりました。二ヶ月を目処に整備に出したいと思います。エキスさん、今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそお買い上げありがとうございました。またのご来店をお待ちしておりますよ」

エキスさんに見送られながら店を出る。

これで遠くの採取依頼や夜通しの警備依頼も安心だ。


午後時間が余っていたのでヨギ草の採取依頼を受けた。時間的に二袋が限界だったけど半日の成果としては十分だ。また森のなかで魔道具を試してみた。魔道具を持ちやや固いフックを引っ張ると筒の空洞になっている部分に水が貯まっていく。数秒でコップ一杯分位かな。今までのことを考えると凄まじい進化だ。何より回りを警戒したまま出来るのが良い。満足のいく魔道具だ。



部屋に戻って財布をみる。手持ちは一万六千エル。

家賃の支払いはまだかなり先とはいえ如何せん心許ない。

明日からは稼がないと。余裕はあんまり無いんだけど魔道具を見るとついつい笑顔になってしまう。自分の魔道具を持つっていう夢の一つがかなったのだ。

魔道具を枕元に置いて床にはいる。今日は良い夢が見れそうだ。

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