『ウェイトレスインマイホーム-後編-』
俺と母さんは撮影した写真を、LIMEで結衣と芹花姉さんに送る。
結衣と芹花姉さんはさっそく自分のスマホを確認すると、とても満足そうな様子になっていた。
「ありがとうございます、悠真君、お母様!」
「2人ともありがとう。写真で見ても、ウェイトレス姿の結衣ちゃん可愛いな」
「お姉様も可愛いですよ」
お互いに褒め合うと、結衣と芹花姉さんは楽しそうに笑い合っている。とてもいい光景だ。2人を見ていると微笑ましい気持ちになる。
「写真も撮ってもらいましたけど、これで脱ぐのは惜しい気持ちになりますね」
「それだけ、この制服が気に入ってくれたんだね。嬉しいな。……じゃあ、私と一緒に、ユウちゃんとお母さんに接客してみる? せっかく、ウェイトレスの制服を着ているんだし」
「それいいですね! 悠真君とお母様はいかがですか?」
「あら、いいじゃない。楽しそうだわ」
「ウェイトレス姿の結衣の接客か。一度されてみたいな」
目の前にいるから、結衣に接客される場面を想像してしまう。それもあって、自然と頬が緩んでいくのが分かった。
母さんも俺も肯定の返事をしたから、結衣と芹花姉さんは嬉しそうな笑顔になる。
「じゃあ、決定だね。リビングの扉をレストランの入口ってことにしようか」
「それがいいな。じゃあ、リビングを出ようか、母さん」
「そうしましょう」
「結衣ちゃんとちょっと打ち合わせするよ。準備ができたら、私が『いいよ』って言うから」
「分かった。……楽しみにしているよ、結衣、芹花姉さん」
俺は母さんと一緒にリビングから出る。暑いけど、結衣と芹花姉さんにもうすぐ接客されると思うと我慢できる。
まさか、自宅でウェイトレス姿の結衣と芹花姉さんに接客される日が来るとは。想像もしなかったな。壮大なおままごとって感じかな。それとも、出張レストランと言うべきか。
「この家でウェイトレス姿の娘達に接客されるときが来るなんてね」
「俺も同じようなことを考えていたよ」
「ふふっ。そういえば、最後に悠真と2人で外食したのはいつだったかしら」
「母さんと2人で外食したのは……高校の制服の採寸をした帰りが最後かな。だから、3月の上旬頃が最後か。卒業式の日は家族全員で行ったから」
「あの頃が最後だったのね。5ヶ月前のことだけど、悠真が高校に入学したり、結衣ちゃんっていう彼女ができたりしたから、随分と昔のように感じるわ」
「そうだな」
俺も随分と昔のことのように思うよ。
金井高校の制服の採寸をしたときには、まさか、高校で『高嶺の花の高嶺さん』と呼ばれるほどに人気な結衣と出会って、付き合うことになるとは思いもしなかった。それを当時の俺に教えても信じてはもらえないだろうな。
『入ってきていいよー』
と、中から芹花姉さんの声が聞こえてきた。どうやら、2人の打ち合わせが終わったようだ。
「入ろうか」
「そうだな」
俺がリビングの扉を開けて、母さんと一緒にリビングの中に入っていく。
リビングに入ると、そこにはウェイトレス姿の結衣と芹花姉さんが並んで立っていた。2人はにこやかな笑顔で、
『いらっしゃいませ!』
と、元気良く挨拶してくれた。一瞬、ここがドニーズに思えた。
ウェイトレス姿で挨拶してくれた結衣が可愛すぎるんですけど。凄くキュンとなる。先日、結衣はアイドルのコンサートの物販バイトをした。そのとき、接客する結衣の笑顔にキュンとなったお客さんは何人もいたんじゃないだろうか。
芹花姉さんの笑顔もさすがの可愛らしさだ。お客さんから黄金色の天使と崇められているのも納得だな。
「何名様ですか?」
と、結衣は俺達に問いかける。その直後、母さんは俺の方をチラッと見て小さく頷く。俺が答えてってことかな。まあ、結衣が訊いてきてくれているもんな。
「2人です」
「2名様ですね。喫煙席と禁煙席、どちらになさいますか?」
「禁煙席で」
俺は未成年だし、母さんもたばこは吸わないからな。
「禁煙席ですね。こちらにどうぞ」
結衣は明るい笑顔でそう言った。そんな結衣のことを芹花姉さんは優しい笑顔で見守っている。まるで、本当のバイトの先輩のようだ。これまでも、こういう雰囲気で後輩のスタッフと接してきたんだろう。
結衣と芹花姉さんによって、母さんと俺はキッチンにある食卓まで案内される。
俺は食卓を挟んで母さんと向かい合うようにして食卓の椅子に座った。
「お水になります」
俺と母さんが座った直後、芹花姉さんが俺と母さんの前に水の入ったコップを置いてくれた。こういうところもレストランらしい。一口飲むと……水道水だからあまり冷たくはないけど、結構美味しく感じる。
「こちら、メニューになります」
結衣は食卓にメニューが書かれたメモ用紙を置いてくれる。打ち合わせの間に用意したのだろう。簡素だけど、メニューまで用意するとは本格的だ。
メニューを見てみると……飲み物はアイスコーヒー、ホットコーヒー、アイスティー、麦茶。お菓子はいちごマシュマロにクッキーか。うちにあるものだから、提供できるのはこんなものだよな。
「お母さんは決まったわ。悠真はどう?」
「俺も決まったよ」
「じゃあ、呼びましょうか」
「ああ。すみませーん、注文いいですか?」
「はーいっ」
結衣は返事をして、結衣と芹花姉さんが食卓のすぐ側までやってくる。結衣はメモ帳とボールペンを持っている。
「ご注文をお伺いします」
「母さんからどうぞ」
「ありがとう。アイスティーをお願いします」
「アイスティーですね」
と、結衣はメモしている。しっかりとウェイトレスさんやってるな。
「あと、アイスコーヒーといちごマシュマロをお願いします。以上で」
「アイスコーヒーといちごマシュマロですね。確認いたします。アイスティー、アイスコーヒー、いちごマシュマロ。以上でよろしいですか?」
「はい」
結衣の目を見ながらそう返事した。ウェイトレス姿の結衣が可愛すぎて、結衣をお持ち帰りしたいとか考えてしまったけど、それは何とか心に留めておいた。
「少々お待ちください」
「結衣ちゃん凄いね。2日間、コンサートバイトの物販バイトをしたおかげだね」
「褒めてもらえて嬉しいです」
「ふふっ。じゃあ、注文されたメニューを用意しようか」
「はいっ」
その後、結衣と芹花姉さんはキッチンの調理スペースに行き、注文を受けた飲み物とお菓子の用意をしていく。どうやら、結衣はお菓子担当、芹花姉さんは飲み物担当のようだ。
注文したメニューをウェイトレスさんが用意する姿はなかなか見られないから、見ていて結構面白いな。
注文をしてから2、3分ほどして、結衣は木製のボウルを持ち、芹花姉さんはマグカップ2つを持って食卓までやってきた。
「お待たせしました! いちごマシュマロになります」
「アイスティーとアイスコーヒーになります」
そう言って、結衣はマシュマロの入ったボウルを俺の前に、芹花姉さんは母さんと俺のそれぞれの前にマグカップを置いた。
「以上でよろしいでしょうか」
「はい。ありがとうございます」
結衣はそう言うと、芹花姉さんの横に立って俺と母さんのことを笑顔で見ている。実際のレストランなら。ウェイトレスさんはすぐにテーブルから離れるけど、ここは家だからな。
「じゃあ、さっそくアイスティーいただきます」
「俺もアイスコーヒーいただきます」
俺はアイスコーヒーを一口飲む。結構冷たくて、苦味が俺好みの濃いめになっていてとても美味しい。さすがは芹花姉さんである。
「コーヒー美味しいな」
「アイスティーも美味しいわ」
「良かった!」
とても嬉しそうに言う芹花姉さん。自分の作った飲み物を美味しいと言ってもらえたからだろう。
コーヒーを飲んだので、次に結衣が用意してくれたいちごマシュマロを一つ。……市販のものだけど、結衣が用意してくれたのもあり、いつも以上に美味しく感じられる。
「マシュマロも美味しいよ。用意してくれてありがとう、結衣」
「いえいえ。市販のマシュマロだけど、自分が出したものを美味しいって言ってもらえて嬉しいよ」
結衣はニコッと笑いかけながらそう言ってくれる。そのおかげで、口の中に残っているマシュマロの甘味が強くなった気がした。
「ねえ、悠真君。マシュマロを食べさせてあげようか?」
「い、いいのか?」
「うんっ!」
「結衣ちゃんらしいね。私もユウちゃんにマシュマロ食べさせたいな。ドニーズには一口食べさせるサービスはないけど、出張ドニーズの特別サービスってことで」
「姉さんらしいな。分かったよ」
「ありがとう。マシュマロ食べさせサービス承りました!」
「承りました!」
結衣も芹花姉さんも凄く楽しそうに承ってくれる。そんな2人のことを、母さんはアイスティーを飲みながら微笑ましそうに見ていた。
結衣と芹花姉さんはボウルからいちごマシュマロを一つずつ掴み、
「悠真君、あ~ん」
「ユウちゃん、あ~ん」
結衣、芹花姉さんの順番で俺に食べさせてくれた。
通常のドニーズにはないサービスだから、どちらのマシュマロもとても美味しくて。ウェイトレス姿の結衣から食べさせてもらった方は特に。
「美味しかったよ。2人ともありがとう」
「いえいえ。ウェイトレス姿で一口食べさせるっていう貴重な体験をさせてくれてありがとう」
「私もだよ、ユウちゃん! ありがとう!」
芹花姉さんはテンション高めで俺にお礼を言ってきた。これまで、姉さんがバイトしているときにドニーズへ行ったことが何度もあるけど、そのときは俺が注文したメニューを一口食べさせたかったのかもしれない。
「ねえ、悠真君」
俺の名前を呼ぶと、結衣は俺に顔を近づけて、
「私のマシュマロはいかがですか?」
俺にしか聞こえないような小さな声でそう耳打ちしてきた。
私のマシュマロ……胸のことだろうか。マシュマロみたいに柔らかいのって胸くらいだし。そう考えた瞬間、体が熱くなって。
結衣の方を見ると、結衣は笑顔で至近距離から俺を見つめていて。結衣の笑顔は頬を中心にちょっと赤らんでいて。きっと、俺の推理は当たっているのだろう。まったく、結衣らしいな。
「それはいずれ……お持ち帰りで」
結衣を見つめながらそう言った。その返答が嬉しかったのか、結衣はニッコリとした笑顔で「はいっ」と返事した。本当に可愛いウェイトレスさんだよ。
さっき、注文のときに結衣のことをお持ち帰りしたいと考えたけど、まさかこういう流れでお持ち帰りと言えるとは。何だか嬉しい気持ちになった。
「結衣のウェイトレス姿を見られるだけじゃなくて、接客までしてもらえるなんて。凄く楽しい時間だったよ。ありがとう、結衣。芹花姉さんも、制服を結衣に貸してくれた母さんもありがとう」
「私もとても楽しい時間になったよ、悠真君。お姉様、お母様、ありがとうございました」
「いえいえ! お家だけど、結衣ちゃんと一緒にウェイトレスの制服を着られて、一緒に接客できて楽しかったよ! ありがとう!」
「ウェイトレス姿の結衣ちゃんを見られたし、接客してもらえて嬉しかったわ。こちらこそありがとう」
結衣はもちろん、芹花姉さんと母さんにとっても楽しい時間になったようで良かった。
その後は結衣と芹花姉さんの分もアイスティーを淹れて、しばらくは4人で食卓を囲んで談笑していく。お家デートをしようと決めたときには予想もしなかったことだけど、たまにはこういう時間を過ごすのもいいものだ。
いつかは結衣も飲食店でバイトをするのかな。もしそうなったら、そのお店に行き、バイトの制服姿の結衣に接客されてみたい。俺の隣の椅子に座って楽しそうに話すウェイトレス姿の結衣を見ながらそう思うのであった。
『ウェイトレスインマイホーム』 おわり
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