第12話『海で恋人達と』
結衣と芹花姉さんに体の背面に日焼け止めを塗ってもらった後は、自分で体の前面に塗っていく。
結衣は俺に日焼け止めを塗り終わると、レジャーシートから出て、こちらを向いた状態で準備運動している。結衣曰く、海に入る前にしておきたいとのこと。腕や脚を伸ばしたり、屈伸をしたり、上半身を回したりなどしてしっかりと。水着姿だから、準備運動する様子も凄く色っぽく見える。
また、結衣を見習ってか、胡桃や伊集院さん、中野先輩、柚月ちゃんもレジャーシートから出て準備運動。美少女5人が目の前で運動しているから、たまに見入ってしまって、日焼け止めを塗る手が止まってしまうことも。
「目の保養になるわぁ」
「みんな可愛いですよね、杏樹先生。あと、5人の準備運動を見ていると懐かしい気分になりますね。特に結衣ちゃん。水着を着ての準備運動なんて水泳の授業のときくらいですし。それも中3が最後でしたから」
「分かる。遊ぶときはせいぜい軽くストレッチするくらいだもんね。私は高校まで水泳の授業があったから……っていっても8年前が最後か」
「ふふっ」
福王寺先生と芹花姉さんはレジャーシートの中でリラックスした体勢になり、結衣達を見ながら談笑している。俺はまだ懐かしめる境地には至っていないけど……どうやら、歳を重ねると色々と思うことがあるようだ。あと、目の保養になるという先生の言葉には心の中で深く頷いた。
「……よし、終わった」
日焼け止めを塗り終わったので、ボトルを自分のバッグに戻す。
「……そういえば」
バッグの中にある自分のスマホを見たとき、この海水浴場に着てからの結衣の水着姿をまだ撮っていないことに気づいた。俺はバッグからスマホを取り出す。
「なあ、結衣。水着姿の結衣をスマホで撮ってもいいかな? 試着したときに撮ったけど、ここでの水着姿も撮りたくて」
「もちろんいいよ!」
「ありがとう」
レジャーシートから出て結衣にスマホを向けると、結衣はとても明るい笑顔でピースサインをしてくれる。そんな結衣はこの海水浴場にいる誰よりも輝いていて。素敵な結衣の姿をスマホで撮影した。
「いい写真が撮れたよ。ありがとう、結衣」
「いえいえ。あと、みんなとの写真も撮ってほしいな」
「もちろんさ。LIMEのグループトークにアップするよ」
「ありがとう! みんな来て来て!」
「うん! お姉ちゃん!」
「可愛く撮りなさいよ、悠真」
「みんなで来た記念に撮るのです」
「写真っていいよね、姫奈ちゃん。あとで、ゆう君と結衣ちゃんの写真を撮るね」
それからは主に俺が撮影者となって、水着姿の撮影会となる。
準備運動していた中高生女子5人や、芹花姉さんと福王寺先生を入れた旅行の女性メンバー全員の写真を撮る。結衣、柚月ちゃん、芹花姉さんによる将来の義理の3姉妹ショットとかも。一緒に旅行に来た女性達の可愛らしい姿を何枚も撮り、グループトークにアップした。
また、約束通り、胡桃が自分のスマホで結衣と俺のツーショット写真を撮り、グループトークにアップしてくれた。また、福王寺先生が俺を含めた結衣達との写真を何枚も撮ってアップしてくれて。それらの写真をさっそく俺のスマホに保存しておいた。
「たくさん写真が撮れたな」
消してしまわないように気をつけないと。
今はまだ1日目の午後だ。これからも旅行中に色々な写真を撮ろう。
スマホを自分のバッグに戻し、俺はレジャーシートの外に出る。砂浜に来て暑さに慣れてきたと思っていたけど、直射日光を浴びると結構暑い。
さっきの結衣達に倣って、俺も軽くストレッチする。
「よし、このくらいでいいかな」
「体を伸ばしている悠真君、なかなか良かったよ。さあ、一緒に海に入ろう!」
爽やかな笑顔でそう言うと、結衣は俺の右手をしっかり掴んで、海の方に向かって走り出す。
最初は結衣に手を引かれる形だったが、すぐに結衣の隣まで行き、一緒に走る。
そして、ついに俺は結衣と一緒に海へ足を踏み入れた。
「意外に冷たいんだね!」
「そうだな! 晴れて暑いし、人も多いからぬるいかと思っていたけど。冷たくて気持ちいいな」
「そうだね! 少し波もあるから、海に入っているんだってより実感できるね」
「ああ。波が脚に当たって気持ちいい」
「うん!」
結衣はとても楽しげな笑みを浮かべ、そう返事してくれる。
青い空に青い海。そして、青い水着姿の結衣が楽しそうにしている。エオンで結衣の水着を選んだときにもそういった光景を想像していた。ただ、実際に目の当たりにすると……これは素晴らしい。ここにいる水着姿の女性の中で一番可愛い。ミス水着コンテストなんてものがあったら優勝間違いなし。
恋人と一緒に海に入るときが来るなんて。結衣と付き合い始めるまでは全然想像できなかったな。
色々と物思いにふけていたら、結衣はちょっと離れたところに移動し、こちらを向いている。ニコニコしている結衣も可愛いなぁ、と思いながら彼女を見ていると、
「それっ!」
結衣は両手で海の水をすくい上げ、俺の顔にかけてきた。
「おっ!」
突然だったり、冷たい海水が初めて顔にかかったりしたので、甲高い声が出てしまった。そのことに結衣は「あははっ!」と大きな声に出して笑う。
「悠真君いい反応だね! でも、嫌だったならごめん」
「ううん、気にしないで。突然で驚いたけど、冷たくて気持ちよかったし。それに、水をかけられたら――」
俺は結衣にめがけて海水をかける。その水しぶきが、結衣の顔を中心にクリーンヒット!
「きゃあっ!」
「かけ返せばいいだけだからな!」
「ふふっ。悠真君の言う通り、水が顔にかかると気持ちいいね! あと、当たり前だけど海の水しょっぱーい!」
楽しげにそう言う結衣。
今の結衣の笑顔を見ていると、事務所からアイドルしないかとスカウトされるのも納得だ。アイドルが水着姿になって、海で遊んでいるグラビア写真とかあるもんな。結衣は背が高くてスタイルがとてもいいから、モデルになっても人気出そう。
「よーし、私もかけ返しちゃうよ! そーれっ!」
「おっ! 俺も。それっ!」
「きゃっ!」
それから少しの間、結衣と海の水をかけ合う。
漫画やアニメ、ラノベ、ドラマで海に行くと、カップルや友人同士で水をかけ合うシーンは定番だ。そういうとき、楽しそうにかけ合っているけど……本当に楽しいことだったんだな。相手が結衣だからかもしれないけど、物凄く楽しい。これからしばらくの間、水着回を読んだり、見たりしたときは、今日のことを思い出しそうだ。
「次はたくさんかけちゃうよ! えいっ!」
「うわっ!」
今までよりも、結衣にたくさんの海水を顔にかけられる。そのことで目にも海水がかかってしまって痛い。
「痛ぇ……」
「ごめんね、悠真君。目、大丈夫?」
「……ああ」
ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前には結衣の姿が。ちょっと心配そうな様子で俺を見ていた。
「大丈夫だよ、結衣」
結衣の頭を優しく撫でる。そのことで結衣の顔に笑みが戻っていく。
「ゴーグルをかけてなければ、海で遊んでいたら目が痛くなるのはよくあることだよ。目を狙って海水をかけないようにしよう。それでいいさ」
「うんっ」
小さな声で返事すると、結衣は俺の目を見ながらゆっくりと頷いた。
今の結衣の姿が可愛くて、それまで頭に乗せていた手を背中に回し、結衣を抱き寄せる。その流れで結衣にキスをした。海水がかかっているからか、結衣の唇はいつもよりも湿っていて。
「んっ……」
唇を重ねてからすぐ、背中から温もりを感じ、結衣の方から舌を絡ませてくる。互いに海水が顔にかかっているから塩気を感じて。
あと、ここは海で周りに人がたくさんいるんだけどな。でも、結衣とのキスの気持ちよさが勝って、唇を離す気にはならなかった。いや、そもそもキスしたのは俺からだし、俺から唇を離す権利はないか。
やがて、結衣の方から唇を離す。すると、目の前には赤くなりながらも笑みが浮かぶ結衣の顔があった。
「海に入っているときにキスしたいと思っていたんだ。だから、悠真君からキスしてくれたのが嬉しくて。興奮して舌絡ませちゃった」
「……まったく、結衣らしいな」
「ふふっ。塩気のある味わい深いキスでした」
「まさに海でのキスだったな」
「そうだねっ」
そして、俺達は楽しげに笑い合う。周りにどう見られているかは分からないけど、結衣とこうして笑えているから、ここでキスして正解だったな。
「うわっ!」
「ひゃあっ!」
突然、右の脇腹あたりに水が勢いよく当たってくる。それにビックリして大きな声を出してしまった。それは結衣も同じだったようで。
右側に顔を向けると、少し遠い場所に中野先輩と柚月ちゃんの姿が。悪戯っぽい笑みを見せる2人の右手には黄色い水鉄砲が。……あれで俺達に水を撃ったんだな。
ちなみに、中野先輩と柚月ちゃんの近くで、胡桃と伊集院さんと芹花姉さんがビーチボールで遊んでいる。そして、福王寺先生はレジャーシートからのんびりとこちらを眺めている。
「海に行くから、おもちゃがある方が盛り上がるかなと思って。この前のバイトの帰りに100均で買ったんだよね」
「2つ持ってきていたから、千佳さんが貸してくれたの」
「それで、どのくらいの性能があるか確かめるために、2人を撃ってみたんだ。さっきは海水をかけ合っていたし。それに、ちょうどキスして、体も熱くなり始めているんじゃないかと思って。100均でも結構な距離飛ぶんだね、柚月ちゃん」
「ですね!」
いぇーい、と中野先輩と柚月ちゃんはハイタッチ。悪戯心で意気投合しちゃったか。
「まさか、中野先輩と柚月ちゃんに撃たれるとは」
「そうだね、驚いた。……あと、かけられたら、かけ返したくなるね」
そう言う結衣は口元では笑っているけど、目つきが闘志に満ちている。どうやら、水鉄砲で撃たれたことで、2人に海水をかけたいスイッチが入ったようだ。そんな結衣を見ていたら――。
「そうだな。俺も……2人にかけたくなったよ」
俺がそう言うと、結衣はニッコリと笑って俺に一度頷いてくる。そんな結衣に俺も頷き返す。
俺は結衣と一緒に、中野先輩と柚月ちゃんの方に向かって歩き始める。俺達に水鉄砲を撃った直後だから、柚月ちゃんは無言で近づく俺達にちょっと怖がっている様子。
中野先輩と柚月ちゃんの近くまで近づいたとき、結衣と俺は立ち止まり、アイコンタクトする。そして、
『そーれっ!』
「きゃっ!」
「おっ!」
中野先輩と柚月ちゃんに向かって、俺達は同時に海水を浴びせさせた。そのことで、2人が可愛らしい声を漏らす。2人の驚いた表情を見て、俺は結衣とハイタッチした。結衣はとても嬉しそうだ。
「さっきのお返しですよ~。柚月、千佳先輩」
「不意打ちだったんで、こちらも不意打ちの形で浴びせました」
「見事に決められて良かったよ、悠真君! これぞカップルの力だね!」
「息が合ったもんな」
「ははっ! やられたなぁ」
「2人が黙って近づいてくるのでちょっと怖かったですよぉ。お姉ちゃんに撃った直後でしたから」
中野先輩は快活に笑い、柚月ちゃんは苦笑いでそう言った。今の話からして、俺に狙って撃ったのは先輩だったのかな。
「ねえ、ユウちゃん達! 一緒にビーチボールで遊ばない?」
「結構楽しいのですよ!」
「このあたりはそんなに人がいないので、ゆう君達と一緒にやっても大丈夫かと」
ビーチボールで遊んでいた胡桃、伊集院さん、芹花姉さんが俺達のことを誘ってくれる。
俺は結衣、柚月ちゃん、中野先輩の方を見る。すると、みんな笑顔で首肯。
「ああ、一緒に遊ぼう。福王寺先生も遊びます?」
「私も? じゃあ、お手柔らかに頼むわ」
福王寺先生はレジャーシートを出て、軽くストレッチする。その姿がとても美しいからだろうか。ビーチにいる何人もの男性が先生のことをじっと見ていた。
それから、8人全員でビーチボールを使って遊ぶ。球技はあまり得意じゃないけど、結構楽しめたのであった。
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