第10話『水着披露』

 15分後。

 海水浴に必要な荷物を持って、俺と結衣は502号室を出る。ただ、そこにはまだ誰の姿もなかった。なので、俺達は501号室の前で待つことに。


「そういえば、悠真君って泳げる?」

「一応、泳げるよ。中学のときはクロールと平泳ぎは25m。背泳ぎとバタフライはあまり得意じゃなくて15mくらいだったかな。体育の授業は苦手だけど、水泳は好きだったな。結衣はどう?」

「私も泳げるよ。中学のときは4つどれも50m以上泳いだなぁ」

「さすが」


 波が穏やかなら、結衣が泳ぐ姿を見たり、一緒に泳いだりするのも良さそうだ。

 待ち始めてから2、3分後に501号室から胡桃達が出てきた。

 俺達は1階にある海水浴用の更衣室へと向かう。

 更衣室の前に海水浴場の方へ行ける出入口がある。そのため、着替え終わったら出入口近くで待ち合わせをすることにした。

 8人の中で男は俺1人だけなので、当然俺は1人で男子用の更衣室に入る。更衣室の中には誰もいない。

 宿泊者用とはいえ、更衣室の中はそれなりに広くて立派だ。鍵付きのロッカーも備わっているし。こういう設備の良さも、旅館の高評価に繋がっているのかもしれない。

 結衣に先日選んでもらった水着に着替える。

 メガネは……外しておくか。普段からメガネをかけているけど、そこまで酷い近視じゃないし。近くにいれば、結衣達のことは難なく見られると思う。

 スマホやタオル、ビーチサンダルなどが入ったバッグを持って更衣室から出る。


「さすがに俺が最初か」


 待ち合わせ場所の出入口近くには、まだ誰もいなかった。みんなの水着姿を楽しみにしながら、ここで待つことにしよう。

 女子更衣室の方からは楽しそうな声が聞こえてくる。向こうは7人いるし、水着とかの話題で盛り上がっているのかも。


「あっ、悠真君」


 女子更衣室から結衣が姿を現した。この前、ショッピングデートのときに選んだ青いビキニを着て。この水着姿の結衣を見るのは2度目だけど、結衣を見た瞬間にドキッとなって。この水着を選んで良かったと思う。


「やっぱり悠真君が待ってた。男の子は着替えが早そうだと思ってさ。悠真君が寂しい想いをしないように、素早く着替えてきた。胡桃ちゃん達も順次出てくる予定だよ」

「そうか。ただ、女性用の更衣室から楽しそうな声も聞こえたし、寂しさは感じなかったな」

「そっか。どんな水着を買ったか見せ合ったからね」

「そうだったんだ。ただ、結衣と一緒にいるのに越したことはないよ。あと、その水着を選んで良かったよ。本当によく似合ってる」

「……そう言ってくれて嬉しい」


 その言葉が本当だと示すかのように、結衣はとても嬉しそうな笑顔を見せる。そして、俺のことをぎゅっと抱きしめ、その流れでキスしてきた。

 お互いに水着姿だから、客室で抱きしめ合ったときよりも結衣の温もりや柔らかさ、甘い匂いがより強く伝わってきて。ドキドキしてくる。


「何だかドキドキしちゃう。今まで、こんなにも肌と肌が直接触れた状態でキスするのは、お風呂かベッドの中くらいだから。あと、何だかいけないことをしている気分」

「それ……分かるかもしれない。まあ、水着姿だし、海水浴用の更衣室の前だから何も悪くないけどな」

「ふふっ」


 抱擁を解いて、至近距離から結衣の水着姿を今一度見る。……本当に可愛いな。裸眼でもそんな水着姿がはっきりと見える。結衣が変な人に絡まれないように守らなければ。男は俺一人だし胡桃達のことも。


「お待たせ。ユウちゃん、新しい水着を買ったんだけど、似合うかな……」


 女子更衣室から出てきた芹花姉さんはそんなことを言い、俺の目の前までやってくる。似合っているかどうか不安なのか、姉さんはもじもじしている様子。

 芹花姉さんは……水色のクロスホルタービキニか。今まで姉さんの色々な水着姿を見てきたけど、今のが一番大人っぽい雰囲気だ。


「よく似合っているよ、芹花姉さん」

「似合っていますよ、お姉様!」

「ありがとう。2人にそう言ってもらえて嬉しい! 特にユウちゃん!」


 芹花姉さん……本当に嬉しそうだ。俺に似合っていると思われるかどうか重視して選んだのがよく分かる。


「ユウちゃんも似合ってるよ!」

「ありがとう」


 実の姉だし、今までも似合っているとたくさん言われてきた。それでも、似合うって言われると嬉しいもんだな。


「お待たせ」


 そう言って姿を現したのは福王寺先生。段々と水着のファッションショーっぽくなってきたな。

 福王寺先生は黒のホルタービキニか。背も高くスタイルがいいので、芹花姉さん以上に大人の艶やかさを感じられる。落ち着いた笑みを浮かべているので、大人っぽさに拍車がかかっている。さすがは26歳。結衣と芹花姉さんも「綺麗……」と見惚れている。


「ふふっ、ありがとう。水着を買ったのは久しぶりだし、社会人になってから初めてだったからね。不安もちょっとあったけど、みんなの反応を見て安心した。ちなみに……」


 福王寺先生は周りをキョロキョロ見て、


「……低変人様はこの水着姿、どう思う?」


 顔をほんのり赤くし、可愛らしい声でそう問いかけてくる。その姿は結衣達と同じような少女の可愛らしさを感じられて。低変人様、と言われたのもあってドキッとする。あと、周りを見たのは、人がいないのを確認するためだったのだろう。


「とても似合っていますよ。大人の女性らしい素敵な水着だと思います」

「……ありがとう。嬉しい……」


 ニッコリと笑う福王寺先生。彼女の笑顔にはさっきよりも強い赤みが帯びていた。そんな姿もまた可愛らしくて。そんな福王寺先生は俺のことをじっと見つめている。


「低変人様も……水着姿素敵だよ。あと、あなたは着やせするタイプなんだね。それなりに筋肉がついているんだ。あと、メガネを外すとイケメン度が増すというか。このギャップはBL作品で映えそ……何でもないわ」

「……そうですか」


 最後の一言は聞かなかったことにしよう。そこに触れたら、福王寺先生の妄想が暴走してしまうかもしれないから。あと、生徒で何てことを考えているんだ。


「私、低変人様と結衣ちゃんが持ってきてくれたビーチパラソルや海水浴のグッズとかを車から持ってくるね」

「分かりました、杏樹先生」


 福王寺先生は持っていたバッグから出した灰色の前開きパーカーを着て、一旦、外へ出て行った。


「お待たせしました!」

「お待たせでーす」


 女子更衣室から出てきたのは、柚月ちゃんと中野先輩。この水着ファッションショーは2人同時に出てくることもあるのか。

 柚月ちゃんは黄色のオフショルダービキニ。中野先輩はオレンジの三角ビキニで、下はスカートか。柚月ちゃん本当に可愛いな。あと、中野先輩は……意外と胸がある。結衣や胡桃、芹花姉さん、福王寺先生という胸の大きな人が近くに何人もいるから、相対的に小さく見えていたけど。一つ年上の大人っぽさを感じられる。


「悠真。人の上半身を見て何を考えているのかな?」

「……水着姿がよーく似合っていると思いまして」

「まあ、それならいいわ」


 中野先輩は俺のことを見ながら微笑む。


「悠真さん、あたしはどうですか?」

「凄く可愛いよ」

「良かったです!」


 柚月ちゃんはとても明るく爽やかな笑顔を見せてくれる。この可愛さは天使と形容すべきじゃないの? 柚月ちゃんの可愛さに魅了されたのか、芹花姉さんは満面の笑みを浮かべて彼女の頭を撫でている。

 あとは胡桃と伊集院さんか。2人がどんな水着姿になるか楽しみだ。


「ただいま」


 福王寺先生が、俺と結衣が持ってきたビーチパラソルや海水浴グッズを持って戻ってきた。日なたの中歩いたからか、先生の額には汗がにじんでいる。


「持ってきてくださってありがとうございます、福王寺先生。バッグは置いておいてください。パラソルは俺が持ちます」

「どうもありがとう」


 福王寺先生からビーチパラソルを2本受け取る。


「お待たせしたのです」

「お、お待たせしました」


 女子更衣室から胡桃と伊集院さんが姿を現した。

 胡桃は赤いパレオ付きビキニで、伊集院さんは白いフリルビキニか。2人もよく似合っているな。ただ、伊集院さんは平然としているけど、胡桃は伊集院さんより一歩下がっていて、顔をほんのり赤くしている。俺の方をチラチラと見ているし。


「どうしたんだ? 胡桃」

「……ゆ、ゆう君に水着姿を見せると思うと緊張しちゃって。中学での水泳の授業ではスクール水着を着ていたし」

「そういうことか。胡桃のビキニ姿……とてもよく似合っているよ。中学のときに比べて大人っぽくなったと思う」

「ありがとう、ゆう君。嬉しいよ。この水着を買って良かった」


 胡桃はとても嬉しそうな様子でそう言った。

 スクール水着とビキニの違いもあるけど、胡桃は一緒のクラスだった中2の頃に比べて本当に大人の女性になったと思う。あと、当時から胸は大きい方だったけど、今はさらに大きくなっている。そして、この7人の女性の中では一番大きいと思う。確か、1ヶ月近く前に伊集院さんが胡桃の胸はGカップだと呟いていたっけ……って、あんまり胸のことを考えてはいけないな。


「良かったのですね、胡桃」

「姫奈ちゃんと一緒に選んで良かったよ」

「ふふっ」


 伊集院さんは嬉しそうな様子で胡桃の頭を撫でる。胡桃はとても嬉しそうだ。2人は一緒に水着を買いに行ったのか。


「伊集院さんのフリルのビキニもよく似合っているよ」

「ありがとうございます、低田君」


 ふふっ、と伊集院さんは俺を見ながら嬉しそうに笑った。


「胡桃ちゃんと姫奈ちゃんも来たから、これで全員集合ね。じゃあ、海水浴場へ行きましょう!」

『おー!』


 福王寺先生の言葉に、学生7人全員で返事する。

 さあ、待ちに待った海水浴の時間だ。この8人で大いに楽しもう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る