第九歩 【異界人と王権騎士団】
「さてと、これで良いかな?」
無事に衣服店に到着した俺はコタロウを店の入り口に待たせ、この世界の一般的な服を上下で銅貨1枚で買った。
今まで来ていた服はサービスでつけてもらった皮袋に入れている。
これならば一目で異世界から来たことがばれずに済むだろう。
「あとは宿屋を探しつつ、情報をなるべく集めるとしようか」
「情報ならくれてやろうか?」
俺は背後から向けられた威圧感に飛び退く。
とある理由から複数の武道を習っていた俺の身のこなしはそれなりだと自負している。
しかし、飛び退いたはずの俺の鼻先に剣の切っ先が突き付けられていた。
目の前に立っていたのは騎士。
白銀の甲冑によく手入れされたブロードソード。
まさに中世の手練れ騎士といった風格がある男。
年は20代前半といったところかな?
「動くな。店の中で手荒な真似はしたくない」
騎士は俺を睨みつけると俺の全身をじっくりと観察する。
男に見つめられるってのもあまり気持ちいいものではないことを知った訳だが……
「貴様、〝異界人〟だな?」
いきなりバレてますけどぉ~‼
さっきの自信は何処へやら……服を変えてもあっさり見破られてしまった。
やっぱりフェルが言ってたみたいに異世界特有の匂いみたいなものがあるのかな?
「えぇと、〝異界人〟? 私はただの旅の者で……」
「誤魔化しても無駄だ。俺は貴様が異界人特有のスキルを持っていると一目で見抜ける」
匂いの次はスキルかよ!
隠さなきゃいけないところ多すぎね?
というか、スキルなんてどうやって隠せばいいんだよ!
「あ、あなたは一体?」
「王権騎士団(ナイツ・オブ・クラウン)の副団長:コルテア・ハイト。王命により異界人である貴様を王都へと護送させてもらう!」
王命――か
これがフェルの言っていた従順な下僕への道なのだろうね。
フェルは治安部隊のことしか言ってなかったけど、騎士団とかやばそうだな。
俺が何とか状況を打開できないか頭をフル回転させていると店の窓からコタロウが顔を出す。
コタロウは心配そうな顔をしているが、今の状況でコタロウまで見つかるのは不味い。
俺はハイトにバレない様に注意しながら目配せと首の動きで促すと、コタロウは首を引っ込めた。
「やはり店の前の魔獣はお前の仲間か」
ハイトがニヤリと笑い、外が騒がしくなる。
「うわぁぁぁ! は、離してください‼」
店のドアが開き、コタロウを掴んだ騎士たちが何人か入ってくる。
「副長、捕獲しました!」
「ご苦労。魔獣がこれほど従順に言うことを聞いているとは……貴様は魔獣を使役するスキルを持っているのだな」
あぁ、また誤解されてるよ。
でもどうやらスキルの中身までは分かっていないようだ。
「くそっ! コタロウを放せ!」
「そう心配することはない。王は貴様らを保護してやろうというのだ」
「保護だと?」
「そうだ。貴様ら異界人はその大半が脆弱だ。どんな平和ボケした世界から来たのか知らんが、まともに生きる術も持たない奴らばかりだ」
ハイトは部下たちに出入り口を包囲させ、部下に俺を掴ませると剣を引く。
「そんな異界人に王の従順な人形として生きる道を与えようとの慈悲深き王命である。貴様ら唯一の利点である珍しいスキルを使い、存分に恩返しをするがいい」
随分と理不尽な理屈を振りかざすものだと思った。
それは保護なんかじゃない。
強者の都合で弱者を食い物にしてるだけじゃないか‼
「なにが慈悲だよ。自由を奪っていいように使っているだけじゃないか!」
「そんな不満など無くなるさ。貴様らは支配魔法で幸福のうちに王の僕となるのだからな」
支配魔法⁉
つまり魔法で自我でも書き換えようって腹なのかよ!
「ふざけるな! 俺たちだって人間だ! なんでそんな酷いことができる?」
俺が憤慨するとハイトは大きくため息をついた。
「はぁ……だからお前らは平和ボケしてるっていうんだよ」
「何⁉」
「ただでさえ生きていくのが大変なこの世界で……もともと存在しなかった奴らの命まで考えている余裕はないんだよ‼」
ドゴッ‼
鈍い音が響き、俺の腹に重苦しい感覚が広がる。
ハイトの膝蹴りが俺の腹に深く突き刺さったのだ。
「ゲホッゲホッ……うぐぅ」
俺は息ができずに床に蹲る。
このままじゃダメだ。
俺は必死に息を整えながら周囲を見渡す。
「ふん! さっさと連行しろ! 俺たちの任務は他にあるんだからな」
ハイトが部下たちにそう命じると店のドアが開く。
チャンスは今しかない‼
俺は覚悟を決めるとコタロウを抱えている騎士に狙いを定める。
そして――
「逃げろ、コタロウ‼」
俺は騎士に体当たりをするとコタロウをドアに向けて放つ。
「ルイさん‼」
「いいから走れ‼」
俺は騎士と揉み合いながらコタロウの背中を見送る。
「へへ、平和ボケした奴のタックルもなかなかだろ?」
「このクソ野郎‼」
俺の苦し紛れに放った憎まれ口を断ち切るようにハイトの一閃が俺を捉える。
激しい痛みと怒号の中で俺の意識は闇へと墜ちていった。
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