第32話
全ての攻撃をAGI型のナナのようにかわし、攻撃すればSTR型のアスランに匹敵するダメージを出し、人間にできる動きとは思えない動きで、〝妙な〟というより〝華麗〟に、演舞のように、空中でアクロバティックな動きをしながら剣で攻撃する姿は、CGのアニメーションを見ているようだった。そう誰かに俺は自身の戦いの様子を後から聞かされた。
『TTTTTTTTTaたた大変結構!!変体します!!』
その言葉通り、ローブ姿からのっぺらな表情が現れ、体の表面にチェーンソーの刃があらわれる。それは、HPバーの二本目がなくなったことによる変化だ。変化といっても〝見てくれが〟という意味で、動きは大して変わっていない。空中で消え去るチェーンソーの変わりに、ビーム状のサーベルが現れる。
『ブン!ブン!ブブン!ははは!』
振りぬかれたそれを必死にかわすが、アスランの仲間で刀を持った男と、ナナの隣にいたオーダーの長剣の男、それに楯専1人が一撃で塵となり舞う。
「そんな……一撃で――」
その間も攻撃し続ける俺は、スキルを発動し、キリモミで側面を突き抜けると、TWIST STRIKEの文字が浮かびダメージ970を与える。
「形態変化!!ダメージ通るぞ!その代わりにヒットすればこちらも一撃だと思え!掠っても瀕死だぞ!」
アスランの言葉通り、変化したデスピエロ一号はSTRの上昇と引き換えに、かなりVITが低くなっていた。ナナの攻撃も二桁に届くほどに、が、ダメージが通るとはいえ、戦い易くなった訳ではないし、ダメージソースは俺と、時折発動されるアスランとケージェイのスキルによるものだった。
確実に攻撃のテンポが速くなっていて、そこはさすが対チート戦という感じだ。
だが、こちらにもチート級の動きをしている剣士がいるぞ。
そう思うケージェイは、視線をモンスターではなく、その剣士へと向けた。
ブン!ワン!!ボワン!!
音が耳元に響く中、右手で切り上げ、左手で装備変更し大剣を振り下ろす。
装備変更によるデメリットはスキルチャージタイムのリセットのみで、軽装で走って重装に変更し攻撃することは可能だが、戦いながらウィンドウを操作することは常人では不可能だ。
そう、常人では。
仮想空間にある重力で大剣をノッペラな姿のそれに振る、刃が中ほどまで刺さると再び大剣が消失すし、いつの間に装備したのか、今度は短剣をボロマントの内から三本放り投げる。
投擲武器は投剣の一つだけ、性能が上がると投げられる回数と距離が変わり、その武器にスキルはなく、唯一通常攻撃にリチャージが入る。
投げ捨て、リチャージ後再投擲できる、それが投擲武器の強み。
俺へのヘイトが上昇したため、デスピエロ一号の攻撃がこっちへと向く。
俺はVITに関しては防具頼りで、楯はストレージにあるものの普段は使わない。しかし、ヘイトの上昇からの回避は通常時に比べると難易度が段違い。ゆえに左手で装備を換える手が忙しくなる。
体を覆うほどの楯に、見た目は変わらないが防具もVIT特化。
AGIを完全に棄てたその装備は、最小限のSTRとVITに劣らないDEXを有した防御装備と言ってもいい。右から左へ薙ぎ払われたビームサーベルが、体の前の楯を撫でると、3000のダメージ表示が頭上に現れる。
その後、瞬間で装備をSTR・AGI型へ変更して、左手を左側へと振ってアンプルを手元に出す。アンプルを口元に当てながら、再び右手で腰の剣を抜きざまに薙ぎ払う。
俺の頭上に緑の2100の数字とデスピエロ一号の頭上に340の数字、同時に放たれたケージェイのスキルダメージも加算されて、デスピエロ一号のHPバーが赤く変化する。
アスランがすぐに大刀を構えてスキルを発動しようとする、が、彼は敵のいない左側から衝撃を受けて弾き飛ばされる。
「何だ――」
そう吐いたアスランは、エネミーが瀕死になったことに気付いていなかった。
ゆえに、それに気付いた幻影の地平線のメンバーの楯専が彼を弾き飛ばしたのだ。
笑みを浮かべるその男に、アスランは飛ばされながらも手を伸ばした。
「サノォォオオオオ!!」
素早い3連撃は初見回避不可能。
『SSSSSSSeせ、成敗!!!』
歯を食いしばったアスランは、大刀を振りかぶった。
上から振り下ろされ、その後、下から跳ねるように斬り上がってアスラン自身も跳ね上がる。
その軌道には、漢字表記で【翔竜斬】の文字が現れる。デスピエロ一号の最後のHPバーが3割減った時点で、瀕死の赤色に変わった。逆に言うと、まだそれだけ残っているのにもかかわらず瀕死の状態に判定されている時点でやはりチート。エネミー側の瀕死時のボーナスは、基本ステータスの上昇と、初見回避不可能スキルだけだ。
だが、このデスピエロ一号は、どうやらそれだけではない様子で、左手にビームサーベルがもう一本現れた。
ノッペラだったその表情に口が現れて、微笑みながらそれを言う。
『IIIIIIIIIIIIイイイイイイ、イッツ!タイム!イズ!スローター!!』
振り上げたビームサーベルを一瞥して、それを攻撃の意図なくその場で振るう。
まるでその行動は、〝試し切り〟のようだった。
その瞬間に俺は察した。
「……こいつはNPCじゃない――」
「何を言っている?」
ケージェイもアスランもナナも、そこにいる全員がその言葉を理解できないままに、俺を一瞥してもう一度エネミーへと視線を戻す。
目の前にいるエネミーの姿を観察して、俺はもう一度呟く。
「間違いない――今、こいつは……プレイヤーになった」
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