第29話 11 理不尽な凶鬼


 BCOにおいて敵のステータスは、特定の防具に付属されたスキルの能力で見るか、レアドロップアイテムを使うことで可能となる。


 アスランの仲間の1人の頭にゴーグルを装備したハンター風の男が、この場で唯一そのスキルを有している。ゆえに彼は、一度外に出て安全圏にいたにも関わらず、内側に戻ったのだが、彼はすぐにそれを後悔した。


「なんなんだよこれ……」


 彼の視界に表示されたそれは、数秒間フィールド内のPTにも共有で見えている。


 Name:デスピエロ一号

 LV:犬の平均寿命よりは長い

 HP:プライスレス

 STR:ゴリラ【動物】とんでもなく強い

 VIT:強化防弾ガラス【メイドインジャパン】意外と割れる

 DEX:ジェンガ【おもちゃ】1人でするボッチゲーWW

 AGI:100メートル3秒フラット【世界新】壁に体当たりしたらDEATH


 数値ですらないそれを目にしたアスランは、不安を怒りに変えて口元に刻む。


「ふざけやがって!!」


 続けてオーダーのメンバーが叫ぶ。


「コノヤローが!」


 そう叫んだ彼が使うスラッシュスピアは、剣でありながらリーチのある武器で、その形状から柄の長い剣、【柄長剣】と種別されている。


 右に駆け出した勇猛な先陣のパーティーの一人である彼が、カクカクと動くデスピエロ一号を攻撃した。HPバーは三段に分かれていて、それの一番上がほんのミリ程度減り、その頭にダメージの表示が浮かぶ。


「ダメージ5!推定VIT250以上……」


 現状でVIT250は、レベルに照らし合わせるとレベル25以上は確定。


 その他のステータスも、その時点で250以上はあるかもしれないことになる。


「敵の攻撃きます!」

「俺が受ける!」


 楯を装備した男は、ステータスをできるだけVITに極振りした〝楯専〟である。


「はぁああああ!」


『KKKKKKァカッキーン!!!』


 横薙ぎの攻撃が、頑丈そうな楯に激突すると、男ごと吹っ飛んで、男のHPバーが緑から赤に変わると、その頭上にそのダメージが表示される。


「おいおいおいおいおい!んな!無茶苦茶な!」


 楯専の男は装備込みでVITにして450あり、先刻戦ったデスシザーの攻撃でもミリ単位のダメージしか受けていなかった。


「純粋なSTR攻撃で5238のダメかよ!」

「す、推定STR不明!!レベルは35……以上……」


 チート級モンスター。それがその段階での判断、スキルの補正なしに楯によるダメージカットした状態で、5000を越えるダメージだ。


 もしこれにスキル補正やDEXによるクリティカルが加算されたり、頭や胴体のような急所に被弾した場合は、5000が7500、7500が9000となりかねない。


 現状そのダメージが最低であればのことだが、もし最大であったとしても、スキル抜きに最低6000のダメージは覚悟しなくてはならない。楯専を除いて最大HP6000を越える者は、唯一大刀持ちのアスランのみだ。


「これ――誰でも一撃で逝けちまうぞ……」


 絶望するには十分な状況、たとえアイテムを消費してなくても勝てる相手ではない。


 MMORPGに置いて戦闘時間はどちらかが死ぬまでで、本来ならプレイヤー側には逃走の選択が残されているが、今回はそれがない。初見回避不能のスキル、ヘルス半減時の変化、瀕死時の強スキル。すべてが不明なボスモンスター、奮戦しようが虫の如くあしらわれるだけ。


「誰も!このフィールドに入ってはいけない!」

「ケージェイさん!?」

「……でも、みんなが!」


 外の人間は誰しもが俯いた。内の人間はその声に身の終焉を感じる。


「嘘だろ!ギルマス!」

「俺たち見捨てるんスか!?」


 顔を伏せるケージェイに、言葉を無くす内のメンバー。


 その時アスランが吠えた。


「まだ俺は負けていない!」


 先陣パーティーが必死にデスピエロ一号の攻撃を、回避や受け流している側面から大刀を振り下ろすアスラン。デスピエロ一号のローブから赤いエフェクトが飛散すると、ダメージ102が表示されてHPバーが少し減る。それを見た他のメンバーも、鼓舞するように大声を出して戦闘に加わった。勿論――半ば自暴自棄で。


「……ヤト、ヤトを呼ばないと」


 ナナはそう言ってメッセージを開く。


「待ちたまえ!」


 ケージェイがナナの腕を掴むと言う。


「彼を呼んだところで無駄だ、彼はSTR極振りではないし、ダメージを与えられても30前後だ」


 ケージェイの言葉にナナは声を荒げる。


「だからって誰に助けを?!」


 その言葉にケージェイは首を振る。


「この世界に……英雄はいないんだ、彼だって来る義務はない」


 すでに送られたナナのメッセージを取り消すために、ヤトが来ないよう彼はすぐにメッセージを出した。

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