第25話 動悸 祈る事しか……
心臓が妙な動きをする。
今視界に入っている物全てが変な感じに見える。
ただ、身体だけは勝手に動く。
シッポのご飯をお水を用意して、香織ちゃんから聞いた病院のメモをバッグに押し込んで、帰りが何時になるか分からないのでリュウのつけてくれたエアコンの設定を確認した。
うん、大丈夫。直ぐに出かけられる。
そう思った瞬間、リュウが事故に遭ったと言う事実が体中を支配し始めた。
どうしよう。
どうしよう。
テーブルに置いた鍵を取ろうとするのに、手が震えてうまく取れない。
んなぁ
私の様子がおかしいことに気が付いたのか、シッポがいつの間にか足元に来てた。
「しっぽぉ」
震える手でシッポを抱きしめると、ちょっと気持ちが落ち着いた。
「リュウが事故に遭ったんだって。今から病院に行ってくるから、待っててね」
シッポは、するりと腕から抜けストンと床に降り立ち私を見上げてニャッと鳴いた。
☆ ☆ ☆
病院へ向かうタクシーの中で、ここ数日間のリュウや、高校生の頃のリュウの事ばかり思い出してた。
容体はどうなんだろう。
香織ちゃんに聞けば早い話なのに、怖くて聞けないよ。
だから、祈った。
リュウ、死なないで。
神様お願い、リュウを死なせないで。
☆ ☆ ☆
香織ちゃんが教えてくれた病院についたんだけど、どこに行けばいいの……。
薄暗い病院の中に、夜間受付の小さな明かり発見!
急がなきゃ!
と、小走りで向かおうとしたら
「ノリちゃん!」
背後から香織ちゃんに呼ばれた。
振り返ると、男との子を二人連れた香織ちゃんが立っていた。
「リュウは!?」
気が付いたら、連絡くれたお礼も言わず香織ちゃんに詰め寄ってた。
「この廊下を真っ直ぐ行った先に処置室があって……」
最後まで聞かずに向かってしまった。
確かに処置室ってある。中に人のいる気配もある。
けど、中に入っちゃダメ、だよね……?
「ノリちゃん、お兄ちゃんもう手術に行ったよ」
え?
「そこにあるエレベータで上がったところに家族待合があるから、そこで待ってて。ちょっとこの子達実家に預けてくるから。ほら、こんにちはして」
「「こんにちは」」
静かな病院の中で子供なりに気を使ったのか、二人そろって囁くような声で言って頭を下げた。
かっ、かわいい。
「こんにちは」
そうか。
この子達は、リュウの甥っ子達か。
お兄ちゃんの方が、すすっと私に寄って来て
「もしかして、オジサンのカノジョさんですか?」
なんて真面目腐った顔で聞くもんだから、びっくり。
「預けたら直ぐに戻るから」
香織ちゃんは、そう言ってちびっ子二人を連れて行ってしまった。
☆ ☆ ☆
教えてもらった家族待合にはだれも居なくて、独りぼっちになってしまった。
人の足音すらしない、薄暗い病院。
「夜、何の音もしない病院の待合室に行くと、本当はもう死んでて、私の魂だけが病院の中をウロウロしてるんじゃないかな、とか思っちゃうの」
仁美ちゃんが言ってたのを思い出した。
やだもう、怖い事いわないで! って、あの時は笑って話したけど。
だめだよ、リュウ。
お願い死なないで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます