第二章
第41話-【勇者】の歴史
ここからの話は、アイズ・シン・グラビッドという少女がグラルに出会うまでの経緯である。
「はあ、どうしよう……“あの称号”は絶対に他の人に見せちゃいけない……!」
7歳の洗礼の後、アイズはグラビッド家の邸宅に戻っていた。
家もそれなりに大きく、装飾品も並んでおり、裕福で幸せな毎日を送っていることをアイズは肌で感じていた。
「アイズ、【ステータス】を見せてみろ。何か良いものが貰えたか?」
「は、はい……良さそうなものは、貰えました。ですが……」
「何だ?」
「称号については、見せられません……ごめんなさい、お父様……」
「アイズ! いいから見せなさい!」
アイズの父親、ツヴァイル・シン・グラビッドは強引にアイズの小さい肩を掴んで、そう命じた。
「い、いやです……!」
アイズも引く訳にはいかず、ひたすらにそれを拒み続ける。
それが貴族としてのプライドに触ってしまい、ツヴァイルを怒らせてしまったのである。
「おい! 誰か鑑定の魔法が使える者を連れて来い!」
ツヴァイルはアイズの肩を掴んだまま、鑑定の魔法が使える使用人を連れて来させた。そして、使用人が鑑定の魔法を使用する。
鑑定の魔法は一部の者──“魔眼”と呼ばれる特殊な目を所持する者のみが使うことの出来る魔法である。“魔眼”を持つ者の瞳には、決まって一種類の魔法陣が現れるのである。
「それでは鑑定させてもらいます。【
「どうかしたのか?」
「ぶ、“侮蔑の称号”がありました……そして、【勇者】ともありました……」
「っ!? 何だと!?」
そして、アイズの“侮蔑の称号”──【魔に魅入られし者】の存在が知れ渡ってしまったのであった。同時に【勇者】の存在も。
アイズが【勇者】であること、その事実が判明してからアイズの生活は一変した。
好きでもない婚約者をあてがわれ、貴族からはたった一つの称号の存在だけで侮蔑の視線に晒される。
アイズは最早この鳥籠──ロンバルド王国で人形のような存在となってしまっていた。
──これから鳥籠のような生活が始まるのである。
「やあ、アイズ。調子はどう?」
「ローグ様、調子はいつもと特にと言って何も変わりませんよ……」
「そうか、それは良かった!」
ローグはアイズにあてがったアイズの婚約者であり、いつもアイズの様子を気にかけてくれている。
しかし、アイズへ向けられている視線は侮蔑そのものであり、アイズは顔色の悪いまま暗い声で応えた。
(やはり【勇者】といえど、所詮はただの幼き少女だな……くっくっく)
ローグの年齢はアイズの10歳上、17歳である。
日本では高校二年生に相当する年齢だが、貴族の贅沢に塗れた生活を続けたためか、その身体は肥え太っていて誰も高校二年生と同じ年齢には見えないだろう。
アイズからすれば、ただ単純に鬱陶しいだけであった。
アイズは外出することすら許されず、使用人も全員王国に仕える者たちだけで揃えられていた。
何かあれば即時に情報が国王の元へ届くようになっているのだろう、アイズは不審に思われるような行動すらとることが出来なかった。
──そして一年もの暗い生活が続き、国王の意向でアイズはロンバルド王立総合学院に通うことになったのだった。
「え? 何でお前が……!」
そして、入学試験をグラルの次の順位で突破したアイズは、約一年ぶりになるグラルとの再開となったのである。
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