第33話-歴史研究部③
「そう、正式に入ってくれたのね!! 嬉しいわ! 私はあなた達を歓迎します!!」
翌日の放課後、グラル達が会議室を訪れるとドアを開けてすぐの至近距離にマレーネの顔があり、二人揃って目をぎょっとさせた。
しかも、よりによってマレーネはハイテンションな状態にあり、とても早口だった。
(顔……近すぎねぇか!?)
「はあ、びっくりした……」
グラルは声に出してはいなかったが、このときの二人の心の内側にある心情は完全に一致していた。
──すると、マレーネは自分の右手を差し出した。
「え……?」
「何、分からない? 握手よ! 握手!!」
「え、ああ」
未だにマレーネの謎なテンションの上下に翻弄されているグラルであるが、グラルは反発することに労力を割くことこそ余計な面倒の種であるような気がして諦めたように頷く。
そしてマレーネの右手を握った。
「ほら! アイズちゃんも!!」
「は、はあ……」
アイズも黙ってマレーネの右手を握った。
「そういえば、俺達以外に新入生はいないんですか?」
「今のところは君達以外、誰も見学にすら来てないよ? ははは……」
マレーネは自分の言葉で撃沈してしまった。乾いた笑いをしているため、その顔は非常に不気味なものであった。
「それに加えれば、
そこへカイが会話の輪の中に入って「恐るべき事実」を告げた。
「えっと、今……何て言いました?」
「だから僕達三人以外、部員はいないんだ」
「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
「それでもそれなりの実績を残しているからクラブがなくなるようなことは無いんだけど」
クラブとして成立する条件は“希望者が少なくとも五人以上”というものと“教師の承認”が必要不可欠となるのである。
「元々は五人以上いたんだけどね、代が交代するにつれて人数が減ったみたいなのよね……!」
今度はマレーネが口を開いて、元々条件は満たされていたということを付け加えた。
「このクラブを残すまでの実績……なんだろうな」
「ふふふ、気になるかしら?」
マレーネが威張ったような顔でグラルとアイズを見る。すると、少しだけ勿体ぶってからマレーネは再び口を開いた。
「私達のクラブがやり遂げたこと……それは、昔に使われていた
「あんたらかよ! 間違って伝えたのは!!」
相手を呼ぶときの呼び方が「お前」ではなく「あんた」になっていたが、グラル本人はそのようなことお構いなしにただ叫ばすにはいられなかった。
軸と座標の定義されていない波のグラフを三角関数と呼んでいたり、細胞を核と伝えられていたりと沢山の疑問を抱いていたグラルであったが、全てこの歴史研究部の部員の仕業だと考えた途端、今まで真剣に悩んでいたことへの馬鹿馬鹿しさと疲れが防波堤を決壊させて押し寄せてしまった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
グラルは今までにない、とても長いため息をついたのであった。
※※※
クラブ活動だけでなく、当然授業も疎かにしてはいけない。
グラルの所属するA組は丁度、歴史の授業を受けていた。
三角関数や細胞について、これらのように間違って伝わっているものが歴史研究部によって発見されていると複雑な心境となるのである。
勿論すべてが歴史研究部の仕業ではないだろうが、歴史研究部のカオスな状況から発想や頭の回転が人一倍優れている者は何らかの問題がある者が多いのだろうとグラルが考えてしまった程に、歴史研究部のインパクトは大きかった。
「この図形が示すものは何だと思う~? ロラン、答えてみろ~」
黒板に書かれたのは、大きな円の左右、斜め下に小さな円が書かれた図形。
「何で水なんだ?」
「さ、さあ」
グラルは小声でアイズに話しかけた。
グラルもアイズも歴史研究部から“あのこと”を聞いてしまったため、寧ろ何がどのように間違って伝わっているのか、ということが気になっていた。
「すみません、分かりません」
「まあ、いいだろう。これはHOといってな、水を意味するものだ~」
「“2”はどこいった!? “2”は!?」
またしても、グラルは驚きの声をあげてしまった。
水の分子式はH2Oであるが、“2”は小さく書くことになっているため、その部分は伝わっていなかったのかもしれないとアイズは考えていた。
そして必死に口元を押さえて笑いをこらえていた。
「何だぁ~インテグラ、何か発言するときは立ってから言え~!」
「あ、はい……」
顔を引き攣らせて冷や汗をかきながらファンクがこちらへ歩み寄るのをじっと待っていた。
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