第十一章:立ち込める暗雲

 第十一章:立ち込める暗雲



 そんな風に楽しくお散歩をする遥たちからほど近い場所、河川敷沿いに広い緑地公園がある。

 草木の生い茂る、緑豊かな広い公園だ。そこでは子供たちがキャッキャと楽しそうに遊び回っていたり、ベンチに腰掛けたカップルが幸せそうに愛を語り合っていたりと、穏やかな日常の風景が広がっている。

 だが――そんな緑地公園の様子を、じっと睥睨へいげいする異形の姿があった。

 ――――ローカスト・バンディット。

 先日リュドミラと美雪が交戦した、あのイナゴ怪人。グラスホッパーに似た茶褐色の身体を有するその怪人が、高い木の上からじっと公園の様子を、そこに居る人々の様子をじっと見下ろしていた。

「シュルルル……」

 そうして見下ろしながら、ローカストは不気味な唸り声を上げる。

 グラスホッパーに酷似した、しかし微妙に造型の異なる醜悪な顔面。そこにある双眸で見下ろし、一人一人をじっと値踏みするようにローカストは見つめる。まるで、己の獲物を見定めるかのように。

「シュルルルル……!!」

 そんな品定めを終えると、ローカストは不気味な唸り声とともに動き出した。

 両脚をバネのように動かし、飛び出したローカストが頭上から人々に襲い掛かっていく。

 突然現れたイナゴ怪人に恐怖し、悲鳴を上げながら緑地公園から逃げ出していく人々。

 そんな彼らの背中から、ローカストは飛び掛かって襲い掛かる。

 腕を振るって殴り殺し、強烈な脚力を秘めた脚で蹴り飛ばし。そうして次々と襲い、喰らっていく。

「シュルルルル…………」

 一瞬の内に地獄の一丁目へと変わり果てた緑地公園。さっきまで平穏で幸せな日常で満ちていた公園は、今はもう見る影もなく。血の臭いが漂い、幾つものむくろが地面に転がる、そんな地獄へと変わり果てていた。

 そんな惨劇のド真ん中で、返り血にまみれたローカスト・バンディットは不気味な唸り声を上げていた。次なる獲物を求めるかのように、その両手を握り締めて。





(第十一章『立ち込める暗雲』了)

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