第三章:明日へ光を繋げるために/04

「ハァァァァッ!!」

「シューッ……!!」

 真っ先に斬り込んだのは、やはり遥だった。

 高速で飛び込みながら振るうウィスタリア・エッジの重い一撃を、リザードは腕で受け止め……そして、その勢いを上手く受け流す。

 刃を受け止めた腕には多少の火花が散り、幾らかのダメージは負っていたようだが……しかし、大したダメージではない。

「シュルルルッ!!」

「ッ……!?」

 そうして遥の振るう刃を上手く受け流せば、リザードは即座にもう片腕を振るい反撃。横薙ぎに振るわれる爪に対し、遥は身を捩って巧みに回避してみせるが……しかし爪の先端が僅かに神姫装甲を掠め、破片とともに小さな火花を散らす。

「シュッ!!」

「くっ……!!」

 そうしたカウンターの一撃で遥の勢いを削げば、リザードは続けて何度も攻撃を仕掛け、遥に息つく間を与えない。

 見事な切り返しだった。最小限のダメージで遥の攻撃を受け流し、逆にカウンターで自分の側が戦闘の流れを握る。まさに肉を切らせて骨を断つ……あまりに見事なリザードの手際を前にして、遥は否応なく防戦を強いられてしまう。

 リザードの振るう爪、迫り来る攻撃を時には避け、時にはウィスタリア・エッジの刀身で受け流す。

 そうして回避しつつも、遥の蒼い神姫装甲を何度もリザードの爪が掠めては、小さな破片とともに火花を散らす。少しずつではあるが、リザードは遥に着実なダメージを蓄積させていく。

(このままでは……!)

 ――――このままでは、いずれ大きな隙を晒してしまう。

 遥は分かってはいたが、しかし完全に流れをリザードに取られた今、上手く反撃に転ずることが出来ないでいた。

 この流れのままでダメージを蓄積させられていけば、いずれ自分は大きな隙をリザードに晒してしまうことになるだろう。塵も積もれば山となる、一撃一撃は些細なダメージであっても……それが数十、数百と蓄積すればどうなるか。考えずとも分かることだ。

 遥はそれを分かっていた。分かっていたが……しかし、今はまだ上手く反撃に打って出ることが出来ない。

 これがもしも、彼女が万全な状態であったのなら。もしも彼女が記憶喪失でなく、来栖美弥としての記憶も持ち合わせた完全な状態であったのなら……リザード程度の敵、苦戦するまでもなく一撃で斬り伏せていたであろう。

 しかし、今の彼女は元通りの記憶喪失の乙女、間宮遥でしかない。幾ら彼女が歴戦の神姫といえども、記憶を失い弱体化してしまった今では……どうしても、リザードに対して苦戦を強いられてしまうのだ。

「シュルルルル――――ッ!!」

「っ……!!」

 ――――だとしても。

「でやぁぁぁぁっ!!」

「トゥアッ!!」

 だとしても、例え記憶を失っていたとしても――――しかし今の彼女は、一人ではないのだ。

 遥が苦戦を強いられる中、アンジェと戒斗が同時に割って入り、リザードの猛攻を食い止めてみせる。

 飛び込んできたアンジェの振るうアームブレードが赤褐色の身体に食い込み、続く戒斗の鋭い飛び蹴りも命中。見事にリザードを怯ませ、その猛攻から遥を救い出すことに成功していた。

「まだだ……!」

 そうして飛び蹴りを慣行した戒斗はバック宙気味に反転して着地し、とすればリザードの頭を押さえつけながら、その側頭部にスティレットの銃口を零距離で突き付ける。

「シュッ……!?」

「俺の奢りだ……全弾、持っていけッ!!」

 そうすれば、リザードが戦慄する中――――戒斗は引鉄ひきがねを引き、弾倉にある全弾を零距離からトカゲ怪人の側頭部に叩き込んだ。

 激しく前後するスライドから熱い空薬莢が蹴り出される度、銃口の張り付いたリザードの側頭部で激しい火花が弾ける。

 苦悶の声を漏らすリザードに対し、戒斗は容赦なくスティレットの全弾を叩き込むと、弾切れと同時にリザードの腹を蹴っ飛ばして距離を取る。

「シュルル、ルルルル……ッ!!」

 後ろに後ずさりながら、頭を押さえて喘ぐリザード。

 その赤褐色の側頭部からは、白い煙が吹き出していた。流石にスティレットの九ミリ弾を全弾、しかも零距離から頭に喰らっただけあって、相当のダメージをリザードは負っているらしい。

 それでも健在な辺り、やはり強敵なのは間違いないが……しかし、こうして怯ませるだけの手傷を負わせることは出来たようだ。撃破には至っていないが、遥を救い出せただけ良しとしよう。

 戒斗はそう思いつつ、膝を突く遥の傍に戻りながら「大丈夫か?」と声を掛ける。

 すると、遥はウィスタリア・エッジを杖代わりにしつつ「ええ……」と頷きながら戒斗を見上げ、

「戒斗さん、それにアンジェさんも……ありがとうございます、お陰で助かりました」

 と、窮地を救ってくれた二人にそう礼を言った。

「問題は、ここからだね……」

「そうだな……遥、まだやれそうか?」

「私なら大丈夫です。少し押し負けただけですから……まだ、戦えます」

「なら良し、だ。……アンジェ、何か考えがあるんだろ?」

「ん、やっぱり分かっちゃった?」

 微笑むアンジェに戒斗は「まあな」と返しつつ、再びスティレットの弾倉を交換する。

 空弾倉を足元に落とし、右太腿の弾倉ポーチから取り出した新しいフルロード弾倉を銃把の底から叩き込み……スティレットのスライド、後退したままホールド・オープン状態を晒すそれを右手で引き、カシャンと閉鎖する。

「俺とアンジェとの付き合いだからな」

 そうした再装填作業を手早く行いながら、戒斗はニヤリとして傍らのアンジェにそう言った。

「えへへ、だよねー。カイトには全部分かっちゃうか」

「顔を見れば、何となく……な。それでアンジェ、どうする?」

「ちょっと戦った感じだと……力押しでなら案外倒せちゃうかも知れない気がしたんだ。僕はスカーレットフォームで一気に行くから、カイトはその……えっと、なんだっけ?」

「ガングニール、コイツのことだろ?」

 首を傾げるアンジェに対し、戒斗はスティレットを太腿に戻しつつ……右腰から掴み取った筒状の武装、PBV‐X1ガングニール・パイルバンカーを彼女に見せつけながらそう言う。

 するとアンジェは「そうそう、それだよ」と頷き、

「僕が上手く隙を作るから、カイトはそれを使って。遥さんはあの白い姿、銃を使うあの姿で援護して欲しいな」

「分かりました……!」

 遥は頷くと、ウィスタリア・エッジを杖代わりにしつつ立ち上がり。とすればセイレーン・ブレスの下部にあるエレメント・クリスタルを金色に光らせ、フォームチェンジを敢行する。

 彼女の身体が一瞬だけ空間ごと歪めば、遥の右腕は白と金色の鋭角な神姫装甲が包み込み。右眼は金に変色し、右の前髪にも金のメッシュが入り。そして、右手に白と金の大型拳銃――――聖銃ライトニング・マグナムを掴み取る。

 神姫ウィスタリア・セイレーン、遠距離戦形態ライトニングフォーム。

 遥がそんな形態に姿を変える傍ら、アンジェも同時にフォームチェンジ。両腕に格闘戦用の大型ガントレット『スカーレット・フィスト』を装備した、近距離戦特化形態のスカーレットフォームにフォームチェンジをする。

 二人がフォームチェンジをする中、戒斗も左腕にガングニール・パイルバンカーを装着。聖銃ライトニング・マグナムを構える遥と、両腰のスラスターを様子を窺うようにパッパッと短噴射させるアンジェ、二人の神姫とともに突撃の構えを取った。

「準備は出来てる。……いつでも良いぜ、アンジェ」

「お二人の援護は任せてください」

「よし、じゃあ行くよ――――!!」

 そうして、三人が決戦の構えを取った――――その時だった。

「――――いいや、それには及ばないッ!!」

 何処からか木霊してくる雄々しい叫び声とともに、突然の乱入者が彼女らとリザードの間に割って入ってきたのは。

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