第一章:過去への旅路/02

 遥が唐突に姿を消した翌朝、純喫茶『ノワール・エンフォーサー』。戒斗の実家でもあり、遥の居候先でもあるこの店には、朝も早々から戒斗とアンジェ――――幼馴染のアンジェリーヌ・リュミエール、そして何故か店に来ていた篠宮しのみや有紀ゆきと、セラフィナ・マックスウェル……セラの四人が顔を突き合わせていた。

 四人とも、神妙な面持ちだ。カウンター席に座る有紀とセラ、その対面……即ちカウンターの奥に立つ戒斗とアンジェは、四人が四人とも朝からかなり深刻な顔で言葉を交わしていた。

「……遥さん、心配だね。どうしちゃったんだろう」

 ポツリと呟くアンジェの言う通り、四人が朝からこうも神妙な顔になっている理由は、彼女の――――間宮遥の突然の失踪が原因だった。

「心配なのはアタシもそうよ。でも、アタシたちに訊かれてもね……」

「戒斗くん、アンジェくんも。二人とも、何か心当たりはないのかい? 彼女が突然姿を消した、その理由に」

 参った顔でセラが唸る傍らで有紀がそう問うと、戒斗とアンジェは互いに顔を突き合わせ、やはりうーんと困ったように唸る。

 ――――理由なんて、分かるはずもない。

 分かれば最初から苦労なんてしないのだ。分かっていれば、戒斗もアンジェも、そしてセラたちも……ここまで彼女のことを心配したりはしない。理由が分からないこそ、皆は遥の安否を気遣っているのだ。

 だから、四人の話はさっきから堂々巡りばかりを続けていた。四人とも遥のことを心から案じているが故に……失踪の理由わけを考え、でも分からないといった堂々巡りばかりを続けていたのだった。

「……まさか」

 そんな無限ループじみた会話の中で、ふとした折にハッと何かに気付いた戒斗がポツリ、と呟く。

「カイト、何か分かったの?」

「なんでもいいから言ってごらんなさいな。もしかしたら、それがヒントになるかも知れないし」

「一応、聞かせてくれるかな。私たち二人、簡単に言えば部外者の私とセラくんよりも、君らの方がよっぽど遥くんを理解しているはずだから」

 呟けば、アンジェが戒斗の顔を覗き込みながらそう言い。カウンターの向こう側ではセラと有紀がそれぞれ問うてくる。

 それに対し、戒斗は「まさか、まさかなんだが……」と深刻な顔で前置きをしてから、一呼吸を置いて皆にこう言った。

「――――遥、もしかして記憶が戻ったんじゃないか?」

「そんなこと……」

 ――――間宮遥の失われていた記憶が、蘇った。

 戒斗の提示したそんな可能性に、セラは一瞬否定しそうになったが……しかし、否定しきれずに口を噤む。

「あり得るかも」

 そうしてセラが言いかけた言葉を半ばで止める中、戒斗の横でアンジェがそう呟く。

 戒斗とアンジェ、そしてセラ。三人が確信を得た顔でじっと見合う中、有紀はコーヒーカップ片手にこう言った。

「だったら、実際に本人に確認してみれば良いじゃないか」

 言われてみれば、それが一番確実だ。今は携帯電話なんて便利なものがあるし、遥さえ電話に出てくれれば……確認は容易だ。

 最初からそうしておけば良かった。有紀が提案した、今更過ぎる単純明快な答えにハッとすると、三人はまた顔を見合わせた。今度はポカーンとした、そんな顔でだ。

 そうして見合いながら、戒斗はセラとアンジェの顔を交互に見つつ……そうすれば、戒斗は意を決してスマートフォンを懐から引っ張り出した。

 画面をタップし、電話帳を呼び出して通話開始。左耳に当てた彼のスマートフォン、そこに呼び出すのは――――当然、彼女だ。

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