第十二章:戦いの予感は疾風の中に

 第十二章:戦いの予感は疾風の中に



 ――――篠崎邸。

 人里離れた場所に建つ、広大な敷地とそれを囲む高い塀を有した洋館。その広間の中で、今日も今日とて篠崎十兵衛と孫娘の香菜、そして同じく孫で末っ子の潤一郎が顔を突き合わせていた。

「……まず、お爺様にご報告がありますわ」

 白いテーブルクロスの掛けられた長テーブル、その一番奥にある誕生日席に座る十兵衛と、少し離れた位置に座る潤一郎が見つめる中。独り立っていた香菜はそう言って、まずは十兵衛にある報告をし始めた。

「ご存知の通り、ここ数ヵ月間のバンディットの撃破数が異様なまでに増大していますの。目下、調査を進めてはいますが……もしかすると、以前にお爺様が危惧されていた通り、新たな神姫が生まれたのかも知れませんわ」

「面白いな、どんな神姫なんだろうね」

 香菜の報告を聞き、潤一郎がニコニコと嬉しそうな顔で微笑む。

「潤一郎は黙ってなさいな」

 そんな彼を疎みつつ、香菜はギッと睨み付けて潤一郎を黙らせ。その後でコホンと咳払いをすると、改めて十兵衛にこう告げた。

「このままでは消耗ばかりが続いてしまいますわ。幾ら下級バンディットといえども、貴重な戦力をいたずらに消耗させるワケにもいきません」

「だったら香菜、どうするつもりだね?」

 十兵衛が問うと、香菜はニッコリとしてこう答える。

「我々の大切な子供たちを殺して回っている者が、何者かは知りませんが……良い機会ですし、奴を誘い出してみようと思いますの」

 香菜の言葉に、十兵衛はふむと唸る。

「しかし、それでは他の連中……ウィスタリア・セイレーンやヴァーミリオン・ミラージュ、それにガーネット・フェニックスや、P.C.C.Sの連中までをも引き寄せてしまうことになるのではないかな?」

「ご心配には及びませんわ、お爺様。誘い出す目的は、あくまで相手が何者であるかを知ること。相手の正体を突き止めさえすれば、目的は達成できますわ」

 言った後で香菜は「それに」と続け、

「――――今回は、私もお邪魔しようと思いますの」

 と、妖艶な笑みを湛えて言った。

「姉さんが? なんでわざわざ姉さんが出なきゃならないんだい?」

「ふむ。理由を効かせてくれるかな、香菜」

 きょとんとする潤一郎と、また思案するみたく唸る十兵衛。問われた香菜は「簡単な理由ですわ」と言い、投げ掛けられた質問に答え始めた。

「そろそろ、我らネオ・フロンティアのことを皆様に知っておいて頂かなければならない時期ですもの。顔見せとしては……丁度良いタイミングと舞台だとは思いませんか、お爺様?」

「一理あるやも知れぬな。……構わないよ、香菜の思うようにやってみなさい」

「ありがとうございます、お爺様」

 可憐に着こなす、紫色を基調としたゴシック・ロリータ風のワンピース。その裾をドレスのように摘まみながら、香菜は祖父の十兵衛に恭しくお辞儀をして。そして……不敵に笑んでいた。





(第十二章『戦いの予感は疾風の中に』了)

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