第十一章:哀しみは吹きすさぶ旋風とともに/02

「……美雪ちゃん、どうしちゃったんだろうね」

「さあね。ただ……生きていてさえいれば、アタシはそれでいい」

「うん……まずは、生きてなくっちゃね」

 そうして解散した後、戒斗とアンジェ、それにセラは三人でP.C.C.S本部ビル、地下区画の廊下を歩いていた。

 歩きながら、三人で言葉を交わす。当然ながら主な話題は、消えた彼女……風谷美雪のことについてだった。

「カイト、あの時本当に美雪ちゃんが……」

「……ハッキリと見たワケじゃない。もしかしたら、俺の見間違いかも知れない。ただ……ただアレは、どう見ても」

「美雪ちゃん……どうして」

「アタシはその場に居たワケじゃないから、言えることは少ないけれど。でも……家族が殺された現場を見ちゃったんですもの。まして、美雪にとっては大好きな家族。そんなものを見ちゃったら……神姫の力が目覚めるのも、当然といえば当然の話よ」

「セラ……」

 セラの呟きに、俯くアンジェ。

 そんな二人を横目に見ながら、戒斗は独り無言のままだった。

 ――――あの時、自分は何も出来なかった。

 そんなものは結果論だってこと、分かっている。家に踏み込んだ時には既に何もかもが手遅れだったのだから、自分に出来ることなんて最初から何も無かったはずだ。

 そんなこと、分かりきっている。あの時の自分が、自分に出来る限りの最善を尽くしたことだって、頭では分かっているつもりだ。

 だが、それでも――――戒斗は悔しさを覚えずにはいられないのだ。

 あの時、美雪に何も言葉を掛けてやれなかった。悲しみに暮れる彼女に、絶望の涙を流す彼女に、自分は何もしてやれなかったのだ。

 肩を叩くことだって、慰めの言葉を掛けることだって。ただ黙って抱き締め、彼女の強すぎる悲しみを受け止めることだって出来たはずだ。何か、何か出来たはずなんだ。

 後になってから、ああしてやればよかった、こうしてやればよかった……と、そんなことばかりが頭に浮かぶ。

 どうしようもないことだったと分かっていても、それでも戒斗は考えてしまうのだ。あの時、美雪にもう少し何かしてやれたんじゃないか、と…………。

「……カイト」

 そんな彼の心情を察してか、アンジェは隣を歩く彼の横顔を小さく見上げ。すると、そのまま彼の手をぎゅっと握った。

「…………」

 戒斗は一瞬だけ躊躇しつつも、自分を気遣って手を握ってくれたアンジェ、そのひんやりとした手を握り返す。

「カイト、自分を責めすぎないで」

「……分かってる、つもりなんだけどな」

 そうして三人で歩きながら、戒斗もアンジェも、セラも内心で思っていた。居なくなってしまった彼女の、風谷美雪のことを…………。

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