第七章:少女は風に誘われて/07

 そして時間は過ぎ、夕刻頃。西から差し込む夕陽に照らされながら、戒斗はいつものように神代学園の校門前へとZを横付けし。茜色の夕陽に良く馴染むオレンジ色のボディに寄りかかりながら、アンジェの帰りをじっと待っていた。

 訓練を終え、P.C.C.S本部を出てから何だかんだと結構経つ。アンジェを待たせてはいけないと思い、少し早く着きすぎたかも知れない。

 まあ、待つのは苦じゃないタイプだ。アンジェを待たせるよりはずっと良いと思いつつ、戒斗はボディに寄りかかりながら、暫しの間アンジェの帰りをそこで待っていた。

「……来たか」

 そうして待っていると、校門の向こう側からこっちに向かって歩いてくる三人の人影を、戒斗はふとした折に見つけていた。

 アンジェとセラ、そして美雪だ。仲睦まじそうに笑顔で言葉を交わす三人の様子を見るに、どうやら美雪はあの後、アンジェとも無事に逢えたらしい。

 そんな三人を遠目に眺めていると、歩いてくるアンジェもまた遠くから戒斗の姿を見つけてくれたようで。笑顔で手を振りながら、セラと美雪を連れて戒斗の元へと駆け寄ってきた。

「お待たせ、カイトっ♪」

「ああ、おかえりアンジェ。……それに、セラと美雪も」

「事情は全部アンジェと、後はこのから聞いたわよ。……ほんっと、アンタたちらしいっていうか」

「美雪ちゃん、セラともお友達になれたんだよ?」

「はいっ。セラさんもアンジェさんと同じで、とっても楽しいヒトで……! 私なんかがお友達なんて、本当に良いのかと思っちゃうぐらいです……!!」

「あー、いいのいいの。そういう細かいコトは気にしなくてもさ。アタシも美雪は一目見て気に入っちゃったから。一緒に居たって全然苦にならないしね。アタシで良ければ、これからも仲良くしてくれると嬉しいわ」

「はいっ!」

 いつも通りの笑顔を浮かべるアンジェと、肩を揺らしつつ小さく表情を綻ばせるセラ。そんな二人に満面の笑みで答える美雪。

 様子を見る限り、どうやら三人の関係性は良好なようだ。

「そうだ!」

 そんな三人の会話をすぐ傍から眺めつつ、仲睦まじい会話に戒斗が微笑んでいると。するとアンジェは唐突に何かを閃いたみたいで、何の脈絡もなく皆にこんな提案を持ちかけてきた。

「ねえ美雪ちゃん、それにセラも。この後お店に来ない?」

「お店……あっ、昨日言ってらした戒斗さんの」

「そうそう! ねっ、来てくれるかな?」

「私はこの後、特に用事もありませんし……大丈夫ですよ。ご存知の通り、家も近いですし」

「アタシも……うん、アタシも特にないわね。遥に改めてお礼も言いたいし、構わないわよ」

「それじゃあ決まりだねっ!」

 どうやら、この後は皆で戒斗の実家でもある店に……純喫茶『ノワール・エンフォーサー』に来てくれることになったようだ。

 記憶が正しければ、今も遥が店の手伝いをしてくれているはずだ。よっぽどのことがない限りは……それこそ彼女が敵の出現を察知しない限りは、遥が店に居てくれているはず。だとすれば、改めて礼を言いたいというセラの目的も果たせるだろう。

「ま、生憎とコイツは二シーターだ。全員を乗せてくってことは出来ないがな」

 そんな風な三人の会話に頷きつつ、戒斗は背にしたZのボディを軽く叩きながら、皮肉じみた台詞を口にする。

 ――――戒斗の愛機であるZ33は、二ドア二シーターのスポーツクーペ。つまりは二人乗りの車だ。

 戒斗自身、ドアが二枚でシートも二席のスポーツクーペは好きだから、その点も気に入っていたりするのだが……乗れる人数がたった二人なだけに、こういう時は不便さを感じてしまうこともある。

 まあ、こればっかりは仕方のない話だ。

「あー、そっか」

 戒斗が言った後、アンジェは今更ながらに思い出した顔をしていて。どうしたものかと二人で思い悩んでいると、セラが美雪にこんな提案を持ちかけていた。

「だったら、アタシの後ろ乗ってく?」

「後ろ……?」

 意味が分からず、きょとんとする美雪。それにセラは制服ブレザージャケットの内ポケットからバイクのキーを取り出しつつ、それを軽く見せつけながら美雪にこう説明をする。

「あんまり大きな声じゃ言えないけど、バイク乗ってきてるからさ。予備のメットもあるし、美雪さえ良ければ乗せてってあげるわよ?」

「セラさんがそう仰るのなら、是非お願いしたいです」

 どうやら、美雪はセラが自前のバイクで連れて来てくれるらしい。

 そういえば、前にアンジェが言っていた気がする。前に学園に居るときにバンディットが出現して、現地までセラのバイクに乗せていって貰った……と。

 何にしても、これで移動のアシにまつわる問題は無事に解決というワケだ。

「よっし、これで解決! ……ってことで戒斗、今からアンタの店に押し掛けちゃうけど、良いわね?」

「厳密に言えば俺の店、ってワケじゃないんだが……まあ些細なことか。来る分には構わないぜ。来る者拒まずだ。皆が来てくれるのなら、きっと遥も喜ぶ」

「んじゃあ、決まりだねっ!」

 そういうことで、戒斗とアンジェはいつも通りにZ33で。そして美雪はセラのバイク、真っ赤なゴールドウィングF6Cに便乗する形で、皆で純喫茶『ノワール・エンフォーサー』に行くことが決まったのだった。

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