第七章:少女は風に誘われて/04

 隔壁を潜った戒斗の目の前に現れたのは、巨大な空間だった。

 打ちっ放しのコンクリートが囲む四角いその空間は、数十メートル四方もある大きさだ。天井の高さもかなりあり、よくある体育館……というよりも、寧ろ航空機の格納庫という喩え方の方がより適切か。とにかく戒斗が足を踏み入れたのは、そんな広い空間だった。

 そんな広い中に、ベニヤ板で築かれた簡素な建屋がある。

 三階建てのそれは……キルハウスと呼ばれる訓練用の建物。CQB――――クロース・クォーター・バトル、つまりは屋内での至近距離戦闘の訓練のために作られた建物だ。

 普段はSTFなんかが使っている施設だったが、今日のところは戒斗と……そして、VシステムのCQB訓練のために使われる。

『戒斗さん、聞こえるッスか?』

 ヘルメットの内側に響く、南からの通信に戒斗は「感度良好だ」と短く返す。

『了解ッス。戒斗さんのすぐ傍にテーブルがあるッスよね? そこに置いてあるケースの中にエクスカリバーが入ってますから、今日の訓練ではそれを使ってくださいッス』

「分かった。……これか」

 戒斗は南に言われた通り、自分のすぐ傍……真後ろでバタンと閉じた、ついさっき戒斗が入ってきた隔壁のすぐ傍にある簡素な長テーブルに視線を移す。

 すると、そのテーブルの上には南が言った通り、横長の大きなライフル用ハードケースが置かれていた。

 戒斗は近づいてそのライフルケースをおもむろに開くと、その中に収められていた大きな自動ライフルを手に取る。

 ――――ARV‐6E2、エクスカリバー自動ライフル。

 合衆国製の自動式対物ライフル、バレットM107をベースに、P.C.C.Sが対バンディット戦用にと開発した五〇口径の大型自動ライフルだ。

 原型のバレットM82シリーズよりも銃身は短く、樹脂部品を多用し軽量化。また申し訳程度の低レートなフルオート(連射)機能も追加されているが……見た目は元のバレットと大して違わない。強いて言うなら、銃上部のアクセサリーレールにVシステム用の大きなセンサースコープが装着されていることぐらいが大きな違いか。

 とにもかくにも、戒斗はそんなエクスカリバーの銃把を左手で握り締めると、ケースへ一緒に収められていた二〇連発の大きな樹脂製弾倉を手に取り。弁当箱ほどもあるそれをエクスカリバーに叩き込む。

 弾倉を叩き込んでから、右手で巨大なボルトを引いて初弾装填。五〇口径のカートリッジが薬室に送り込まれたのを確認してから、戒斗はエクスカリバーを両手で保持する。

「にしても、五〇口径が豆鉄砲扱いか」

 手の中に在るエクスカリバーに視線を落としながら、戒斗が何気なしに呟く。

 すると、通信越しに有紀は『まあね』と頷いて、

『相手は超常の存在なんだ。寧ろ既存の弾がある程度は通じるだけ、まだマシってものだよ』

「ま、そりゃそうだな」

『……何にしても、今はCQB訓練の方だ。戒斗くん、状況を改めて確認させて貰うよ』

 言って、有紀は南に小声で指示をし。そうすれば南が『最終確認を始めるッスよ』と前置きをしてから、改めて今日の訓練内容を戒斗に説明し始めた。

『今日の訓練シチュエーションはCQB、屋内に於ける敵バンディット掃討ッス。中には人質も居ますから、間違えて撃たないように気を付けてくださいッス』

「了解だ」

『使用火器は今戒斗さんが持っている、ARV‐6E2エクスカリバー。予備弾倉は二個まで携帯可能ッス。他にはハンドガン、HV‐250スティレットも使用して貰って大丈夫ッス。弾は全て威力を落とした訓練弾ッスから、間違っても流れ弾のせいでキルハウスが崩れるってことは起きないッスよ』

「分かった。敵の総数は?」

『一階から三階、全部合わせて四〇ッス』

 戒斗は南の報告に「了解だ」と頷き返し、

「状況確認はもういい、早速始めてくれ」

 と、通信越しに訓練開始を急かすみたくそう告げる。

『分かりました。……主任、始めちゃっても?』

『ああ、始めてくれたまえ』

『了解。じゃあ戒斗さん、訓練開始ッス』

 通信越しに南がそう告げるとともに、訓練開始を告げるブザー音が鳴り響いた。

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