第十三章:BLADE BRAVE/02

 避ける暇はない。スカーレットフォームの硬さなら耐えきれるかも知れないが、でも本当に耐えきれる保証なんて何処にもない…………。

 経験の浅さ故にどうして良いか分からなくなって、ほんの一瞬だけアンジェの頭が真っ白になった――――その時だ。

「させるかぁぁぁぁっ!!」

 呆然とするアンジェと、飛びかかってくるコフィン。その間に突如として割って入ってきたセラが巨大なシールドを構え、三体のコフィンを諸共に吹っ飛ばしてくれたのは。

 ――――ガーディアンフォーム。

 アンジェの危機に気が付いた彼女が、援護射撃を投げ捨てて咄嗟にフォームチェンジし駆けつけてくれた。一八五センチの高身長な彼女の背丈すらをも超える、恐らくは二メートル前後はあるだろう巨大なシールド。それでセラはアンジェを間一髪のところで守り通したのだ。

「ハッ……!!」

 そうしてセラが攻撃を防げば、遥が足裏のスプリング機構を圧縮し、バネを解放して踏み込み。凄い速度で飛び込んで来た彼女が間髪入れずにウィスタリア・エッジで続けざまに斬り裂き、三体のコフィンを一気に撃破してしまう。

「何やってんの、馬鹿!」

「大丈夫ですか!?」

 アンジェの虚を突いた三体が無事に撃破されると、彼女の傍でシールドを構えていたセラが振り向いて怒鳴り、そして駆け寄ってきた遥が案じた様子で声を掛けてくれる。

「ごめん……ありがとう二人とも、助かったよ!」

「ったく、気を付けなさいよね!?」

「ご無事で何よりです」

 そんな二人に素直な謝罪と、そしてお礼を告げると。するとセラも遥もそれぞれ、彼女たちらしい反応を返してくれる。

 ひとまず、こうしてアンジェは窮地を脱した。

 だが――――歴戦の神姫二人が僅か数秒といえ、一箇所に意識を集中させてしまった際に生じた隙は大きく。三人はいつの間にか、残りのコフィンたちに囲まれてしまっていた。

「くっ……!」

「……ちょっとマズいかもね」

「ごめん、僕のせいで……!」

「気にしないでください、大丈夫ですから」

 顔をひそめる遥や冷や汗を掻くセラ、そして申し訳なさそうな顔のアンジェ。そんな彼女に遥は微笑みかけてみせたが、しかし更なる劣勢に追い込まれてしまったことは事実だった。

 ジリジリと詰め寄ってくる大量のコフィンの群れと、そして取り囲むコフィンたちの間を割って入り、遂に神姫三人の目の前にまでやって来たグラスホッパー・バンディット。

 三六〇度、全方位を取り囲むそんな敵を前に追い詰められた三人は、背中合わせになりながらそれぞれの武器を構える。遥はウィスタリア・エッジを、セラはシールドを。そしてアンジェは両手を包むスカーレット・フィストを構え、全方位から迫り来る敵と睨み合う。

「……どうする、二人とも?」

「馬鹿、どうするもこうするも無いでしょう、こうなっちゃったら……!!」

「多勢に無勢、ですね」

 とはいえ、此処で剣を折るワケにはいかない。神姫である自分たちが戦わずして、誰がこの異形の大群と戦うというのか。

 戦って、戦って、戦い抜く。誰かの笑顔を、心から愛する彼を、愛していた者の遺した世界を……それぞれが守りたいと願ったモノを守るために。それこそが神姫の宿命さだめ、それこそが……異形と戦う力を得た、戦乙女たちの宿命さだめなのだから。

 だから、諦めない。目の前に異形の怪人が、バンディットが居る限り――――戦い続ける、神姫として。

「……アンタたち、何かプランは?」

「あったら困らないんだけどね……」

「敵と戦う、私たちに出来ることはそれだけです」

「あっそ。んじゃあさ、プランBで行きましょうか」

「プランB?」

「何ですか、ガーネット・フェニックス?」

「馬鹿ね、あるワケないでしょそんなモン。行き当たりばったり、それだけよ」

「……ま、そうだよね」

「今度こそ、私が突破口を開きます」

「オーケィ、こんな状況だものね。アンタに賭けるわ、セイレーン。大物狩りはアンタに任せた」

「それじゃあ、僕らは周りの連中を……!」

「ええ、そうね。アタシがフォローするから、アンジェは好きに動きなさいな」

「分かった……!」

「行きましょう、お二人とも――――ッ!?」

 追い詰められた三人がそうして決死の反撃を試みようとした、そんな矢先――――此処じゃない何処か、まるで別方向から機銃掃射が飛んで来て。すると二〇体近いコフィンが、遥たちを囲んでいた一角が丸々消し飛ぶぐらいの量が……一瞬の内に薙ぎ払われてしまっていた。

「!?」

「今の……ちょっと、二〇ミリのガトリング掃射!?」

「えっ……えっ!? 何、何が起こったの!?」

 眼を見開く遥と狼狽するセラ、そしてキョロキョロと視線を泳がせながら戸惑うアンジェ。

 そんな風に驚く三人が、砲撃の飛んで来た方向を……まるで視力検査の『C』の字のようにぽっかりと空いた、コフィンたちの包囲網の穴の先へと視線を向けてみると。

 すると――――――――――。

「あれは、一体……?」

「えっ、なにあれ……?」

「まさか……まさか、もう実戦投入を…………!?」

 一度に爆散した大量のコフィンの残骸が燃え盛る中、揺れる陽炎の向こう側。遠くからガシャガシャと重い機械音を立てながら、悠々とした足取りで歩いて来るのは――――巨大なガトリング機関砲を携えた鋼鉄の戦士、見たこともない漆黒の重騎士だった。





(第十三章『BLADE BRAVE』了)

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