第六章:それぞれの道で、それぞれの為すべきことを
第六章:それぞれの道で、それぞれの為すべきことを
「――――というワケだ。一応、遥にも知らせておいた方が良いと思ってな」
「そう、でしたか…………」
市街のP.C.C.S本部から離れ、帰宅後。アンジェを引き連れて自宅に帰ってきた戒斗は自室に遥を招き入れると、そこでアンジェとともに今日の出来事を……P.C.C.Sにまつわる一連の出来事を彼女に話していた。
無論、アンジェが神姫として組織に協力する立場になったことと、そして戒斗が正式にP.C.C.S入りしたことも含めた話を、だ。
しかし戒斗たちは、セラがあの赤と黒の神姫……ガーネット・フェニックスであることだけは遥に明かさぬまま、意図的に伏せている。彼女のことだけは遥に話さない方が良いと思い、示し合わせた戒斗とアンジェは敢えて話さずにいたのだ。
何せ遥とセラは顔見知りといえども、そこまで深い仲ではない。まして互いに互いの正体を知らずに、あまつさえ交戦すらしてしまった相手だ。だから戒斗もアンジェも、話してしまったところで遥の方が気まずくなるだけだと思い……敢えてそのことだけは彼女に伏せておいたのだった。
だから遥はセラのことを、セラは遥のことを。お互いにまだ正体を知らぬままということになる。ある意味でフェアなこの状況、今はまだこのままでいい……と、二人ともそう思っていた。
「ごめんね? 僕らで勝手に決めちゃって。ああでも安心してね、遥さんのことは誰にも話してないから」
話を聞き終え、深く思案を巡らせるように頷く遥にアンジェがそう言うと、遥は安堵した顔で「ありがとうございます」と二人に礼を言う。
「……正直、私にはどう言っていいものか分かりませんが」
その後で遥は、複雑そうな顔を浮かべながら二人に向かってこう続ける。
「でも、それがお二人の決めたことでしたら、私はそれで良いと思います。私はその国連の特務機関……ええと、何でしたっけ」
「P.C.C.Sだ」戒斗が横からそう言う。「確か超常犯罪対策班、だったか」
「ええ、その組織です。お二人が決めたことでしたら、その方々への協力は一向に構わないと思いますよ。有紀さんがいらっしゃる組織なら、きっと信用に足る相手でしょうし」
そう言った後で、遥は「ですが」と更に続く言葉を紡ぎ出し、
「私は……残念ながら、そのP.C.C.Sという組織には参加できそうにありません。どうして参加すべきでないと思うのか、それは自分でも分からないですけれど。でも……私には、私のやるべきことがある。だから参加は出来ないと、それだけはお二人に言えます」
と、苦笑い気味の顔で彼女はそう言った。
「そっか」
するとアンジェは小さく頷き、その後で「大丈夫だよ」と優しげな視線を遥に向ける。
「僕もあくまで協力者っていうだけで、正式に入ったワケじゃないんだ。というか……組織のしがらみがない方がいいから、入らないでくれって司令に頼まれちゃって」
「そうですか、なら私も余計に安心です」
アンジェに言われて、遥は少し安堵したような顔で彼女に頷き返す。
彼女とてアンジェのことが心配だったのだろう。同じ神姫であるのだから、尚更のことだ。
だから遥は、彼女が組織に囚われてしまうことに……自分と同じ神姫である彼女が、組織のしがらみに囚われることを案じていたのだ。それが杞憂だと知ったからこそ、今こうして遥は心からの安堵の表情を浮かべていた。
「とにかく、これで皆がそれぞれに出来ることをしていけるようになったんだ。遥さん、それにカイトも。これからも頑張ろうね」
「はいっ!」
「……ああ、そうだな」
改まった調子で、話を締め括るみたくアンジェの言った言葉に、遥は穏やかな笑顔を浮かべながら。戒斗も戒斗で薄い笑みを浮かべつつ、そんな風に二人でアンジェに頷き返していた。
――――間宮遥が人知れず戦う傍ら、戦部戒斗とアンジェリーヌ・リュミエールは国連の超常犯罪対策班、P.C.C.Sに合流した。有紀やセラも所属する、対バンディット戦に特化した極秘の特務機関に。
こうして、物語の歯車はゆっくりとだが……しかし、着実に動きつつあった。
それはこの部屋の中だけではなく、彼女たち神姫やそれにまつわる者たちの周囲だけではなく。遥たちのあずかり知らぬところ、光の当たらぬ深淵の彼方でもまた、運命の歯車はゆっくりと動き続けていた――――――。
(第六章『それぞれの道で、それぞれの為すべきことを』了)
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