第三章:神姫二人、激突する刃と刃/04

「ハァッ……!!」

 大地を踏み締め、一気に踏み込む。

 身を低くして飛び出した遥の速度は、先程までの比ではない。地を這うような高さで、閃光のような速度で突撃を図る遥の速さに……重装備で動きが鈍いセラは、その身の重さが故に反応しきれなかった。

「ハッ……!!」

「あぁっ!?」

 一気に懐へと飛び込み、鋭く突き出した左腕――――その延長線上たる細身な槍、聖槍ブレイズ・ランスでセラの胸部を突く。

 すると、セラは胸部の神姫装甲から派手な火花を散らしながら後方に吹っ飛んでいった。

 刺突された衝撃に喘ぐ彼女の声が、加速度的に遠くなっていく。踏み込みの加速で勢いを付けた遥の一撃は、あの重いストライクフォームのセラをも吹っ飛ばすほどに強烈な一撃だったのだ。

 吹っ飛んだセラはそのまま背中から地面に落下し、ゴロゴロと何度も地面を転がってからよろよろと起き上がる。

「もう一撃……!」

 そんなセラに対し、遥はダメ押しと言わんばかりに追い打ちの一撃を放とうと更に踏み込んでいく。

 ――――だが。

「へえ……そっちも三つのフォームチェンジがあるんだ」

「っ……!?」

 転がった格好から立ち上がったセラが浮かべるのは、不敵な笑み。恐怖でも焦りでもない、頬に少しばかり土埃の付着した彼女が浮かべるのは……自信ありげな、そんな不敵な笑みだった。

「――――ふふっ」

「くっ……!?」

 二撃目の刺突でセラを行動不能にし、そのまま一気に離脱しようと遥は図っていたのだが。しかしセラの胸部目掛けて突き出したはずのブレイズ・ランス、その切っ先を受け止めていたのは――――セラが構えた、巨大な盾だった。

「っ……!?」

 驚く遥の目の前、長身のセラを上から下まで全て覆い隠すその巨大な盾は、やはり彼女の神姫装甲と同様に赤と黒のツートンカラーが目立つ派手なものだった。

 …………一瞬前まで、確かにブレイズ・ランスの切っ先はセラの無防備な胸部装甲に狙いを定めていたはずだ。

 だが、それを遮るように一瞬の内にこの盾が虚空より出現したのだ。空間が歪んだかと思えば、この巨大な盾が現れ……遥の狙い澄ました刺突を軽々と防いでしまった。

 この盾が出現する一瞬前、セラの両手の甲にあるガントレット、そのエレメント・クリスタルが輝き……彼女の身体が光に包まれたのを、遥は確かに目の当たりにしている。

 ――――だとすれば。

 だとすれば……これは、彼女がフォームチェンジした姿なのか。ショットガンとナイフを携えた基本形態のガーネットフォーム、そして重砲撃形態のストライクフォームに続く……第三の形態。遥がセイレーンフォームからライトニングフォーム、そして今のブレイズフォームへと変化したように……彼女もまた、新たなる姿へと変化を遂げたのか。

「奇遇ね――――アタシの手札も、三枚なのよ」

 巨大な盾、身体を覆い尽くすシールドを構えたセラが、そのシールド越しに戸惑う遥へと語り掛ける。

 ――――ガーディアンフォーム。

 これこそが、神姫ガーネット・フェニックスの第三の形態。防御に特化した、あらゆる外敵を受け付けぬ守護神ガーディアンたる彼女の姿だった。

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