第三章:神姫二人、激突する刃と刃/02

「喰らいなさい!」

「ッ――――!!」

 ――――豪雨。

 一秒弱でスピンアップしたガトリング機関砲の砲身、回転するそれから吐き出された機関砲弾の斉射は……そう表現するしかないほどに高速で、そして苛烈なものだった。

 ガトリング機関砲だから当然だが、連射速度があまりにも早すぎるせいで一発一発の銃声が聞き取れないほどだ。何十、いや何百発分の銃声がひとまとめに凝縮されたかのような、そのブァァァァッという独特な音は……撃つ側からすれば何よりも頼もしく、そして撃たれる側からすれば恐怖のサイレンでしかない。

 セラが構えた両手の巨大なガトリング機関砲から放たれる火線、それの軌道を遥は類い希な戦術眼で先読みすると、やはり一歩先んじて飛び退くことで無事に回避してみせた。

 だが、避けられたといえども冷や汗は出る。毎分何千発という意味不明な速度で放たれる砲弾のスコールが至近距離を掠めていけば……幾ら間宮遥といえども、無理もない話だった。

「まだまだァッ!!」

 だが、セラの勢いは留まるところを知らない。

 両手のガトリング機関砲の掃射に添えるように、今度は腕の甲のマシンキャノンを連射。その連射をガトリング機関砲と一緒に中断すれば、今度は腰の榴弾砲で遥のすぐ傍の地面を吹っ飛ばして派手に抉り。かと思えば太腿のミサイルポッドを斉射して、数十発というマイクロミサイルを一斉に遥へと襲い掛からせる。

「なんて数……!?」

 榴弾砲の直撃を避けたのも束の間、今度は数十発のマイクロミサイルが一斉に襲い掛かってきた。

 その光景を目の当たりにして、遥は戦慄した顔をするが……しかし身体は、あまりに冷静かつ的確に動いていた。殆ど本能的に、半ば無意識のままに。

 迫り来るマイクロミサイルの大群に対し、遥は掲げた右手でライトニング・マグナムを構えると。一瞬の内に最大火力までエネルギーチャージを行い……引鉄を引けば、銃口から最大火力の魔弾を撃ち放った。

 ――――『ライトニング・バスター』。

 神姫ウィスタリア・セイレーン、ライトニングフォームの必殺技だ。今回は相手がマイクロミサイルの大群だから、雷を纏わせた初撃で拘束する過程は省略。いきなり最大火力の魔弾をミサイルに向かって撃ち放っていた。

 右手のマグナムの銃口から迸るそれは、あまりにも太く、そして物凄い勢いで。銃口の太さを軽々と凌駕する大きさのそれは……光弾というより、寧ろビーム砲と呼ぶのが相応しいぐらいの一撃だった。それこそ、巨大なスペースコロニーも一撃で吹き飛ばせてしまいそうな……彼女の放った必殺の一撃は、それほどまでのものだった。

 実際、この魔弾にマイクロミサイルはその全てが飲み込まれて灰燼かいじんに帰している。

 しかも遥が高架下から上方に向かって放ったからか、魔弾の範囲内にあった高架橋の一部までもが派手に抉り飛ばされてしまっていた。上を走る私鉄の運行に影響がない程度の吹っ飛び方ではあったが……この惨状を目の当たりにした鉄道関係者が混乱すること間違いなしな、高架橋はそんな吹っ飛び方をしていた。

「なんて奴……!!」

 ――――まさか、あんな滅茶苦茶なやり方でミサイルを迎撃するとは。

 これは予想外にも程がある結果だ。セラは目の前の神姫に対し素直な称賛半分、悔しさ半分といった視線を向ける。

「……これ以上、続けても無意味です」

 そうした視線をセラが向けていると、必殺技『ライトニング・バスター』を撃ち終えた遥が右手のマグナムを再びセラに向け直しつつ、左のコバルトブルーの瞳と、そして金色に変色した右の瞳でセラを射貫きながら、あくまで冷静な声音で彼女に告げる。

「お生憎様、アタシには意味があんのよ!」

 だが、セラは剥き出しにした敵意を収めようとはしない。ガシャリと再び全身の重武装の照準を遥へと定めながら、セラは感情剥き出しの声で吠える。

「私のことは、放っておいてください!」

「無理な相談よ!! アタシは……アタシはアンタを認めない! これ以上、神姫なんてこの世界には必要ないのよッ!!」

「だとしても……! 私には、私の守りたいモノが! 守りたいヒトたちが……守りたい笑顔がある! だから!!」

「必要無いのよ! 神姫も、バンディットも!! 何もかも、この世界には必要ない! あっちゃいけないのよ、こんな力は!!」

 殆ど会話として成立していないその応酬は、互いの感情を剥き出しのままぶつけ合うようなもので。遥は遥の、セラはセラの。それぞれ胸に抱いた信念と、譲れないモノを言葉の形として互いにぶつけ合っているような、彼女らの会話はそんなものだった。

「だから、全てのバンディットはアタシが倒す! この役目は誰にも譲らない!! だからアタシはアンタをとっ捕まえて、アンタを戦いから遠ざける! これ以上アンタには戦わせない、全部アタシ一人でブチのめす!! だから……アンタは引っ込んでいればいいのよ、ウィスタリア・セイレーン――――!!」

 己の内側に溜まった鬱憤、わだかまり、やり場のない怒りと哀しみ。

 それらを全て叩き付けるような叫び声を上げて、セラは両肩の重粒子加速砲をガシャリと動かす。

 微調整するかのように小刻みに動く、背中のバックパックから生えた砲身が睨み付けるのは……蒼と白の神姫、ウィスタリア・セイレーン。

(アレは……危険すぎる!!)

「ロックオン! 持ってけぇぇぇぇ――――ッ!!」

 重粒子加速砲の二本の砲身、それに真正面から睨み付けられた遥は……今まで最大級の危機感を覚えていて。アレを喰らえば幾ら自分とてひとたまりもないと、彼女は本能的にそれを理解していた。

 だが――――それと同時に、エネルギーチャージを完了させたセラの両肩、重粒子加速砲が火を噴く。

 限界まで加速されて放たれる重粒子のビーム、強烈な破壊力を秘めた二本のビームがセラの両肩から放たれ、立ち尽くす遥へと襲い掛かる――――!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る