第八章:蒼の流星は空っぽの夜空に流れ落ちて/03
ガチャリ、と玄関扉を静かに閉める。
僅かな荷物を纏めた小さなリュックサックを右肩に背負い、誰にも悟られないようこっそりと家を出た遥は、そのまま店の方に回って。入り口に置いてある自分のカワサキ・ニンジャZX‐10Rに跨がった。
「遥さん」
「よう、こんな真夜中にツーリングか?」
そうして家を出ようとした矢先、歩み寄って来た戒斗とアンジェが彼女に声を掛ける。
――――悟られたか。
誰にも気付かれない内に出て行こうと思っていた遥にとって、二人がこの場に現れるのは予想外もいいところだった。
だが……同時に、この二人らしいとも遥は思う。
「……もう、私はこの家に居られません」
戒斗とアンジェが気付いてくれたことを嬉しく思いつつも、だからこそ遥は曇らせたままの表情で……二人の方を見ないままで呟き。そうするとバイクに差し込んだキーを回し、セルモーターを回してエンジンを始動させる。
「そんなことないよ」
セルが回り、イグニッション・スタート。排気量一リッターの直列四気筒エンジンが唸り出すと同時に、アンジェが目の前の遥へとそう言い返す。
「遥さんは僕たちを守ってくれた。なのに……そんなの、おかしいよ。遥さんを追い出す理由なんて……何もないんだから!!」
「ああ、その通りだ」
と、アンジェが言った後で戒斗も同意の意を示す。
「そりゃあ、確かに驚きはした。でも……同時に感謝もしているんだ。俺たちがこうして今も生きているのは、遥が居てくれたお陰だから」
「…………戒斗さん」
「化け物扱いなんかしたりしない。するわけがないだろ? だって……遥はもう、俺たちの家族なんだ」
「でも、それでも私は……」
戒斗もアンジェも、素直な感謝の気持ちを伝えたが。それでも遥は、まだ悩んでいるようだった。
そんな風に逡巡する彼女に、戒斗は小さく表情を綻ばせながらこう言った。
「少し、俺たちに付き合ってくれないか? 出て行くかどうかを決めるのは、その後からでも遅くない」
「……はい」
迷った後、遥はコクリと頷き返し。唸っていたZX‐10Rのエンジンを、そっと停止させた。
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