25話 千鶴の誓い
中学時代の私の性格はあまり小学生時代とは変わらず、 臆病だった。
ただ小学生時代と違う点を挙げるとすれば、 それは同年代の友達と呼べる存在が沢山できたということだ。
その友人の中で、 一番仲が良かったのは……
「おはよう俊君!」
「おはよう千鶴」
当然俊である。
俊とは一度も同じクラスになったことはないが、 学校の登下校だけはいつも一緒にしていた。
私にとっては、 この時間が一番幸せな時間だった。
学校の友人と過ごす時間も嫌いではなかったのだが、 俊と一緒にいるといつも幸せな気分でいられた。
私と俊は、 学校の昇降口でいつも別れる。
「それじゃあ千鶴。 またね」
「うん!」
そして俊と別れて私は自分の下駄箱の前に立ち靴を取り出そうとすると大量のラブレターが入っていた。
「またこんなに入ってる……」
私にとってはこれが日常茶飯事で、 正直かなり嫌気がさしていて手紙のことを無視したかったのだが、 俊にこのことを相談したら、 『ちゃんと面と向かって断るべきだよ。 じゃないとせっかく勇気を出して千鶴のために手紙を書いたその人達が可愛そうじゃないか』と言われてしまった。
私は俊にそう言われたため一応手紙を書いてくれた人の元へと向かって、 ちゃんと断りに行っている。
私は昔から俊一筋のため、 もし俊の言うことを無視したら俊に嫌われるかもしれないと恐れたからだ。
そのため私は、 授業を真面目に受けた後、 いつものように告白を断りに行くということが日課となっていた。
また告白を断る時帰りが遅くなることがほとんどだったのだが、 それでも俊はいつも笑顔で私を待ってくれていた。
「お疲れ様」
「いつもこんな時間まで待たせてごめんね」
「別に気にしてないよ。 それよりも千鶴は誰かと付き合うつもりはないの?」
私はこの時俊に向かって自分の気持ちを伝えたかった。
「わ、 私ね。 実は……」
でも私はもし俊に告白して振られてしまったらもう生きていける気がしなかった。
だからこそ私は、 いつも自分の気持ちを伝えることができなかった。
「やっぱりなんでもない……」
「そう? 何か困ったことがあったらいつでも言ってね」
そのあと私たちはそのまま無言で帰宅した。
そんなことを私達は約三年ほど続けた。
そして私たちが三年生の冬にある事件が起きた。
その事件の発端は私に届いたあるラブレターから始まった。
朝私はいつものように下駄箱のラブレターの内容に目を通していると、 とあるラブレターが目に入った。
その送り主は、 私と俊の学校の男子の中でもっと人気のある人物の内容の物だった。
そのことを私の友人達に話すと友人達は、 何処か気まずそうな顔をした。
その生徒とは、 夕方の五時に屋上で待ち合わせをしていた。
私は、 早く俊と会いたいという気持ちを押し殺しながら、 その生徒との約束の場所へと向かった。
私が扉を開けると彼はすでに待っていた。
「待たせてごめんなさい」
「別にいいよ。 それで告白の返事を聞かせて欲しいな」
「ごめんなさい。 わたしには好きな人がいるので、 あなたとはお付き合いすることはできません」
私はそう事務的に話した。
「そっか……」
「それじゃあ私は用事があるのでこれで失礼します」
私はそう言って急いで俊との待ち合わせ場所へと向かおうとした。
「もしかして君が好きなのってあの“ロボット人間”の事?」
彼はそう言ったが私には機械人間というのが誰のことを指しているのかはじめ理解できなかった。
「あのそれって誰の事ですか?」
「ああ、 君は彼の本名しか知らないのか」
「あの、 私急いでますので……」
「待ってよ。 僕の言うこと最後まで聞かないと君は後悔することになると思うよ?」
「それなら早くしてくれませんか?」
「“ロボット人間”ていうのは“長谷川俊”のことだよ」
私はそれを聞いた瞬間この男のことを殺したくなった。
「おっと図星かな。 顔が真っ赤だよ?」
「そんなことよりなんで俊君がそんな名前で呼ばれてるんですか?」
「だって彼いつもいじめられてるのにも関わらず、 いつも笑顔で気味が悪いじゃないか」
俊君がいじめられている?
なんで俊君がいじめられているの?
「おやその表情を見るに、 君は彼がいじめられていることを知らないようだね」
「嘘! だって俊君は喧嘩かなり強いし、 それになんで俊君がいじめられなくちゃいけないの?」
「それは君のせいだよ」
「私のせい?」
「そうだよ。 君が彼のことを好きなのは周りの人間はみんな知っているんだ。 それでもあきらめられない人が君に告白してきているんだよ」
なんで私が俊のことが好きだとみんな知ってるの?
私が俊のことが好きだと知っているのは、 私の友達だけのはずなのに……
「それで君に告白して恋敗れた人間が彼をいじめているんだよ」
私はそれを聞いた瞬間、 俊との待ち合わせ場所へと全力で走った。
待ち合わせ場所に俊はいなかった。
「俊君! どこいったの! 返事をして!」
私は学校内で何度も叫んだが、 返事は一向に帰ってこなかった。
そして私はもしかしたら俊が先に帰ったのかもしれないと思い俊といつも一緒に帰っている道へ俊を探しに出かけた。
そこで私は、 俊を見つけることできた。
俊は交差点で歩行者信号が青になるのを待っていた。
私はそれに安堵しつつ、 どうして私に自分がいじめられていることを話そうとしないのか問いかけるために俊の元へと向かおうとした。
しかし私はその瞬間自分の背中に強い衝撃を感じた。
後ろを見るとそこには私が友達だと思っていた存在が立っていた。
そして私は車が走っている道路へと押し出されそうになった。
その時私は、 周りの時がゆっくり動いているようにに感じた。
ああ、 私はきっと死ぬのだろうな。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
それに私はまだ俊君に自分の思いを伝えることができていないのに。
そう思うと自分がまだ死にたくないと感じた。
それと同時に誰かにこの状況を助けて欲しいと私は心の中で願ってしまった。
「大丈夫だよ。 千鶴は僕が守るから」
そう言ったのは俊だ。
俊はそう言った瞬間、 私の手を掴み私を歩道へと思いっきりひぱった。
その瞬間、 時がまたもとに戻ったように感じた。
それと同時に自分が助かったのだと安堵した。
そして俊に自分を助けてくれたお礼を伝えようとした。
だがその願いはかなわなかった。
なぜなら俊は、 私を引っ張た反動で、 道路へと出てしまったからだ。
そして次の瞬間、 俊は車に引かれた。
「俊君! いやぁぁ!」
私は俊が車に引かれる瞬間を目の前で見た。
俊は、 最後の最後まで笑顔だった。
「おい! 中学生が車にひかれたぞ! 早く救急車を呼べ!」
周りの人間は、 必死に俊を助けようとしていた。
私はその時結局何もできなかった。
俊は車にひかれてからすぐに病院へと運ばれた。
私は事件の状況を詳しく知りたいと警察に言われ、 警察に連れていかれた。
私は警察の取り調べが終わると自宅に帰り、 自室に引きこもった。
そんな様子を私の両親は、 とても心配してくれたが私にはそんな余裕はなかった。
もし俊が死んだら私は、 生きていけない。
それと同時に、 猛烈に自分や周りの人間に対して憎しみが生まれた。
そして私は自宅に引きこもるのを約一か月続けた。
両親も私が引きこもっている理由が、 俊の交通事故にあるとニュースを見て気づいたらしく、 何も言ってこなかった。
「千鶴! 千鶴! 起きなさい!」
私は母がとても慌てている様子にどうかしたのか疑問に思い扉を開いた。
引きこもっていた時の私は、 体はやせていて、 髪はぼさぼさでとても前の面影は見られなかった。
「どうかしたのお母さん?」
「俊君が! 俊君が!」
「俊君がどうかしたの!」
「俊君が今目を覚ましたって!」
私はそれを聞いて安堵した。
そして私は急いで俊に会いに行くことにした。
俊のいる病院については、 母から場所を聞いているので問題はなかった。
「俊君! 俊君! 俊君!」
私は早く俊に会いたかった。
一か月引きこもっていたせいで、 体力はかなり落ちていたがそれでも私は全力で走った。
「俊君!」
私が俊君のいる病室を開けるとそこには月を見ている俊がいた。
「よ、 よかった~。 俊君生きてたよぅ! 本当に良かったぁぁ!」
私はこの時ほど神様に感謝したことはない。
だがここで私は予想外の事態に遭遇する。
「おい。 あんた誰だ?」
「え……」
俊は私のことを覚えていなかったのだ。
また目を見ると色が違っていた。
俊の瞳の色は、 以前は灰色だったのだが今は黒色になっていた。
「もしかして私の事覚えてないの?」
「そうだ。 それどころか自分の事すらさっぱりわからん」
ああ、 これが私に対する罰なのか。
「おい顔から涙が出てるぞ。 どうかしたのか?」
そういう俊は私の涙を拭いてくれた。
俊は口調や態度は変わっていたが性格は、 あまり変わっていなかった。
「ありがとう……」
俊は私との思い出をなくしてしまったけれど、 またこれから一緒に作っていけばいいと前向きな気持ちになれた。
「それで結局お前は誰なんだ?」
「私は……」
ここで恋人と言えば、 私の願いは簡単に叶えることができる。
でもそれは、 俊を騙しているような気がしてできなかった。
「私はあなたの幼馴染の紅千鶴よ。 それであなたの名前は長谷川俊よ」
私はこの時今まで自分がしていた丁寧な口調をやめた。
そして臆病な自分ともこの時に決別しようと誓った。
「千鶴か。 まさか俺にこんなきれいな幼馴染がいるとわな。 嬉しいよ。 それと昔の記憶がない俺だけどこれからも仲良くしてくれるか?」
そう言った俊は、 私にいつも向けてくれていた笑顔をしていた。
「当然よ! こちらこそよろしくね俊!」
そして私はそのまま俊へと思い切り抱き着いた。
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