油断も隙も
『私の真意を見抜くこともできずにいいように利用されるような愚か者には相応しい』
自分のために働いてくれて、その結果、罪人として捕らえられることになった者達に対してミカが吐いた言葉に誰もが凍りつく。
しかし、さすがに看守長は先に気を取り直し、
「あはは! こりゃいい! なるほど魔女の言うとおりだ!! お前らはどうしようもない馬鹿だったってことだな!」
ミカの言葉にショックを受ける者達を嘲った。
それに対して若い男が睨み付けると、看守長は、
「なんだその目は!? お前はまだ帝国に歯向かうのか!? この奸賊が!!」
と怒鳴りつけ、手にしていた、硬い木の棒の芯をなめした皮で包んだ棍棒でその若い男の頭を打った。
ゴッ!!
という嫌な音と共に、若い男ががくんと膝をつく。
すると、短い鎖で繋がれていた者達もそれに引っ張られ体勢を崩す。
だが、
「おらよ!」
と掛け声を上げながら、膝を突いた若い男に向けてもう一度棍棒を振り下ろそうと看守長が手を上げた瞬間、ミカが体を翻しドアに向けて走り出した。
が、彼女を拘束していた鎖は看守長の男の腰に繋がれていて、ミカが走り出したことに気付いた看守長がそれに合わせて足を踏ん張ると、さすがに老いたりといえど少なくとも二十になるかどうかという小娘よりは鍛えられた体を持つことで、逆にミカの方がガン!と壁にでもぶつかったように跳ね返り、床に倒れ付した。
「! さすが魔女! 油断も隙もねえな!!」
「……」
看守長の男は鎖をぐいと引き寄せ、ミカを強引に立たせる。そして、
「まったく、こいつはお前らを見捨てて一人だけ逃げようとしたんだぜ? こんな奴に忠誠を誓ってたとか、憐れだな、お前ら」
呆然と佇むルパードソン家の者達に、嘲りと共に憐れむような視線を向けた。
そうして興が削がれたのか若い男にはもう構うことなく、ミカを引きずるようにして、この監獄の看守となるために集められた兵士らと共に地下へと下りていった。
残されたルパードソン家の者達はあまりのことに力なくうなだれ、それを看守となる兵士達がやはり憐れむように見る。
「どうしてこんなことに……」
ウルフェンスの姪に当たる女性はそう言って泣き崩れ、周りにいた者達が支える。
何とも言えない空気が、玄関ホールに満ちていたのだった。
一方、地下牢へと連行されたミカは、先ほど逃げようとしたのとは打って変わっておとなしく従っていた。にも拘らず、看守長は、牢の入り口に立ったミカの頭を棍棒で殴りつけ、
「!!」
彼女は、糞尿と腐った食べ物と何かが混じり合ったらしき得体の知れないすえた臭いを放つ牢内へと昏倒した。
こうして、ミカの、半年に及ぶ監獄生活が始まったのである。
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