裏社会

正直、今のセヴェルハムト帝国の支配者達は、裏社会を上手く利用することすらできていなかった。そういう裏社会に繋がりのある貴族などもいないわけじゃなかったが、精々、御禁制の品などを都合してもらったりする程度の、ただの<上客>でしかないだろう。


裏社会の人間を上手く操って政敵をどうとかいうほどのことすらできないのだ。


とは言え、裏社会そのものも、実は列強諸国それぞれに拠点を持つ裏社会の者達の影響を強く受けていて、<セヴェルハムト帝国そのものの価値>を損なわないようにと手綱を握られている状態だった。


実は、<ミカの友人>も、本来の根城はそちら側にある。そして、<表の商人>が描く青図とは別に、裏社会の者達も、セヴェルハムト帝国をどう料理しようかという青図を描いていた。


なので、列強諸国とも、列強諸国に本拠地を持つ豪商達とも、やや異なる思惑を持っていたりもする。


ミカは、それを利用するつもりだった。<友人>を通して列強諸国の裏社会に働きかけ、揺さぶりをかけるのだ。


そうでもしなければ、今のセヴェルハムト帝国に、列強諸国と真っ向からやりあえるだけの力はない。セヴェルハムト帝国にちょっかいを掛けてくるならば裏社会を利用して背後から撃つ。


それがミカの狙いであり、商人時代からすでにそのための布石は打ってきた。


元々は裏からセヴェルハムト帝国を操るために用意していたことだが、ウルフェンスに拾われリオポルドに気に入られ、思いがけず自分が権力者側に就けたことで一層捗ったということだ。


だからミカの言う、


『この国は数年以内には滅ぶ』


というのは、元々は列強諸国がそれを狙っていることを知った彼女自身の計画の一環でもあったのだ。一度この国を列強諸国に潰させた上で新しく作り直されるどさくさで裏から支配するという。


ただ、どうやら列強諸国の側の思惑としてはこの国をバラバラに切り刻んで、事実上、この世から消してしまおうという流れになりつつあったことから、軌道修正したというのもある。


そんな中で王妃になれたのだ。これを利用しない手はない。


『ヒロキが眠るこの国は、私が作り変える』


と。


そのために必要な情報は、王の物見遊山に付き合っている間に集められた。これによって、列強諸国に対抗する具体的な手が打てる。


セヴェルハムト帝国単体ではおよそ無理だが、その力をつけるのは五年や十年では到底叶わないが、商人時代に培った<裏の繋がり>が大きな力になる。


列強諸国は、すでに、自分達の中に事実上の<外患>を抱えていたのである。


普段はあくまでただの<厄介な烏合の衆>でしかなかったのだが。


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