第68話-ヨルとヴェル
先程まで噴火口後があった洞穴は半分ほどが衝撃で崩壊し、最初と同じぐらいの大きさになっていた。
その噴火口後の更に上の方。
九合目付近に大きなクレーターが出来ており、中心部分には金鎖に簀巻きにされたテュポーンがめり込んでいた。
ヨルは七合目まで移動し、崩れた洞穴の近くで尻餅をついて呆然としているエイブラム大司教を見つける。
「あっ、サブマスターさん、お久しぶりです」
「あっ…あっ……あなたさまっはっ……はっ……はっ……」
ヨルの
まるで過呼吸を起こしているようなエイブラム大司教。
今までのヨルとテュポーンの戦いをこの場所から目撃していたのであろう。
既にさっきまでの勢いは失われており、まるで廃人のような様子だった。
少しでも抵抗されるのであれば、一発ぐらい殴って大人しくさせようかと思っていたヨルだったが、こんなにダメになってしまっている人間をいたぶる趣味はない。
ただこの場にいても次に使う予定の神法の影響を受けてしまうといけないと思い、エイブラム大司教には離れてもらおうと決めた。
「
ヨルはにっこりと微笑みながら、そう告げた。
エイブラム大司教は困惑した表情のまま、壊れた人形のように頭をカクカクと上下させる。
ヨルは
そしてそのまま、崖下にいるアサヒナのほうに狙いを定めて、蹴り飛ばして転がし落としたのだった。
「あぁぁぁぁっっっ…………」
岩に身体をぶつけながらも、アサヒナに向かって転がっていくエイブラム大司教を眺めるヨル。
「アサー!! 受け止めてあげてーー!!」
ヨルは崖下に叫ぶとアサヒナが反応したことを確認すると、そのまま九合目付近の大穴へと向かうのだった。
――――――――――――――――――――
「はぁ……ここが新しい「噴火口跡」って言われるようになるのね……」
エトーナ火山の九合目付近に新しくぽっかり開いた大穴は深さが十メートル程度のすり鉢状になっていた。
まるで隕石が落ちたクレーターのような中心部には、金色に光る鎖でぐるぐる巻にされた何か突き刺さっている。
その様子をチラッと確認だけしたヨルは、クレーターに両手をかざして身体内に残っている最後の神力で神法を使った。
『ふぅ――よし、【
その声とともにヨルの目の前に人間の頭部ほどの真っ赤な宝玉が現れる。
ヨルはかざした手をぎゅっと握り込むと、宝玉は穴の中央へ向け落下しテュポーンの隣まで転がって止まった。
それは遥か昔、大地神ヨルズがテュポーンを封じた神法である。
呼び出された宝玉がヨルからの神力を燃料に、灼熱した溶岩を生み出しはじめたのだった。
「次は、地下のマグマと接続すれば大丈夫かなぁ」
ヨルは溶岩が溢れ出ないように穴を穿ち、ある程度溜まったら溶岩が地下に流れ込むようにする。
(あっ、これ洗面台とかの溢れないようにするヤツと一緒だ……)
意味はないが、なんとなくそう思ってしまったヨル。
「あとは上から封印石でも落としておこうかな……あーでも神力が残ってないや」
いつの間にかヨルの瞳は元の
ヨルが「どうしようかなー」と考えてながら溶岩が溜まっていく様子を眺める。
「私がやっとくよー」
「うぇぇっ!?」
突然背後から声がしてヨルが慌てて振り返る。
そこにはヨルの半分ぐらいの身長しかない、ネコミミを生やしたロリっ子メイドが立っていたのだった。
――――――――――――――――――――
「ヴェル……!」
「やっほー☆ ヨルちゃんお疲れ様だったねー」
「ほんとよ、ヴェルにも言いたい事があるんだから覚悟しておいてね」
ヨルは苦笑しながら腰に手をあててヴェルに苦笑しながら返事する。
久しぶりに会ったヴェルは以前とまったく変わらない姿で、両手を腰に当てて溶岩が溜まっているクレーターを覗き込んでいる。
「あははっ、そんなことよりソレ封印しちゃうねーーヨルちゃんを
「されてないわよ!」
とんでもない風評被害である。
だが、ある意味いつものヴェルでヨルは内心ホッとしていた。
『
赤くドロドロの溶岩が渦巻いているクレーターを、ヴェルの魔力が光の絨毯のようになり覆い尽くす。
ヴェルが開いた手をギュッと握ると金属を叩いたような音がして、クレーターを覆った光の絨毯が岩山と同じ姿に変化する。
それは知らない人が見れば、なにもないただのクレーターにしか見えず、中に入っても何も起こることはない。
テュポーンが沈んでいる溶岩溢れるクレーターと、なにも無いただのクレーター。二種類の状態が存在している状態となった。
「それ便利よね」
「そうねーこの状態を知らないと破ることはできないからねー」
「ちなみに、なんであいつ復活できたの? ただの人間にそんな事が出来るとは思えないんだけれど」
「………………さぁ?」
その反応でバレないと思っているのか、ヴェルは目を逸らしながら頬をぽりぽりと掻く。これはきっちり問い詰めなければと思ったが、それより先にヴェルがヨルに向けてビシッと指をさす。
「そんなことよりヨルちゃん、そろそろ反動出るんじゃないかなー。今回三回もイったんでしょ?」
「言い方!!」
「ほら、無理せず倒れるといいの☆」
ヨルは強がって「大丈夫だから」と答えるが、実際その足はすでにガクガクと震え、立っているのもやっとだった。
「ほらほら〜☆ 私に身を任せるといいの」
ヴェルが素早く背後に回り込み、ヨルの首を手刀でタンっと叩くと、そのままヨルは抵抗なく崩れ落ちたのだった。
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