母の面影
葦原のおごりで道草を食った後、俺はベッドの上でぼーっとしていた。
一人暮らしの家。一人の部屋。
静寂とはかくも耳に痛かっただろうか。すっかり忘れていた。なんだか懐かしくも感慨深い気分だ。
「母さん、元気かな」
ふとレティの面影が母と重なった。
父の顔は知らない。物心つく頃には離婚しており、母は女手一つで俺を育ててくれた。病気がちで入退院を繰り返しており、今は家にいない。
しばらくお見舞いしてないし、きっと寂しがってるだろうな。今度花でも持って病院に行ってみるか。
「あ……」
そういえば、ここは記憶の中なんだっけ。病院の場所、思い出せないや。
どうやら記憶の中では場所の移動に制限があるらしい。そこに行きたければ別の記憶から行かなければならないのだろう。
しかし、やっぱ夢の中とは違うな。ちゃんと意識があって、葦原の言動を見るに他の人間もイメージ通り再現できている。なんか異世界みたいだ。異世界からまた異世界に行くなんておかしな話だけど。
上体を起こし、胡坐をかく。
状況を整理しよう。俺がここですべきことは、失われた記憶を取り戻すこと。そして、記憶の中に取り込まれないように細心の注意を払うこと。
ここは深層の記憶。さすがのレティもここには干渉できない。つまり、俺が記憶の宮殿に戻るには失われた記憶を取り戻すしかない。
「どっちにしろ思い出すしかない、か」
情けなく腹の虫が鳴る。
記憶の中でも腹は減るのか。案外不便だな。
溜め息を吐き、俺はキッチンへと向かった。
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