第7話 魔女っ娘探偵登場!

 クレーンの上に立つブランシュとダンプトラックの上に立つグレイス。彼女たちは双子かと思えるくらい容姿は似ている。銀色の長い髪と白い肌、そして1m以上あろうかという豊満な揺れる胸元は見分けがつかない。しかし、グレイスの頭には狐の耳がチョコンと飛び出ているし、その桃のような丸いお尻からはフサフサの尻尾が飛び出ている。


「出てきたな、ドジっ娘探偵アルヴァーレ。おや、今日は二人なのかな?」


 二人を見上げつつ問いかけるアリ・ハリラー。

 周囲の全員が魔女っ娘二人に注目した。


「アリ・ハリラーとその一派」

「許しませんわ!」


 二人は胸のポケットから、と万年筆を取り出した。その万年筆は見る見るうちに魔法のステッキへと変化していく。

 ブランシュの持つステッキは大きな緑色の宝石が、グレイスの持つステッキは大きな赤い宝石がその先端に輝いていた。二人はそのステッキを右手で握り、天へ向かってかざす。


「変身! アルヴァーレ!!」


 二人のユニゾンは周囲に響く。

 そして二人の体は眩しい光に包まれていく。


 紺色のスーツはいつの間にか消失し、そして下着の影も消えていく。

 二人は全裸になる。その体から溢れる光が強く大まかなシルエットしか確認できない。しかし、その豊満な揺れる胸元は眩しい光芒の中でも存在を誇示していた。


 その眩い光芒が消え去った後には、魔女っ娘衣装に身を固めたブランシュとグレイスがいた。


 半袖のブラウスとベスト。極めて短いミニスカートにロングブーツ。そして、魔法のステッキを握る手は肘まである白い手袋をつけている。


 ブランシュは緑と白、グレイスは赤と白の組合せの色使いだった。


「おい。アール・ハリ。双眼鏡を持っていないか」

「ない」


 アリ・ハリラーが、彼の隣にいるアール・ハリと呼ばれた人物に問うが返事はそっけないものだった。


「なあアール・ハリ、この角度……見そうで見えないんだよ。双眼鏡があればムフフだと思わんか?」

「何を見たいんだかな。紫の奇跡は任せる」


 その一言を残し、アール・ハリと呼ばれた小柄な男はその姿が見えなくなった。


「逃がさない!」


 ブランシュが魔法のステッキを振り、小さな火の玉を放つ。

 それはアール・ハリのいた場所で弾けて広がり、直径3メートル程の火炎となった。


「うわあ熱ちちぃ!」


 傍にいたアリ・ハリラーが頭を両手で庇って後方へと下がる。火炎はすぐに消え去ったが、そこにいたはずのアール・ハリの姿は無かった。


「残念。逃げられたか」


 悔しそうに歯ぎしりをするグレイスだったが、アリ・ハリラーは彼女を指さして抗議する。


「このドジっ娘探偵め! 火傷したらどうするんだ!!」

「知らない。変態犯罪者は黒焦げなってしまえばいいんだわ」

「ぐぬぬ。お前たち二人は素っ裸にひん剥いて、あんな事やこんな事やそんな事をやりまくってやる!」


 興奮したアリ・ハリラーが唾を飛ばしながらまくし立てる。しかし、グレイスはそれに極めて冷静に応えた。


「貴方一人でどうするの? 今は頼みのアリ・ハリラー軍団はいないみたいだけど」

「くっ!」


 アリ・ハリラーは眉をしかめる。頼みの部下がこの場にいないのは明らかであった。


 その時、隼人が一歩前に出てくる。


「俺達が相手をしてやるぜ!」


 デブ男がしゃしゃり出てきた。


「うひゃ~、旦那。やっちゃっていいんですよね。やりたい放題やっていいんですよね」

「でけえパイオツ! そそるぜそそるぜ」


 興奮したひょろ長男がアリ・ハリラーを見つめる。アリ・ハリラーはニヤニヤしながら頷いた。


「やって見せろ。お前達でやれるのならな」

「ごっつあんです。旦那!」

「ひゃはははは!」


 デブ男とひょろ長男は狂気の笑みを浮かべる。

 ピンクのツインテールは折り畳みナイフを開き、その刃を舐める。


「でけえ乳しやがって。泣きっつらの顔文字を刻んでやるよ」


 そして巨漢……いや巨女のデラックスがナックルダスターを取り出して右手にはめ込む。メリケンともいわれる打撃用の金属製武器だ。


「その可愛い顔。形が変わっちゃうねぇ。ふひゃひゃひゃひゃ」


 そして隼人は懐から小型の自動拳銃を取り出す。スパイ映画で有名になったワルサーPPKだ。スライドを引き撃鉄を起こす。その操作で薬室に弾丸が装填された。


 静かに二人を睨むスーツ姿の隼人。

 しかし、ひょろ長男とデブ男は興奮しきってケラケラと笑っている。


「子猫ちゃん。いや子狐ちゃん。高いところは危ないから降りておいで」

「俺達が可愛がってやるぜ」


 ひょろ長男はズボンのベルトを外し、鞭のように扱って床を叩く。

 

「ひひひ。俺が行くまでそこで待ってろよ。いひひひひ」


 下卑た笑みを張り付けたデブ男がダンプトラックの荷台へと上がってグレイスと近づいていく。そしてひょろ長男はクレーン車の方に取り付いて、器用にクレーンを登っていく。


 デブ男とひょろ長男の手が二人の魔女っ娘の脚に届きそうになったその時、ブランシュが魔法のステッキを振った。


「天の御子、地の精霊、風の御使いよ。今ここに其方の御力を示し給え。我が僕である空の竜よ。その牙を存分にふるえ!」


 詠唱と共に、倉庫内に突風が吹きすさび渦を巻く。

 続けてグレイスが魔法のステッキを振る。


「天の御子、地の精霊、炎の御使いよ。今ここに其方の御力を示し給え。我が僕である灼の竜よ。その牙を存分にふるえ!」


 空の竜と灼の竜。

 竜巻と灼熱の光芒が一体となって倉庫の中を蹂躙する。

 倉庫の天井は吹き飛び、中にあった車両は焼け焦げていくつかは発火して炎に包まれた。


 デブ男とひょろ長男、ピンクの刃物女とデラックスは吹き飛ばされつつ一か所に集められた。髪と衣類は焼け焦げていたが、殆ど火傷は負っていない様子だった。


「あら。ブランシュ姉さま。情けをかけられましたか? 誰も怪我をしていないみたいですけど」

「貴方もよ。グレイス。トラックは何台も燃えているのに、あのチンピラはほとんど火傷をしていないじゃない」

「お互い様ですわね」

「そうですわね」


 見つめあって微笑む二人の魔女っ娘。

 しかし、銃声が数発鳴り響く。


 発砲したのは風と炎の魔法を自前の結界で凌いだ隼人だった。

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