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 東京都千代田区霞ヶ関にその居を置く警視庁にて、先のような捜査会議の席が持たれたとき、蓮宮はすみや 叶世かなせは買い出しを終えてCAZEの施設に戻ってきたところだった。

 買い物袋を下げて戻ってきた私服姿の蓮宮は、しかし施設の前で歩みを止める。

 施設の入り口に腕を中途半端に組み、壁に気だるそうなまま背を預けたまま携帯端末を触っているベレー帽でロングスカートに薄手のアウターはロングコートでやや明るめに染められたロングヘアの人物に思い当たる節があったからだ。

「やあ、蓮宮くん」

「あれ?どうしたんですか。日奈円かなえさん。っていうか、いつ帰国していたんですか?」

 その人物は内閣情報調査室特別犯罪情報鑑識分室所属の、日奈円かなえ 仍生よるはだった。

「二日前にね。事件解決おめでとう」

「もう把握されてましたか」

「昨夜、たまたま捜査一課が犯人のところに詰めているところに通りかかったんだ。今警視庁に情報要請かけたところ。これから霞ヶ関行かなきゃ」

 日奈円は、それらすべてが自分の思惑であるにも関わらずまるで指示の塊を自分が受け止めたような口ぶりである。

「お疲れ様です」

 答える蓮宮の口調には警戒感はない。

「杜乃さんがああも頑なななのに、君は優しいねぇ」

「とんでもないです。今のところ、日奈円さんを警戒する理由がありませんし」

 蓮宮は、心に抱えた何かを無視して言う。

「それ、二人の食事かな?」

「そうです。杜乃もりののリクエストで、ラーメンを」

「いいねぇ。それもちょっと違うけど、少しは高校生らしい生活をしたほうがいいよ」

「そうですよね。ありがとうございます。…ところで、何か用件が?」

「いや、近くに寄ったから、いるかなーと思って鳴らしてみても反応ないから、これは蓮宮くんが外に出ていると思って、ちょっと待ってみたら、案の定、って感じ。もう行くよ。邪魔したね」

「いえいえ。入っていきますか?」

「鳴らして応答が乏しい以上、行くわけにもね」

「…すみません」

「いいよ。好かれてないのはわかっているし」

 そういうと、日奈円は姿勢を正して歩き出した。

「近いうち、ちょっと正式に訪問することになるかもしれない。協力要請って形だから、気にしないでおいて。って、伝えておいてくれるかな?」

「あ、はい。わかりました」

「ありがとう。それじゃ」

「失礼します」

 二人はすれ違って、蓮宮はパスを通してCAZEの施設内へ。 

 日奈円は紀麗が運転席に構える車へ。

 そのすれ違いは、別に初めてではなかったが、久しぶりではあった。

 その久しぶりの邂逅で、日奈円が蓮宮に背を向けて浮かべていた笑みの意味を知るものは、果たしているのか。それはきっと、本人だけだろう。

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