第14話

 ということで今回の対戦は……


「将棋だ!」


 これも一応は対戦型ボードゲーム。ほたるはコンピューターゲームは強い、それは認める。しかし将棋は先読みの勝負。ゲームのコントローラーを素早く、正確に操作するのとはわけが違う。


 悪いな、ほたる。今回は負けるわけにはいかないのだ。


 俺は小学生の頃「神童」と呼ばれクラスでナンバーワンの棋士だったのだ。そしてこの俺が考案した最強の戦法、真・鬼殺し。


 桂馬を高跳びさせて相手を切り崩す奇襲戦法で、この『馬』はつまり俺自身。『馬』が切り込み『ギョク』を取る。


『馬』で相手の陣地、つまりほたるの舞台フィールドに駆け上がり、『玉』を取るんだ。


 この『玉』はつまり「ほたるとのチュー」をゲットすること。


 これでもうチュリー君とは言わせない!


 向かい合わせに将棋の駒を並べて、いざ開戦。


 とりあえず対局の細かい説明はナシだ。将棋に詳しくない人には面白くないだろうし、そんな説明をしなくても俺とほたるの勝負がどうなるか……予想がつくだろう?


 俺の分身である『桂馬』が、ほたるの『玉』を落としに前進。盤面の中央で敵陣をうかがい、隙を見て切り崩す算段だ。


「じゃあ、あたしはここに『金』だ」


 慣れない手つきで駒を動かすほたる。ふと気付いたが、ほたるの手つきは素人そのものだが、駒の名前や動かし方は知ってるみたいだ。


「で、次はここにこう」


 どういうことだ? ノータイムで守りの布陣が出来上がっていくぞ?


「和馬、その戦法はもう古いんだ」


「なに!? 鬼殺しを知ってるだと?」


 俺の向かい側で、ほたるの身体がまばゆい光を放った。俺との対戦で強力なチート能力を発揮させる時の、全身が発光するアレだ。


 なぜだ、将棋でもチートが発動するのか?


「中軸の桂馬が泣いてるぞ」


「なんだ!? その全てを見通しているかのようなカッコイイ台詞は!」


 ほたるは「パチン!」と目の覚めるような音を立てて駒を指す。


「う……俺の桂馬が蹴散らされただと!?」


「そしてこう」


「まずい、形勢が逆転した! どんどん攻め込まれていく」


「さらに必殺、王手飛車角取り」


「ぐはっ! 王手でさらに飛車と角まで狙う強欲な一手だと? しかしここは『王』を逃がすしかできない。くそ、桂馬に続いて俺の飛車までがほたるの餌食に……」


「さらに追い打ちで王手角取り」


「容赦ねえ!?」


「鬼殺しは古い戦法なんだよ。これで和馬の守りは薄っぺらいメッキのような『銀』一枚だな」


「ぐうぅ、もう守り切れない。こうなったら最後の手段しか……」


「盤をひっくり返すのも古い手だぞ」


「なに! 読まれてる?」


 こんな古典的自爆技まで知っているとは!


「ほたるはどうして将棋ができる? ――っていうか、どうしてこんなに強いんだ? コンピューターゲームじゃないのに」


 昔、俺の親父が「女の子は将棋をやらないんだよなぁ」って言ってたのに。


「和馬はあたしの苦手そうな分野を探してるみたいだけど、そんなんじゃあたしの舞台には立てないな」


 と言ってほたるは盤上の「桂馬」をピンと弾く。駒が盤面から飛び出して、俺はまたしてもほたるの舞台から落とされてしまった。


 ほたるは約束のレタスチャーハンをほくほくと食べる。チキン弁当を二つも食べて、さらにチャーハンを平らげるとか、どれだけ食いしん坊なんだよ。


「いいじゃないか。あたしは好きなんだから」


 俺が得意のゲームでも勝てない、レトロゲームでも勝てない、将棋でも勝てない。こんなバグった……あ、いや難易度の高いヒロインをどうやって攻略したらいいんだ。


「ま、気長にやるしかないか」


 とりあえず、次の土曜日にほたるをどうするかを考えなきゃな。

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