らぶ☆ほたる ~エロゲの美少女ヒロインを召喚したら、思ってたのと違うんだけど?~
マンボウ次郎
第1話
気ままな一人暮らしって最高だよな。
俺の名前は、
勉強をするために大学なんて行きたくない。だったら好きなことを好きなだけして、でも親には迷惑をかけたくないから、高校を卒業してすぐに実家からテイクオフしたわけ。
まあ、お節介な姉は時々様子を見に来るけど。
家を出て、バイトはほどほどに、自由な一人暮らし。特にこれといった目的もなく過ごしているけど、とにかく俺は……
「エロゲがしたいんだよぉ!」
あ、俺はエロゲーム(通称エロゲ)が大好きな健全な男子である。ゲーム内で美少女たちと会話をして親密になり、ムフフな展開を楽しむ健康優良男子なのである。
決してリアルで彼女がいないとは言ってないぞ? いるとも言わないけど。
え? キモイ? 脳ミソがエロ虫に侵されてるんじゃないかって?
まあそう言うなよ、これが俺の活力なんだから。魚が水を欲するように、俺もエロゲを欲しているんだ。鳥が翼で羽ばたくように、俺もエロゲで人生を羽ばたいているんだよ。
よし、いいこと言った。
そして俺が今、夢中でプレイしているのがこれ。
『らぶ☆ほたる~二人の同棲日記~(初回限定版)』
それはエロゲーマーで知らぬ者はいない、名作中の名作だ。
作画、シナリオ、音楽、システム。すべてにおいて最高評価と言われる、エロゲ界の金獅子賞作品。
特にこの『初回限定版』は幻のソフトと呼ばれ、ゲームショップはおろかネット通販やオークションでも出回ってない希少なエロゲなんだ。今では誰も手に入れることが出来ない天然記念物と言ってもいい。
どうしてそこまで人気があるのかというと、他のエロゲとは一線も二線も画すほどメインヒロインが可愛いからである。容姿端麗、スタイル抜群。性格よし、器量よし、それでいてちょっとドジなところがある、まさに王道の中の王道をいくキャラ。
長く美しい金髪は、派手だけれどもどこか気品がある。ほどよく実った胸も、大きく自己主張しながらそれでいて嫌味でない。細くくびれた腰回りに両手を当てて、そこから黒いニーソックスを穿いた足がスラっと伸びている。
全体的に細身ではあるけれど、女性特有の柔らかさを感じさせるスタイル。
そして何よりも、白い肌に映える碧く透き通った瞳は、どんな男でも吸い込まれてしまいそうなほど可憐で美しくてビューティフル。二重表現でも三重表現でも言い足りないくらいに完全無欠のパーフェクト。
そんなこの世のものとは思えないほど完璧な美少女ヒロイン、望月ほたるが――
俺の目の前にいた。
――俺の目の前にいた、
だと!?
いる。いるよ。ここにいる。ちゃんと本人が目の前にいる!
待て待て、ちょっと待て。よく考えろ、まずここは俺の家だ。一人暮らしの俺の部屋、辰野コーポ二〇二号室のリビングルームだ。
ベッドとテーブルとソファと無駄に大きいテレビ(四十二型)と壁に寄せてある本棚(ゲームしか置いてない)がある、築十七年のアパートで八帖ちょっとの部屋。ガラス扉を隔てた向こうにはキッチンと廊下があって、バストイレが別々になってるから家賃がちょっと割り高の俺の居城。
ここで俺は『らぶ☆ほたる』をじっくりプレイしていたのに、そこに突然待ったなしで、
「望月ほたるがここにいるだと!?」
清楚な美少女、素直で明るいヒロインは眩し過ぎるほど可愛い。この世のものとは思えない美しさと可憐さ、完璧なスタイルで見下ろす望月ほたるに、俺は思わずひれ伏した。
すると望月ほたるは、苺のように愛らしい唇を開いてこう言うのだった。
「なんだ、このカスは」
――え?
思わず見上げたよ。土下座ポーズから頭を持ち上げると四十二型テレビの前に仁王立ちしてる美少女がいて、短いスカートから細い足がスラリと伸びてて、ああ、その付け根からストライプ柄の下着がチラっと見えそう――って、
「ちょ……どこ見てんだよ、このエロ!」
美少女が片足を持ち上げたもんだからチラリズムを超越してストライプの下着がモロに見えたような気がした時には、俺の頭は黒いニーソックスのお足様に踏みつけられて額を床に強打して痛えよ! って母さんこれは夢ではないです。
おかしいな、これは夢じゃなければゲームでもないぞ、絶対リアルだ。
ちょっと、ゲームの美少女ヒロインがなぜ俺の前にいるのか、その経緯を思い出す時間をもらっていいですか?
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