第三話 拷問?

「貴様、なんのつもりだ? どういう目的でシータ様に近づいた!」


 とりあえず街まで連行され、俺は石造りの牢屋のようなところで、ダミニから尋問を受けていた。

 気の強い女は嫌いではないが、ここまでの女性はちょっとどうかと思う。

 まあ往々にして、女騎士というのはこういうモノなのだろう。


「どういう目的も何も……襲われていたからだが?」

「いいや! あのヤザークもお前がけしかけたんだろう!? 貴様、どこの回し者だ!」


  俺の知る限り、人間に魔獣を従えることができるという話は聞いたことがない。

 仮に俺が魔獣を従えることができるというのであれば、逆に俺を厚遇するべきじゃないだろうか?

 ………なんてことを考えてしまうくらいには、どうでもいい取り調べだ。


 俺の無罪など、ものの数時間あれば晴らすことができる。

 俺を拘束しておいて、俺の住んでいた町まで使いでも走らせ、俺が今朝出立したことを調べて貰えばいい。


 ………だけど父さんと母さんに心配かけそうだしなぁ。

 いっそ身寄りがなければ、こんなところぶち壊して逃げるのだが、流石に親族を巻き込むわけにはいかない。

 と、いったわけで俺は今こうなってるわけだが、命を助けてやったのになんという仕打ちだろうか。………疑うのが側近の仕事とはよく言ったものだ。


「シータ様には、夜までには解放してやれと言われているが………このままぶち込んで置いてもいいのではないか?」

「ご主人様の命令だろ? それなら従えよ」

「うるさいっ! しかも貴様、よりにもよってラーマと名乗るなど! シータ様を籠絡するために偽名など使いおって! 貴様、本当の名前を言えっ!」


 いやいや、だからラーマですが?

 

 と、答えたいのを我慢する。何を言ったところで無駄なのだからしょうがない。

 早く夜が来るのを待つばかりである。


「だんまりか。よかろう、ならば鞭だな」

「えぇ………」


 拷問ですか。助けてやった結果が拷問ですか。まったくもって理不尽極まりない。

 

 ダミニは少し外に出ると、またすぐに鞭を右手に戻ってきた。あと縄。


 縄……? なぜ、縄?


「貴様、少しじっとしていろよ?」

「あ、はい」


 なんだかものすごい気迫を感じて、俺は素直に従う。

 するとダミニは、ものすごく真剣な表情で俺の体をどんどん縄で巻いていく。

 

 おお、すごい手慣れてるなぁ。

 まるでいつもやってるみたいな………な?


「よしっ!」

「ん?」


 なんだか物凄くいかがわしい格好になってますよねコレ。

 しかも手首が天井に吊り下げられたし。


「よし、ではその状態で前屈みになり、尻をこちらに向けろ」

「ねぇ、おかしくない? おかしいよね? おかしいよ!」


 いいから向け! っと、グイグイやられる。


「えいっ!」


 ペシーン! ペシーン! ペシーン!


「おぉう………! 気持ちいいっ!」


 そういえば忘れていたが、この少女騎士、ヤザークに傷ひとつ付けることの出来ない非力な少女だった。

 そんなダミニが、俺に思い切り先が鉄でできた鞭を振るったところで、若干気持ちいい程度の刺激がくるだけだ。


「ハァハァ………ど、どうだっ! 白状するがいいっ! ハアハア………それともこの苦痛が気持ち良くなってきたかっ!」


 なんかノリノリだし、目的変わってきてるよね!? 鞭を振るいながらハァハァ言うやつ初めて見たわ。

 しかもすごく真剣にやってるから、すごい申し訳ない。

 1ミリも痛くないので白状もクソもない上に、とても気持ちいいです!

 思わず声が出てしまいそうになるぐらい、ちょうどいい刺激だった。

 風呂に入った時の「あ゛ーー」的なヤツ。


「ダミニー? 取り調べ終わったのー?」


「気持ちいいのかっ!?」

「き、気持ちいいです………!」


 だから気付かなかったのだ。

 まさかここに人がこようとは。


「え?」


 シータと目が合う。


「「あ………」」


 はい、終わった。



 ––––––––––––––––––––––



「ダーミーニー?」

「は、はいっ! ななな、なんでございましょうかシータ様ぁ!?」

「弁明を聞こうかしらぁ?」


 その後、俺は牢屋から解放された俺はシータの部屋にお招きされていた。

 ついでにダミニも。


「あなたは、取り調べと偽ってナニをしていたのですかぁ?」

「い、いえ! アレはれっきとした取り調べでございまして、苦痛を与えることで……」

「気持ちよくなれると?」

「はいそうなんです。じゃなくてっ! えと、苦痛を与えることで白状させようと………」


 今思いっきり、「はいそうなんです」って言ったぞこいつ。

 

 現在ダミニは、ナーガラージュの苦行僧たちが苦行に使う、トゲトゲの床に座らされている。

 まずそれを持ってるっていう事実が怖い。


 まあ、なんだ。

 因果応報というヤツだな。次のユガではまともな人間に生まれてくることを願うよ。


「でもね、ダミニ。私聞いたのよ?」

「な、何をですか?」

「最後にあなた………気持ちいいのかっ!?って聞いてたでしょう?」


 早く認めちゃえよ。

 もう無駄だぞー。

 ………とはいえ、こっちも気持ちよくなってたんだから何もいえない。

 なんなら矛先を向けられたらヤバい………というわけでもない。


 だって弱すぎて気持ちよかっただけだし。

 そっちのガチの変態とはものが違うのだ。


「まあいいわ。いつものことだし」

「いつもああなのか?」

「ええ………そうなんです。今回は敵意が凄かったから大丈夫かと思ってたのですが……」


 見事に外れたわけだ。


「それで? 俺の疑いは晴れたのか?」

「晴れるわけないだろうこの下郎っ!」

「ダミニ?」

「すいませんなんでもありません許してください」

「よろしい!」


 何を見せられているんだか。

 だがこれで釈放、ということでいいんじゃないだろうか? 疑いは仮だが晴れたし、もうやることもない。

 早く冒険者ギルドで登録がしたい。


「じゃあ俺は行くんで。さようなら」

「えっ? お父様がお礼がしたいって言っているのだけど、いいのかしら?」

「いえ、結構なんで」


 シータの父さんはお金持ちだが、そういうのってしがらみが多そうだ。

 捕まらないに越したことはないだろう。


「そう言わずにっ!」

「いえ、間に合ってます」

「豪華なご飯もあるわよ?」

「だが断る」

「またまたぁ」

「お腹を空かせた息子と老いた母親が家で待ってるんです………」

「まあ………それは大変!」

「そういえば取り調べ室で今日またを出てきたばっかりと言っていたな」


 ちっ! このアマぁ、これ見よがしに足を引っ張りやがって。

 だが逃げられそうにもない。


 ここは大人しく………


「〈現し身よ、ここに現れよアヴァターラ〉」

「えっ!?」


 逃げるとしよう。



––––––––––––––––––



 紆余曲折はあったものの、やってきました冒険者ギルド。

 中に入ってみれば喧騒で満ち溢れている。

 よって暴れるものや、仲間と話しているもの、喧嘩をしているものもいた。


「おぉ………」


 この騒がしさを楽しみにしていたのだ。酷いことを言うようだが、この『枯れ葉も山の賑わい』といった感じが良いのだ。

 早速カウンターにいき、受付嬢に話しかける。


 さて、受付嬢とは古今東西、美形かつ扇情的と相場は決まっているのだが、ここはどうだろうか………。


「なんのようだい?」

「え?」


 シワシワの爺さんだった。

 

 いや待て待て、それは違う。

 いくらなんでもそれは違うぞキミぃ。

 それはもう受付嬢うけつけじょうじゃない、受付爺うけつけじいだ。


「ああん? こっちは忙しいんだよ、子供の遊びなら帰った帰った!」


 ほう、言うじゃないか。

 この俺が、元魔王と知っての狼藉か。


「いや、冒険者登録に来た」

「はぁ?」

「冒険者登録に来た」


 クソじじいは驚いたように目を見開く。

 少しの間があって、急に笑い出した。


「わっはっはっはっはっ! お主のようなガキがか? 寝言は寝て言えっ!」


 おい。俺だから傷つきはしないが、これが純粋な子供だったらどうする。

 こんなの夢ぶち壊れて田舎で引きこもるレベルだぞ!?


「少なくともお前が思っているほどガキではないと思うがな」

「ふん、どうせ田舎きら出てきた15のガキだろ? 村じゃ1番だったかもしれないがここじゃそうはいかねぇ。

 いいか? この街の常識はな、15になったら引退冒険者に弟子入りして、鍛えてから18くらいで冒険者になるんだよ! 

 自惚れおのぼりさんにギルド登録なんかさせられるかってんだっ! ペッ!」


 唾吐きやがった。

 しかもさりげなく常識を教えてくれるとはさてはツンデレというヤツだな?

 

「お前の言うことはわかった」

「そうか、ならとっとと………」

「で、冒険者登録したいのだが」

「ワシの話聞いてたぁ!?」

「もちろんだ」


 伊達に前世の頃から死ぬほど物覚えが良かったわけじゃない。4人から同時に話しかけられても全部リピートできる。


「そうかぁ………よっぽどの世間知らずか。そんなに自信を砕かれたいかぁ? いいだろう、手前の冒険者登録、認めてやろう。

 ただし………試験は受けてもらう」

「ほう、どんな内容だ?」


 試験ときたか。たしかに良い折衷案ではある。だが俺の知らない知識を問われるようでは困るのだが………。

 すると受付の奥からテッテッテッ、と誰かが駆けてくる音がする。

 じじいはドヤ顔をする。


「ワシとバトルじゃ!」


 その直後、受付の奥からバインバインと胸を揺らして美人なお姉さんが出てきた。


「もう! ギルドマスターッ! こんなところで油売ってないで仕事してください!」

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