第14話 カリフェースの査察官
五月が終わり六月に入った時、カリフェースからロイランが帰還した。私は午後のお茶の一時を放り投げ、急いで王の広間へ向かった。
交渉は?結果はどうだったのかしら?私は玉座で緊張しながらロイランを迎えた。妖艶な外務大臣は一人では無かった。
「女王陛下。只今カリフェースから戻りました。国際条約に関するご報告を致します」
ロイランが交渉結果を報告してくれた。カリフェースは我が国タルニトの加盟希望を基本的には歓迎している。
だが、やはり小国の自己都合の為に条約を利用される懸念も捨てきれない。そこで、カリフェースはタルニトが加盟に相応しい国かどうか確かめる為に、査察官を送ってきたと言う。
その査察官はロイランの後ろから一歩前に進み出た。
······若い。私と同い年くらいじゃない?若々しい査察官は、カリフェースの官服を纏い姿勢良く私に敬礼をする。その瞳は、強い意志を宿した色をしていた。
「女王陛下。私はカリフェース査察官、モンブラと申します。貴国の条約加盟を判定する権限をウェンデル王から預かって参りました
」
モンブラと名乗った査察官の凛々しい物言いに、私は心を覗かれたように緊張した。駄目だ。この人には嘘や誤魔化しは一切通用しない。
理由は説明出来ないが、私は直感(女の)でそう感じた。ふとロイランを見ると、何故か申し訳なさそうな表情をしていた。
「申し訳ありません。女王陛下。手っ取り早くウェンデル王と寝てしまえば万事解決と思ったんですが、王の背後に立つ黒髪の警護者に睨まれ、手を出せませんでした」
ちょいいぃっ!!お水の姉ちゃんよぉ!!今、今アンタの隣にこの国の未来を決める権限を持つ御方が立ってんでしょうが!!
その人の前で、何を不正な方法を働こうとした事を堂々とバラしてんの!?滅ぶよ?アンタの一言でこの国、五年後に滅ぶよ!?
「でも安心して下さい。女王陛下。モンブラ査察官は判定の為に暫くこの国に滞在致します。私の技巧の全てを駆使してこの査察官を落として見せますわ」
だからああぁっ!!今目の前にその査察官がいるでしょう!?技巧ってなんの技よ!?夜か?夜のアレの技か!?
それ披露する前に、たった今この国の心証最悪になったわ!間違いなくモンブラ査察官に条約加盟を却下されるわ!!
「······女王陛下。ロイラン外交大臣が仰った通り、私はこの国の滞在致します。重要や会議や会見にも同席させて頂きますが、構いませんか?」
短く咳払いしたモンブラ査察官は、真っ直ぐ私を見る。私は勢いよく何度も頷く。そんな事全然オーケーです!
それよりも、今のお水の姉ちゃんの暴言を見逃してくれますか?まだ条約加盟に望みはありますか?
その時、王の間の扉が開かれ、呼んでもいない男が現れた。
「女王陛下。カリフェースから来ると言う査察官とやらの接待の用意が出来ました。私の息のかかった娼館の美女達。賄賂用の宝飾品
。準備に抜かりはありません」
てめぇぇぇっメフィス!!何を不正丸出しの計画をだだ漏れさせてんだぁ!!しかもそれ、まるで私が指示したみたいな言い方じゃない!!
頼みもしないのに、お前が勝手に企んだな
!?どうすんのこの状況!?モンブラ査察官が険しいお顔をされているぞ!?
そして、再び王の間の扉が開かれた。大柄な男が大股で歩いて来た。
「女王陛下!なんかカリフェースから喧嘩売りに来た奴が来るって聞いたッス!任せて下さい!自分が裏庭でソイツやき入れてやるッス!」
······パッパラ。後で裏庭に来なさい。女王である私が直々に己にヤキ入れてあげるわ。
破局の連鎖は終わる気配を見せず、扉は三度開かれ、財務大臣タインシュと近衛兵長ナニエルが姿を現した。
「女王陛下。補正予算の追加をお願いに参りました。王立図書館の予算を五割増にして頂きたい。私の趣味の書籍を揃える為······いえ
、王立図書館の質と権威を向上させる為に」
······タインシュ。後で図書館にいらっしゃい。図書館にある一番分厚い本の角でアンタの後頭部を殴ってあげるわ。
「アーテリア!ごめんよ遅刻して!昨日の夜
、手淫するのを忘れて寝ちゃって!急いで戻って済ませて来たんだ!」
······ナニエル。好きなだけ手淫しなさい。でもね。ただね。あのね。ここは公の場なの
。私女王なの。あなたは臣下なの。
臣下達の暴走に、私の頭で何かが切れそうになった。
······この、このクズ共がああぁっ!!
心の中で発狂した虚ろな私の両目は、偶然メフィスを捉えた。
······そうだ。この臣下達を任命したのはメフィスだ。コイツに全て責任を取らせよう。あの。モンブラ査察官。
今直ぐこの阿呆宰相を打ち首に致します。それでどうにかご容赦を。なんとかご勘弁を
。
モンブラ査察官に気づいたメフィスが、査察官に近付く。駄目だ。あのクズ宰相が査察官に口を開く前に、奴を打ち首にしないと!
「ぐふっ!?」
······それは一瞬の光景だった。吐血したメフィスの口から吹き出た大量の血が、モンブラ査察官の顔を直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます