第39話
ユウマがリーダーと戦っている間に、リリアーナはゴーレムとまともに戦えるまでに成長していた。
「せい!」
そして、確実に足へ拳を撃ちこんでダメージを蓄積させていく。
洞窟でのマルクとの戦いではゴーレムのダメージを操者が治療する様子がみられた。
しかし、今回の操者にあたるリーダーはユウマが釘付けにしているため、治療を行えない。
「私の力では壊しきれない……」
ダメージが通っている感覚はあるものの、ゴーレムの耐久力を上回るにあと何十何百発と撃ちこむ必要があることを感じたリリアーナはぐっと奥歯をかみしめる。
このままではだめだと、リリアーナは覚悟を決めた。
「全身の魔力をこの一撃に!」
エルフであるため魔力量だけは高いリリアーナ。
その彼女が最高最強の一撃を放つために、拳に魔力を集中させていく。
通常は体中に魔力を流し、攻撃と防御の両方に振り分けるものである。
しかし、彼女は防御を捨てて攻撃に――この一撃に全てかけるつもりだった。
「はああああ!」
リリアーナは足を止め、目を閉じて集中すると、魔力を最大限に高めていく。
彼女の狙いを知った者がいれば、恐らく十人中十人がその行動を止める。
敵前で防御を捨てるなんて馬鹿げていると。
しかし、彼女は知っていた。
ユウマであれば止めることなく、無条件で自分のことを信じてくれると。
そしてその拳でやっちまえと言ってくれることを!
「GAAAA!」
ゴーレムの拳が無防備なリリアーナに向かって勢いよく振り下ろされる。
魔力を集中させている彼女はゴーレムの攻撃を避けることはできない。
しかし、ゴーレムの攻撃は何者もとらえることはできずに、ただただ地面に撃ち込まれた。
「――遅いです、さようなら」
ひたりと冷たい表情でそう言い放ったリリアーナはほとんどの魔力を拳に、残りの魔力を足に集中させていた。
ゴーレムの攻撃を避けるための力を残し、残りを全て攻撃に割り振る。
「やあああああ!」
ゴーレムの懐に踏み込んだ彼女の拳はゴーレムの胸のあたりに思い切り突き立てられた。
勢いは普通、ゴーレムの身体に傷もつけられていない。
しかし、次の瞬間ゴーレムは胸のあたりから爆発し、中にある核も木端微塵に砕け散った。
「ふう……お粗末様でした」
ゴーレムの残った部分もガラガラと崩れていき、勝利を確信したリリアーナはそう呟くとゴーレムに対して一礼をした。
この戦いが、また一歩自分を前に進めさせてくれた――そのことを感謝していた。
「ほっほっほ、嬢ちゃんもなかなかやりよるわい。あれは魔闘拳というやつじゃな。どれ、わしも久しぶりに……ふん!」
リリアーナの活躍を横目に入れたタイグルがふっと微笑んだあと、すっと纏う空気を変え、気合を入れると筋肉が一気に膨れ上がる。
若い頃の彼を知っているものであれば、まるで全盛期のタイグルが帰ってきたようだと口にするほどに、鍛え上げられた肉体がそこにはあった。
リリアーナが魔力と腕力を組み合わせてゴーレムを倒したのとは異なり、タイグルのそれは純粋な筋力のみ。
「GUOOOO!」
「ぬおおおおおおおお!」
振り下ろされるゴーレムの拳に対する反応もリリアーナとは異なり、正面から迎え撃つ。
巨大な拳に対して、タイグルの純粋な力の拳。
それが衝突する。
ドガアアアアンと大きな音が周囲に響き渡る。
この頃には周囲の住民も気づいて、外に出てきていた。
ニヤリと笑うタイグル。
「GU、GAAAAAA……!」
衝突した場所からピキピキとヒビが入り、それは広がり、亀裂が身体全体に巡っていく。
「ふう、なかなかじゃったよ」
そして、身体だけでなく核までもが砕け散って、ついにはゴーレムが崩壊する。
決着がつくと薄い煙をまとうタイグルは元の年相応の身体へと戻っていた。
これで残るはユウマとリーダーの戦いのみとなる。
「は、ははっ、これはすごい……まさか私の作り出したゴーレムが二体とも拳で撃破されるとは思ってもいませんでしたよ」
思わず乾いた笑いを浮かべるリーダー。
自らのゴーレムが倒されるにしても、想定外の倒され方であったため、驚きを隠せないでいる。
「できれば、これで降参してくれると助かるんだけどな」
ユウマは右手に持つ石を軽く手遊びしながらそんな提案をしてみる。
「ははっ、まさか。持ち駒が少し負けた程度で私が負けを認められるわけがないでしょう? それに――準備は整いました」
まだ負けを認める気は一切ない様子のリーダーはそう言って地面に手を当てる。
先ほどの二体の時とは異なり、祈りを捧げるように両手で。
「いでよ、デビルゴーレム」
先ほどは赤い魔法陣が浮かび上がったが、今度はどす黒い、しかも闇の力を持った魔法陣だった。
魔方陣がうねりを上げて魔力を錬成したそのゴーレムの身体は黒よりも深い闇色でできており、サイズはリリアーナたちが倒したそれよりも巨大で、硬度は高く、内包された魔力も強大になっている。
つまるところ、リリアーナの魔闘拳であっても、タイグルの腕力であっても壊しきるのは難しい。
「さて、二人が頑張ってくれたからこいつは俺一人で頑張ってみるか。”展開、石剣槍”」
とりあえず三種類の攻撃方法を試してみる。
「その程度の攻撃が効くはずがないでしょう」
薄く笑ったリーダーの言葉のとおり、石も剣も槍もあっさりと弾き返されてしまう。
「なるほどな。じゃあ、そろそろ俺自身が戦ってみようか」
攻撃が通らなかったことを嘆く様子のないユウマの腰には一振りの武器が現れていた。
「見たところ、あなたは先ほどまでのような手品を使って戦うタイプなのでしょう? 前衛タイプであるようには見えません。そのあなたがどうやって勝つというのですか?」
リーダーの指摘は的を射ており、これまでユウマがまともに前衛として戦ったことはなかった。
「――さて、それはどうかな?」
しかし、ユウマの顔には余裕と自信がありありと浮かんでいた。
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