第26話
「――にわかには信じがたいお話です」
姿勢よく座るマリアスはかたい表情でユウマを見ている。
話を聞いた今、どこまでが本当のことなのかと懐疑的になっている。
「ほっほっほ、ワシは信じるぞ。なにせその方が面白いからのう」
笑顔で茶をすするタイグルは話を聞く前からユウマを信じると決めていたため、疑いの言葉をかけることはなかった。
「まあ、信じてもらっても疑ってもらってもどっちでもいいさ。どう思われても俺が言うことは変わらないからな。それにこれが本当の話かどうかはリリアーナが知っていてくれるからそれで十分だ」
「ユウマさん……!」
この世界に来て、心を許せる存在がリリアーナだけであり、彼女も信頼できる人物はユウマだけであるため互いに互いを大事に思っていた。
「ほっほっほ、仲が良いようで羨ましいのう。マリアスは信じておらんでもお主たちに不利になるようなことはせんし、少なくともワシはお主らの味方じゃから安心するとええ」
そう言うと、タイグルはニカッと笑って拳を前に突き出す。
「ありがと」
「ありがとうございます」
ユウマも拳を前に出し、リリアーナも同じく拳を前に出して三人の拳が軽くぶつかる。
そして、三人が視線をマリアスに向けた。
「うぅ、そ、そんな目で見ないで下さいよう」
三人はキラキラと輝いた目をしており、仲間に入らないのか? と確認を求めるように見ている。だからこそマリアスは困ったように視線を泳がせる。
「っ……わかりました! わかりましたよ! そんな目で見られて助けないって言ったら、まるで私が悪者みたいじゃないですか! ほら!」
やけくそ気味に立ち上がったマリアスも拳を前に出して四人の拳がぶつかりあい、これが約束の代わりとなる。
「それで、お前さんたちはこの街でどうするつもりじゃ? ここまで逃げ延びたのはいいとして、ここで何をしていくか決めておるのか?」
その質問にユウマとリリアーナは顔を見合わせて頷きあう。
「決まっているさ。俺たちは冒険者、冒険者として色々な依頼をこなしてこの街での生活を楽しむ!」
前の街ではいずれ追っ手がかかると予想して動いていたため、そのあたりの根回しや準備が優先だった。
「ですね! 色々な魔物と戦って、たくさんお金を稼ぎたいです!」
これまでお金に苦労することが多かったリリアーナはそんな素直な気持ちを口にする。
「ふむふむ、この街ならたくさん依頼があるから、お主たちの望みもかなうじゃろうて」
タイグルは二人の微笑ましい希望を聞いて笑顔になっていた。
「コホン――確かに多くの依頼がありますが、それだけにたくさんの冒険者が滞在しています。もちろん優秀な冒険者は難しい依頼を受けることはできますが、実績のない方には……」
「マリアス、少し意地悪な言い方じゃのう。まるで二人には実力も実績もないように言っておる……で、どうなんじゃ?」
タイグルも面白そうな二人であるという感覚はあったが、実力に関しては定かではないため、興味津々といった表情で二人に尋ねる。
「どうなんだろうな。ランクは少しは上がってるけど、二人ともDランク。強いかどうかは、なんとも言えないな」
「そう、ですね。二人で魔物と戦ったことはありますが、それ以外だと街から逃げ出す時に兵士の方たちと戦ったくらいですねえ」
二人の実力はランクでは証明できないと困ったようにユウマとリリアーナは互いの顔を見て苦笑する。
そのあたりは先ほどの説明でも話したことだったが、どちらにしてもユウマとリリアーナの実力を測ることはできない。
「ほっほっほ、それなら実際に見せてもらうのが一番手っ取り早いのう。下の訓練場は空いておるか?」
「空いてると思いますけど……――タイグルさん、まさか」
「うむ、そのとおりじゃ!」
「はあ……穏便にやって下さいよ?」
穏やかに笑うタイグルと痛む頭を押さえるマリアスの間で何やら話が進行しており、ユウマとリリアーナは置いてけぼりをくってしまう。
「なあ、あんた。訓練場とか実際に見せるとか言っているけど、俺たちに戦えっていうんじゃないよな?」
「うむ、そのとおりじゃ。察しがいいようで助かる」
当然だと頷くタイグル。マリアスは既に止めても無駄だと諦めている。
ユウマとリリアーナが抗議をしようとしたが、タイグルは素早く部屋を出てしまい、戦う流れができあがってしまっていた。
「お二人とも申し訳ありませんが、タイグルさんのわがままに付き合ってあげて下さい。現役を引退されてから色々なことに張り合いがなかったのですが、お二人に会ってから久方ぶりに生き生きしているようなのです」
まるで自らの祖父のために動く孫のような心境でマリアスは深く頭を下げていた。
「はあ、わかったよ。でも、俺の戦い方だと手加減ができないけど大丈夫かな?」
「確かに、あの方法だと一発で死んでしまうかもしれませんね……」
「タイグルさんはああ見えても元腕利きの冒険者で、今でも修練は積んでいるようなので大丈夫ですよ!」
にっこりと笑ったマリアスが太鼓判を押してくれるが、自分の能力を思い出しながらユウマは大丈夫かなあと再度呟きつつ、タイグルに続いて部屋を出ていった。
リリアーナは楽しむようにその後を追う。
「……だい、じょうぶ、ですよね?」
部屋を出るのが一番あとになったマリアスは不安そうにそう呟いた。
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